第四話:傷痕
馬車は舗装されていない、がたがたする道を進んでいた。街道はイグリスから離れるにつれ荒れ始めていた。ベルデンに向かうにつれて木々が見え始め、道の両側は森に囲まれ、左手は山、右手は斜面になっていた。
僕は荷馬車の後ろに座り、足をぶらぶらさせて後にした道をぼんやりと眺めていた。
「考え事?」クリスが背後から声をかけた。振り返ると、クリスは僕の後ろに立っていた。クリスは隣に腰をおろした。そして右手に持っていた林檎を僕に差し出した。僕はありがとうと言って林檎を受け取り、一口かじった。
「おじさんがくれたんだ。」クリスは自分の分のリンゴをかじりながら言った。
「へぇ、後で請求されないといいけど。」僕はぼんやりと答えた。クリスはクスリと笑い、また一口かじった。僕もさらに一口かじった。
「ねぇ、何を考えてたの?」リンゴを食べ終えると、クリスは同じ質問を繰り返した。
「占いのこと。あのおばあさんは僕の過去は暗いといった。僕は山賊を惨殺したうえ、黒魔法まで使った。どう考えても自分がいい人だったとは考えられない。このまま過去を求めたら、そのうち自分が起こした罪に直面するんじゃないかと思うと、怖くて仕方ないんだ。」森から視線を下げて、自分の両手を見つめた。束の間、血まみれの両手が見えた気がした。クリスは片手を僕の肩に置いた。
「きっと大丈夫よ。過去のあなたも今のあなたも、同じ人なのだから。イェリシェンが悪人なんてこと、ありえないわ。」そういってクリスは僕に笑顔を見せたが、それはどこかしら不安げな笑みだった。
「ゴブリンだ!!」突然、前を進む馬車から叫び声が上がった。その叫び声に続いて、弦が震える音と矢が空を切る音が聞こえた。僕とクリスは顔を見合わせてうなずくと、馬車から飛び出した。僕は剣を抜き放ち、クリスは弓を手に取った。
「伏せて!」突然クリスが叫び、僕の頭をつかんで下げさせた。次の瞬間、髪の毛を矢がかすめた。クリスは片膝をついて矢を番え、矢が飛んできた方向に素早くはなった。弓が唸り、次いで小さな叫び声が上がった。
「流石」僕が小さく称賛すると、クリスは片頬を吊り上げた。
僕らが馬車の前に回ると、幾人かは手に武器を持ってゴブリンの襲撃に備えていた。馬車は進んでいるが、積み荷があるためにその歩みは歩くより少し早いくらいに過ぎず、馬の体力的にせかすこともできなかった。
「何事ですか?」僕は商人の頭、バルドさんに尋ねた。
「ゴブリンだ。あいつら、積み荷を狙ってやがる。」
「誰かけが人は?」クリスが聞いた。その間にも、森のどこからか矢が飛んでくる。
「最初の攻撃でボヅがやられた。生きちゃいるが、早く手当てをしないと危ないかもしれん。」また矢が飛んできて、味方の一人が悲鳴を上げた。幸い、かすめただけらしく、罵り声をあげてでたらめに矢を放った。他の物たちも続けて矢を放った。
「ばか野郎、矢を無駄にすんな!あっちは盲滅法うってるだけだ。矢が届く範囲まで打つんじゃねえ」バルドさんが叫ぶと、男たちは矢を射るのをやめた。クリスは地面に刺さった流れ矢を引き抜くと、先ほど罵り声をあげた男に聞いた。
「ねぇ、敵がどこからうって来たかわかる?」男は森の奥のほうを指差した。
「あの木のあたりの茂みからだ。でも、ここからじゃ届かない」男が不満そうに鼻を鳴らすと、指差したあたりからゴブリンが立ちあがった。クリスは素早く狙いを定め、ゴブリンが射るより早く矢を放った。矢は寸分たがわずゴブリンにあたり、ゴブリンが放った矢はあさっての方向に飛んで行った。男たちから称賛の声が上がった。
「嬢ちゃん、やるじゃねえか」バルドさんがクリスに言った。クリスは小さく頷き、他の敵がどこにいるか尋ねた。男たちは敵の大体の位置を把握していたらしく、クリスはその後二体のゴブリンを仕留めた。
ゴブリン達はすぐれた射手がこちらにいることに気づいたようで、攻撃の手を止めた。
「しばらくこうしてくれるといいんだがな。」男たちの一人がぼやいた。が、その願いはかなえられなかった。突然ゴブリン達が叫び声を上げながら森の斜面を下ってきたからだ。その数は17ほど。ゴブリンの中にはちぐはぐな鎧を着ている者もいた。クリスは矢継ぎ早に矢を放ち、こちらに降りてくるまでその数を三つほど減らしたが、ゴブリン達はひるむことなく斜面を下り切り、僕らに襲い掛かった。
僕はクリスに向かってきたゴブリンに体当たりをかました。だが、倒れた相手にとどめをさす間もなく次の敵が襲いかかって来た。僕は明らかに大きな兜をかぶったゴブリンの棍棒を剣で受けると、それを横に払ってつきを繰り出した。剣はゴブリンの皮膚を貫き、背中から突き出した。踏み込んだ勢いで体当たりをして剣を引き抜き、クリスを守ろうと彼女の前に陣取った。
クリスはまだ斜面を下りきっていないゴブリンを狙っていたが、そのためにクリスを一番早くに倒すべきと判断されたらしく、僕が相手をする敵はどんどん増えていった。一体のゴブリンが正面から切りかかって来た。それを剣で何とか防いだが、そのせいでわきからの攻撃の反応が遅れた。
「危ない!!」クリスが叫んで相手の存在に気付いたが、相手はすでに短剣を突き出してきていた。僕はとっさに左腕をあげて防ごうとした。
「が・・・・・・!!」短剣は腕を刺し貫き、激痛が左腕から全身にしびれとなって走った。
「イェリシェン!!」クリスは短剣をさらにねじ込もうとしているゴブリンを射た。僕は痛みに歯を食いしばりながら、左腕で正面の敵の腕を掴んでねじり、相手の脳天に剣を何度もたたきこんだ。手を離すと、ゴブリンは脳漿を飛び散らし倒れこんだ。
苦痛と殺しの興奮に息を切らしながら、戦況を確認した。商人の二人ほどが地面に倒れこんでいた。バルドは短剣を両手に持って二体のゴブリンを一度に相手にしているが、動きから察してどこか痛めているようだった。馬車はいつの間にか道を進んでいて、もう見えなくなっていた。
そうしている間にも、新たな敵が襲ってくる。何とか防ごうとするも、疲労と痛みで腕に力が入らず、剣をはじかれてしまった。
「しまっ・・・・・・!」とっさに頭を腕でかばうと、こん棒のとげが両腕に突き刺さった。短剣が棍棒にたたかれて、さらに腕に深く食い込む。
あまりの激痛に声が出なかった。頭がくらくらして、地面に座り込んで縮こまりたくなった。歯をくいしばって何とかこらえたが、ゴブリンが棍棒をもう一度振り上げようとしても、もう抵抗する気力もなかった。
そのゴブリンの頭を矢が射抜いた。ゴブリン達の悲鳴が聞こえ、いくつもの矢が飛来した。矢が飛んできたほうを見やると、馬に乗った一団が弓を構えながらこちらに向かってきていた。
「放て!」先頭の男が矢を放ちながら言うと、それにならって一斉に矢が放たれ、市の雨がゴブリン達に降り注いだ。ゴブリン達は戦況が不利になったと見るや、一目散に山の中に逃げて行った。
僕はぼんやりとこちらに向かってくる一団を眺めていた。一団が近づくと、バルドが先頭の男に話しかけた。
「お前たちはベルデンからきたのか?」
「そうだ。俺は自警団の隊長をやってるパナズだ。先ほど、けが人だけを乗せた荷馬車が村に着いた。彼から仲間が襲われていると聞いて急いできたのだが、少し遅かったようだな。」と、地面に横たわる死体を見やった。バルドさんはかぶりを振った。
「こいつらはついてなかった。おれたちも、もう少し来るのが遅かったらこいつらと同じく地面に突っ伏してたろうよ。」パナズは頷いたが、表情は硬かった。
「君たちは馬に乗ってくれ。疲れているだろうし、けがをしている者もいるようだからな。」パナズは仲間たちを馬から降りさせ、商人たちに手を貸すように言うと、自分は倒れている男を担ぎあげた。
「おい、大丈夫か。ひどいけがだぞ。」男たちの一人が僕の腕を見て言った。袖が血に染まって赤黒く変色し、左腕からは短剣が突き出ていた。僕は自分の両腕の状態を見て力が抜けそうになったが、努めて気にしないようにした。
「大丈夫です。それよりクリスを、彼女を見てやってください。」
「私なら大丈夫よ」クリスはいつの間にか傍らにいた。いや、傍らにいたことにも気付けなかったのか。
「出血がひどいわ。早く止血しないと。」クリスは僕の袖を引き千切ってけがの状態を見た。
クリスが息をのんだ声が聞こえた。だが、クリスはうろたえずに決然として持ってきた水筒で傷を洗い、ちぎった袖を包帯代わりにして腕を縛って、出血を抑えようとした。
「村にお医者様はいますか?」右腕の応急処置が終わり、左腕に取り掛かりながらクリスは男に尋ねた。
「ああ、タイミングよく、村に癒し手が来ているんだ。しかもかなりの腕だ。」男はクリスに自分の水筒を渡しながら答えた。クリスは礼を言って受取り、左腕を洗い始めた。
「癒し手って誰だい?」痛みに顔をしかめながら、クリスに尋ねる。
「癒し手って言うのは、魔法で人々の傷をいやして回る人たちのことよ。彼らは教会に属していて、教会の偉大さを世に広めるために活動しているの。癒しの力は教会の信仰によって行われる、ってね。癒し手がいるなら、これは村に着いてから抜いたほうがいいわね。」クリスは左腕に突き刺さったままの短剣を指して言った。僕は苦い顔でうなずいた。正直不格好なうえ、ずきずきと腕の中が痛むので早く引き抜きたいのだが、出血がひどくなるためにそれはできなかった。
「すいませんが、僕の剣を探してくれませんか、そこの草むらのあたりに飛んで行ったと思うんですが・・・・・・。」僕はクリスに手を借りて立ち上がり、男に頼んだ。男は草むらのあたりをしばらくうろつき、草がつぶれているあたりでかがむと、剣を手に体を起こした。
「これ、ダマスカス鋼じゃねえか!?」男が驚きに声を上げると、他の自警団の人たちも、商人たちも振り向いた。
「ダマスカス鋼だって!?」全員が驚きの声を上げ、近づいて男の持っている剣をまじまじと見た。
「本物だ」「すげぇ、俺初めて見たよ」「まだこんなものがあったのかよ」剣は一人一人の手に渡り、皆目を皿のようにして見つめた。
「あの、返してもらえます?」僕はおずおずといった。
「ああ、すまんすまん、あまりに珍しかったもんで。それにしても、あんたら何もんなんだい?その剣と言い、腕と言い。」と、周りに転がっているのと、クリスが射ぬいたゴブリンの死体を示した。
「いや、ただ無我夢中だっただけです。僕は別に。それよりもクリスのほうがすごいですよ。ほとんど的をはずしてない。」
「ああ、姉ちゃんはほんとにすげえ。あんたがいなかったら危なかったよ。」商人の一人が言った。
「そんなことないです。それより、イェリシェンの傷が気になります。早く村に行きましょう。」
「その通りだ。もしかしたら、ゴブリン達がまた徒党を組んでやってくるかもしれない。早く馬に乗ってくれ。村はすぐそこだ。」パナズが進言すると、一行は急いで馬に乗った。僕は先ほど剣を拾ってくれた男と一緒に馬に乗った。
「これより町に戻る。周囲への警戒を怠るな。」パナズの言葉を合図に僕らは村に向かって馬を走らせた。
「癒し手はどこだ?けが人がいるんだ。」パナズは村に着くと、帰りを待っていた自警団の一人に聞いた。
「今は診療所にいます。・・・彼らがあの男が言った仲間ですか?」
「そうだ。イサ、彼らを診療所に案内してやれ。」イサと呼ばれた自警団の一人が馬から降り、僕らも降りるように促した。
「こっちだ、ついてきてくれ。」僕らはイサの後を追って小さな家に入った。
中は部屋を仕切る壁がなく、いくつかのベッドが置かれた一つつながりの部屋だった。ベッドの一つには商人の仲間が一人横たわっており、傍らに女性がいた。
「商人の人たちですね。彼なら大丈夫、今は寝ています。あなたたちもけがを?」女性は立ち上がると、こちらに歩み寄った。
質素な藍染の法衣に身を包み、つやのある黒い髪を腰まで伸ばしている。色白で、柔和な顔を薄い眉が際立たせていた。
「怪我はみんなしてるが、彼が一番ひどいから、先に治してやってくれ。」バルドは僕を前に引き出した。癒し手は僕の左腕に刺さっているものを見つけると、左腕を取り上げた。
「腕を貫通しているわ。少し痛いけど我慢してね。」僕はこくりとうなずいた。正直、ここに来るまでに腕の痛みはいやまして、焼き鏝を突き刺されている気分だった。
癒し手は短剣のつかに手をかけると、一気に引き抜いた。その痛みは刺された時の何倍も大きく、悲鳴を抑えることはできなかった。短剣を引き抜くと、醜くえぐられた傷があらわになり、腕から血がぼたぼたと床に垂れた。思わず自分の傷を見て吐き気を催した。
「大丈夫です、すぐに塞ぎますから。」癒し手は傷口に手をかざすと、祈りの言葉を唱えた。
「主たる神アルビオンに仕えしパナケアよ、癒しをこの者にもたらしたまえ」唱えた終えたとたん、癒し手の手から淡い光が出、左腕を包み込んだ。光はまるで生きているかのように傷口の中にまで入り込んだ。僕はほのかな温かさを感じ、引き裂かれた血管や筋肉の筋がつながっていくのを感じた。
癒し手が手を離すと光も消えた。傷は完全にふさがり、傷跡もなかった。
「すごい。あの傷が一瞬で・・・・・・。」
「薬の神であるパナケアの癒しの力を借りたのです。右腕もひどいようですね。」彼女は先ほどと同じように僕の腕をとると、祈りの言葉を唱えた。また光が腕を包み込んだが、今度は先ほどより早く終わった。
「ありがとうございます。」
「感謝は私ではなくパナケアに、そして主神アルビオン様に。」癒し手はやんわりと諭した。だが僕は彼女にお礼を言いたかった。
「いえ、あなたに。力を貸してくれたのは神でも、それを行使したのはあなたですから。」癒し手はため息をつくと、あきらめたらしく他の人たちの治癒に回った。
最後の治療が終わる頃にパナズが入って来た。
「お前たち、治療は受けたみたいだな。知っての通り、この村に宿はないんだが、もしよければここを使ってくれ。安静にしないといけない奴もいるみたいだからな。」
「それは助かる。地べたはいやだからな。」バルドさんが言った。パナズは笑って答えると、思い出したように付け加えた。
「それと、ここには病人がいるんだ。戦に行って帰ってきた兵士なんだが、頭がいかれちまったらしい。変なこと言うかもしれないけど、気にしないでくれ。」
「変なこと?」
「ああ。あくまがどうのこうのとかな。頭のいかれた野郎の言うことだから、本気にするなよ?」
「おれはいかれてなんかいない!!」突然大声が聞こえ、階段から男が降りてきた。
男は髪がぼさぼさで、目は魚ろついて、ほほがこけていた。まるで何日も食べてないようだった。
「起きてたのかラビ。」パナズはからかうような調子で言った。
「ああ、全部聞こえてた。おれの頭がイカレてるだと?おれはこの村から唯一戦に参加したんだ、国のために!」
「出世のためだろ。武勲をたてて城を持つんだって自分でいってたろうが。結局、手に入れたのは一握りの金と、そこの癒し手さんだろ。」
「黙れ!お前はあいつを知らないからそんなこと言えるんだ。お前は目の前で仲間がまるで人形のように切り殺されたことがあるか!?自分の命を吸われる経験は!?あいつが、あいつが殺した、皆、皆。おれも殺される。いやだ、いやだ、いやだいやだいやだ・・・・・・」男は神経質に頭をかき始め、それが顔にまで及び、顔をひっかいて血が流れ出した。
「血が・・・・・・!」僕はとっさに手をつかんで自傷行為を止めさせた。男はヒステリックに叫んでもがいたが、僕は手を離すまいと必死になった。
「離せ、離せ!」男は腕を振り払った。そして初めて僕を正面から見据えた。
男の顔に死への恐怖を垣間見た。男は自傷行為をやめた。その代りに、急にここが寒くなったかのようにがちがちと歯の根が合わなくなり始め、ぶるぶると震えて僕を指差した。その口は何かを言おうとしているようだが、かすれた声しか出てこない。
「あ、ああ、あ・・・あああああああああああああああああああああああ!!」男は叫び声をあげた。
「悪魔だ!!なななんでここに!?そ、そそうだ、お、おれをこ、殺しに、に、き、来たん、だ、な!?」その顔は狂気に支配されていた。
「し、死にたくない、死ぬのはいやだ!!」男はいきなり走り出して二階にかけのぼった。
「おい、ラビ!?」パナズもさすがに心配そうに呼ばわった。
ラビはすぐに下りて来た。その手に抜き身の剣をもって。
「殺してやる、殺してやるぞ!俺がこの前みたいに縮こまっていると思うなよ!」ラビの構えは震えていたが、僕を本当に殺すつもりらしかった。だが僕はそのことより、彼の言葉のほうが気になった。
「この前?僕を知っているんですか!?」
「知っているかだと!?一瞬たりともお前の顔を忘れるものか!殺してやる、殺してやる」ラビは剣を構えなおしたが、相変わらず震えは止まらなかった。僕は一歩前に出た。ラビはひきつった声をあげて壁まで下がった。僕はゆっくり近づきながら尋ねた。
「僕は記憶を取り戻す旅をしているんです。ほんの少しでもいい、僕のことを、以前の僕のことを教えてほしい!!」
「よるなああああああ!!!」ラビは狂ったように剣を振り回した。いや、本当にくるっていたのかもしれない。
「よせ!」パナズが飛びかかってラビを取り押さえると、商人たちも手を貸した。
「癒し手さん、に蒸らせてやってくれ、早く!」パナズはずっとぼうっとしていた癒し手に行った。
「は、はい!」癒し手は我に返り、大急ぎでけがを直したのとは違う言葉をつぶやいた。唱え終わると、手から大きな泡が出てきた。それはそのままふわふわと浮かんで、ラビに触れるとはじけた。途端、ラビはがっくりとうなだれて、眠り始めた。抑えていた一人も眠ってしまい、危うくラビを床にたたきつけるところだった。
パナズはラビを二階に連れて行った。僕はその間ずっと突っ立ったままだった。パナズがため息をつきながら階段を下りて来た。
「はぁ。見ただろ、あんな感じなんだ。済まないなあんた。あの調子じゃ、あんたの顔を見たらまた襲いかかるだろう。悪いが、今日はうちに泊まってくれ。寝床だけはあるから。」僕は物思いに沈んでいて、答えなかった。クリスに肩をたたかれ、初めて気がついた。
「あんた、大丈夫か?顔色悪いぞ?」パナズが心配そうに声をかけた。
「だ、大丈夫です。ただ、ちょっと驚いちゃって・・・・・・。」
「無理もないさ。あれじゃあな。ま、気にしないでくれ。さ、うちに案内するよ。」パナズは僕についてくるように促した。僕は後を追って診療所を出た。
外はもう夕暮れだった。きれいな夕焼け空で、太陽がオレンジ色の光を世界全体に照らしているかのようだった。でも僕にはその景色に感動することができなかった。ラビの言葉が頭から離れなかった。
「悪魔だ!!」
あけましておめでとうございます&お久しぶりです、ジョンです。
ずいぶんと最後の更新から日がたってしまい、申し訳ないことこの上ない。これからまた、更新速度を上げるように頑張りたいと思います。次の更新は土曜日か日曜日にはしておくつもりです。ではまた。