第五話:霞む月
暗い夜だった。あれだけ晴れていたというのに、いつの間にか雲が現れていて、地上を弱々しく照らす月の光さえ遮ってしまっていた。僕は地面に腰をおろし、そんな空を見ていた。
「そんなところにいると風邪ひきますよ。」顔を上げると、癒し手が寒そうに手をもみながら立っていた。
「あなたは、えっと・・・・・・。」
「マリアです。」癒し手は微笑んでいった。
「マリアさん。僕はイェリシェンです。あの、何か用でしょうか?」
「たまたま通りかかったら、何か考え込んでいるようでしたので。」マリアさんは言った。
「星を見てただけです。」
「曇っているのに?」
「あ・・・・・・。」マリアさんはくすくすと笑った。僕は頭をかいた。
「先ほどのことを気にしているのですか?」質問というより、確認するような口調だった。僕は答えないでいたが、マリアさんは構わず続けた。
「あまり気になさらないほうが。ラビさんはあの通り、少し心を病んでらっしゃいますから。」
「確かに、彼は少しおかしいかもしれません。でも、あの人は僕を知っているようだし、彼の言った事にも心当たりはあるんです。」
「心当たり?」マリアさんは聞き返した。僕はうなずいた。
「彼は僕を悪魔と呼んだ。そして僕は、人に忌み嫌われる魔術を使って、人を殺したことがある。無抵抗の相手まで。」
「あなたが人殺しを?でも、そんな風にはとても見えません。」
「でも、事実です。僕は人を殺した。しかも笑いながら。クリスから聞いたんです。僕はその時笑っていたと。僕にはその時の記憶がありません。それどころか、クリスに助けられる前の記憶すらない。僕は怖いんです、自分が。今度意識が途切れた時、自分が何をしてしまうのか。不安で押しつぶされそうなくらいに。」僕は空を見上げた。月は相変わらずどんよりとした雲に覆われていて、今は月の輪郭すら定かではなかった。
「すいません。こんなこと言われても、困りますよね。忘れてください。」僕は居心地悪くなって、立ち上がろうとした。
「私も、不安なんです。」マリアさんはぼそりと言った。
「私、自分から志願したんです。心に傷を負った人の治療。私たち癒し手には、体の傷を癒やすことはできても、心の傷は専門ではありません。それでも、教会の教えは人の心をいやすことができると信じて、ラビさんの治療に志願しました。でも・・・・・・。」そこまでいって、マリアさんは口をつぐんだ。僕は座りなおしながらそれを引き継いだ。
「なかなかうまくはいかない・・・・・・?」マリアさんは悲しげに頷いた。
「正直、信仰を疑うこともあります。人に癒しなどもたらすことなど無理なんじゃないかと。でも、私には信じることしかできません。ただ神を、教えを、癒しを。人も皆同じではないのでしょうか。ただ、自分を信じるよりほかに。」そういってマリアさんは空を見上げた。雲に隠されている月を見るように、遠くを見つめて。
突然、叫び声が響いた。
どうも、ジョンです。とりあえず、謝罪をば。
土日にUPできなくてすいません。とりあえず、早くあげなきゃということで、ずいぶんと短いのになってしまいました。不言実行はできなくとも、せめて有言実行はできるように、今後も頑張ろうと思います。とりあえずは、次の土日までに一話。