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Last Game  作者: じょん
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第三話:道を指し示す者

 天井を見つめていた。クリスの家の天井である平屋根ではなく、斜めになった天井にかかる梁のしみをみつめていた。そうしながら、なぜここにいるのかを思い出そうとしていた。

 真夜中の探索、井戸に現れた化け物、迫る口、口、口・・・・・・。布団を跳ね飛ばす勢いで体を起こす。

「あれ・・・・・・いきてる・・・・・・・?」自分の手を見、次いで体全体をなでて自分の体が偽りでないことを確かめる。その時、不可解なものが視界に入った。

 床に敷かれた僕の布団の隣にもう一つの布団。それだけならまだいい。問題なのは、そこにクリスが寝ていることだ。

 その時の衝撃は言い表せない。僕は人は驚くと思考が停止して固まってしまうことを初めて知った。クリスはすぅすぅと静かな寝息を立てて寝ている。その寝顔があまりにも可愛くて、つい見とれてしまった。

「ん・・・・・・。」クリスが小さな声を漏らして寝がえりをうった。その時、布団がはがれ、胸元がはだけてしまっているのが目に入ってしまった。クリスはいつもの旅の装いではなく、うすいシャツを着ていた。

「・・・・・・!」あわてて視線をそらした。ふいにここにいたらまずい気がして、クリスを起こさないように息を殺しながらそっと部屋を移動し、扉を慎重に開けてすり抜けた。

「ふぅ・・・・・・・。」部屋を出て後ろ手に扉を閉めると、ほっとして息をついた。

「あれはやばいな、うん・・・・・・。」などとつぶやき、狭い廊下を歩いて行くと、突きあたりは階段の踊り場になっていた。いままでたくさんの人がつかんだのだろう、人の手に握りやすくなった手すりにつかまりながら階段を降りた。

「おや、起きたのかい。」カウンターの店主が声をかける。僕は自分が下りて来た階段を見挙げ、一人合点した。

「上は宿になってたんですね。」

「相部屋にさせたけど、一緒に旅してきたのなら別にかまわなかったろう?それ、飯は作っといたから、早く食べな。」店主はカウンターの奥、厨房へと行き、バターを塗ったパンやスープがはいった深皿を持って戻って来た。僕がカウンターに着くと、皿を静かに前に置いてくれた。僕はスープに取り掛かりながら、僕が気絶した後どうなったかを尋ねた。

 

 化け物は僕が倒したことになっているらしく、僕は化け物の触手に締め付けられながら、相手の脳天を貫いたそうだ。そして化け物は死んで井戸に落ち、僕は気絶した。騒ぎを聞きつけた町民が事の次第をクリスから聞き出すと、野次馬の一人が思い切って井戸の下に降りた。男は化け物を見つけて騒ぎ、大慌てで上がって来た。それから化け物を引き上げることになり、力自慢の男たちが十数人で引き揚げた。化け物は体長約8メートルの大蛇に似た体をもっていたが、頭の部分には数十本もの触手が生え、目はなく、大きな口だけがあった。した先にある眼には矢が突き刺さっており、のどの奥には刺し傷があった。井戸の底にはいくつもの白骨化した遺体が転がっていた。怪物を解体すると、その夜取り込まれた酔っ払いが出てきた。残念ながら、だれとも判別できないありさまだったが。

「それで、ボラのおじいさんは見つかりましたか?」僕は一番気になっていたことを聞いた。店主は悲しそうに首を横に振った。

「そうですか・・・・・・。」守れなかった。あの子と約束したのに、おじいさんを助けることができなかった。自分のふがいなさ、約束を守れなかったことへの後悔と悔しさがまぜこぜになった感情が腹の中でもがく。知らず知らず、スプーンを強く握りしめていた。

「お〜う、ナリサ〜、久しぶりに顔出しに来たぞ〜。」一人の酔っ払いが酒場に入って来た。

「ボラ、あんた死んだんじゃなかったのかい!?」店主が驚きもあらわに叫んだ。僕も驚いて立ち上がり、危うくスープをこぼすところだった。酒場に入って来た老人は僕らの驚きように酔いがさめてしまったようだった。

「な、なんでい。生きてちゃ悪いんかい。」と老人。

「あんた、今までどこにいたんだい?あんたんとこの家族が捜してたんだよ。最近、いなくなる奴が多いから心配してたんだよ。」と、店主は母親が叱るような口調で言った。老人はからからと笑った。

「東から来た隊商のやつと酒場で意気投合してな、北にあるナファネンヒまで行きたいが、道がわからないっつうからよ、案内してやったんだ。ここから歩いても一日で着く所だからな。でもよ、道が途中でふさがれてたりして結局ついたのは三日後。それからこっちに戻る隊商を待つのに三日かかってよ。やっと帰ってきたのが今日。ほんと今着いたとこなんだよ。」老人は悪びれる様子もなく語った。

「それで、うちには帰ったのかい?」店主はあきれたように言った。

「いや、まだだけど?」

「さっさと帰って安心させてやりな。ほら、とっとと帰った。」店主は老人をまわれ右させると、ドアのほうへと押しやった。

「そうかい?じゃあ、顔出すのはまた今度にするよ。」バタン。店主は大きなため息をつくと、僕に向きなおった。あきれながらも、ほっとしたような顔をしていた。

「まったく、人騒がせなやつだ。昔からああなんだ。」僕は苦笑して相づちを打った。

「でも、よかったです、いきててくれて・・・・・・。」店主はうなずき、テーブルを拭き始めた。僕はスープを飲み干し、パンにかじりついた。そうやってしばし会話もない時間が過ぎた。

 僕が食べ終えたころ、階段から足音が聞こえ、クリスが下りて来た。

「やぁ、おはようクリス。」僕はクリスに声をかけたものの、朝の記憶が戻ってつい胸元に目がいってしまった自分を恥じた。

「もうおはようって時間でもないわよ。」クリスは苦笑いを浮かべた。店主はグラスを磨いているところだった。

「二人とも起きたことだし、話をしようかね。」店主はグラスを棚にしまうと、話を切り出し始めた。

「そうだ。すっかり忘れてた。約束の話ですよね?」僕が確認すると、店主はうなずいた。

「あんたを知っている人を知っているといったね。残念ながら、私はあんたのことを知らないが、この町に、誰のことでもわかる人がいる。その人に尋ねな。」

「その人はどこにいるです?」とクリス。店主はにっと笑った。

「もうここに呼んであるよ。さっきからそこにいるじゃないか。」と、酒場の隅のテーブルを視線でさした。なぜ今まで気づかなったのか、目深にフードをかぶった人が座っている。

「ハギア、こいつがさっき話した子だよ。」店主が声をかけると、フードの人物がこちらへ顔を向けた。

 年はいくつなのだろうか、まるで樹木のようなしわしわの顔、骨ばって干からびた手には水晶が乗せられてある。目はまるで線を引いたかのように細い。

 老婆はおもむろに席を立つと、こちらへ歩み寄って来た。僕の前に来ると、水晶を持ってない手を僕に差し出した。僕がどうすればいいか分からず、何もしないでいると、店主が言った。

「その手をつかむんだよ。」僕が不安そうに老婆の顔を見ると、相手はにっこりとやさしい笑みを浮かべた。僕はなぜこんなことをしなければならないのかと思いながら、ためらいがちに手をのばして、老婆の骨と皮だけになった手を握った。

「ほほ、何とも。恐ろしく不安定、表と裏が入れ替わる。表と裏は表裏一体、なのに表と裏が分かれ始めておる。過去は裏が知っておる。裏はそれを隠しておる。」

「裏?裏とは何のことです?」僕は尋ねたが、老婆は質問には答えなかった。老婆は水晶を持ち上げ、水晶をすかして僕を見つめ始めた。ややあって、老婆は口を開いた。

「二つの道が見える。待つか、進むか。時を待てば過去はもたらされる、表と裏が入れ替わることによって。進んだ先に何があるのかは見えぬ。しかし苦難は必定。待つは易く、進むは険しい。」老婆は僕の目をまっすぐに見つめた。

 僕はその眼に星を見た。たくさんの星と大きな星。まるで見上げた夜空のようだった。この老婆は僕を見ていない。僕の先にある何かを見通していた。僕は僕を見ながら僕を見ていない目をまっすぐに見つめ返した。

「僕は待たない。僕は進むために旅をする、そう心に決めています。」老婆は僕の答えに満足そうにうなずいた。老婆は水晶を懐にしまい、握っていた手を離した。

「ならば、道を示そう。自らの過去は自らが捜すがよい。東へ向かえ。過去を直視せよ。そなたの過去は暗い。逃げてはならぬ。見つめるのだ。過去を、自らを。」老婆は言い終わると、踵を返して酒場から出て行った。僕らはそれを見送った。老婆が出ていくと、酒場の雰囲気が変わり、日差しを強く感じた。僕は老婆の持つ雰囲気がこの場を支配していたことに気づいて驚いた。

「それで、あれだけ?」店主はうなずいた。

「あれはそういう奴なんだ。でも、ここまではっきりしない道を示したのはあんたが初めてだよ。」と、僕を見て言った。

「十分です。前に進む、少なくとも自分が向かう道は間違いじゃないとわかりました。それに、方角も示してくれた。」

「そう、それよ。東ったって、どこまで行けばいいのよ。」クリスはぷりぷりして言った。

「ここから一番近い東の町って言ったらベルデンだよ。まぁ、町というより村に近いね。」店主はカウンターの下から地図を取り出した。そして地図の一点を指し示した。

「ここがイグリス。街道を東にまっすぐ行ったらここの(と、指を右に走らせて、イグリスよりも少し小さな点の上で止めた)ボルノーにつくけど、途中少し南に折れる(イグリスとボルノーの間、ややイグリスよりのところから小指分下のほうで止める。地図には名前しか載っていなかった)とベルデンにつくよ。あんたら、徒歩で行くんだろ?だったらベルデンに寄って食糧の補給をしたほうがいいね。隊商でもボルノーにつくには五日かかるよ。徒歩なら二、三週間てところだね。ベルデンは歩いて六日ぐらいだけど、うちの客にベルデンに向かう商人がいるから、乗せてもらうようかけ合ってやるよ。今日出るから、明日の昼ごろにはつくだろうさ。」と、店主は請け合った。

「そこまでしてくださるのですか?」

「ヤコブの知り合いじゃあ、邪険にするわけにもいかないよ。貸せるだけの手は貸してやるさ。」と店主は言った。

「ありがとうございます。」僕とクリスは頭を下げた。

「礼には及ばないよ。ほら、さっさと準備しな。」店主は少し照れながらシッシと手をやった。僕らは顔を見合わせて、また頭を下げた。


「少し揺れるが、かんべんしてくれよ。座るところは自分たちで作ってくんな。」商人はイグリスで買った品物を部下に命じて馬車に積ませていた。

「いえ、乗せてくれるだけでもありがたいです。」と、クリスは言った。商人はそんなクリスと、荷物の積み上げを手伝っている僕を見比べ、僕を小突いた。

「なんだ、二人旅かい?いいねえ、相手がこんな可愛い娘で。」僕は急に顔が赤くなるのを感じた。

「僕を助けてくれてるだけです。」

「おれも助けてくれる女がほしいよ全く。こんな仕事してるとな、なかなか一つ所にとどまることはできないんだよ。あ〜あ、いい加減嫁がほしいな〜。」

「おやっさんは一生無理っすよ。」積み上げをしている一人が言った。他の仲間はげらげらと笑った。

「うるせえ!今笑ったやつ、給料からしょっ引くぞ!」と、商人がどなると、男たちは不平を漏らした。

「まったく・・・・・・。」商人はため息交じりにつぶやいた。僕は商人と仲間たちのやり取りを見な柄積み上げを手伝い続けた。

 ようやく積み荷がすべて馬車に積まれ、出発の準備ができたころ、こちらに走ってくる小さな人影を認めた。

 近寄って来たのはボラさんの息子だった。少年は息を切れ切れにして言った。

「ぜえ・・ここに・・・いるって・・・きいて・・・・。」僕は少年に息を整えるように促した。少年は少し息を継いで、僕をまっすぐに見て言った。少年は笑顔だった。

「ありがとう!」少年はそれだけ言うと、また走り去っていった。

 僕は走っていくその背中が見えなくなるまで見ていた。

「どうしたの、イェリシェン?何かいいことでもあった?」クリスが声をかけた。クリスはもう馬車に乗っていて、商人が早く乗るよう促していた。僕は知らないうちに笑顔になっていた。

「いや、なんでもないよ。」僕は胸に湧いた感情に喜びながら馬車に乗り込んだ。

 馬車は賑やかなイグリスを後にして、街道へと進み始めた。

どうも、じょんです。今年ももう少しで終わりですが、いかがお過ごしでしょうか?僕ですか?ぼくはいえにひきこもってますOrz

風邪がなかなか治らず、鼻水が止まりません。ごみ箱がティッシュでいっぱいになっています。正月は元気に過ごしたいものです。体調には十分気を付けてください。

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