コウカイ
今回は神崎初香視点です!
上手くできてるか不安ですがよろしくお願いします!
ー神崎sideー
私は3日前からこの街にやってきた。 父の転勤、よくある転校の理由だが、正直その転校に私は救われていた。
前の学校では生まれつき弱かった体のせいでうまくクラスに馴染めず、いつも教室では孤独だった。
誰に関心を持たれるわけでもなく、好意を持たれるわけでもなく、ただ、独りであるという事だけを突きつけられていた気がする。
それがとても辛かった。苦しかった。だからお父さんには少しだけ感謝している。あのままクラスで浮いた存在でイジメや、ずっとひとりぼっちの日々で高校生活を無意味に過ごさずに済んだから。
だけど、次の学校でも上手くいくかはわからない。だから私は家で何度も自己紹介の練習をした。
「私の名前は神崎初香です。父の転勤でここに引っ越してきました。これからこのクラスでお世話になるのでよろしくお願いします」
繰り返し繰り返し、何度も何度も練習した。次は失敗できないと、もうあんな惨めで苦しい孤独には戻りたくないと、一生懸命練習した。
そして、転校初日、私は意気揚々と家を出た。家は私が通う学校と近く、自転車も必要ないだろうと思い歩いて登校した。
しかし、通学路にはほとんど人が歩いていなかった。大抵は車が多く通り、続いてバス、自転車と、みんな何かしら歩く以外の移動手段で登校しているようだった。
最初はそんなことしなくてもいいだろうと思っていた私も、通学路の坂を5分も登れば何故他の人達がそうしていたのかがわかった。
ーそうか、この坂、登るだけで相当疲れるんだ。だから…ー
私は息をきらしながらその坂をなんとか登って行った。
日差しを直に浴びているかのように周りの気温も上がり、太陽が少し雲に隠れれば風が吹いてそれは私の熱を持って赤くなった頰を冷やしてくれる。喉がすごく乾いて口の中が少しベタ付く。
先程から汗が喉元を伝い、制服に吸われていく。
そんな状態でも私はその坂を登った。練習を沢山した。独りになりたくないから、友達を作るために…私は、私はー…
視界が少しだけぼやけてきた。そんな矢先、私の前を誰かがこの地獄のような坂を登っているのに気づいた。
私はその人を見上げた。
「え…?」
「あ…」
見上げると同時に、前方にいた彼もまた私を見ていた。
そこで私は自分の今の姿を思い出した。先程から照りつける日差しの暑さで顔は赤く、ずっと垂らしていた汗のせいで制服が少し透けている。それでいて暑いのを誤魔化すために開いていたボタン。
年齢の近い男性に見せるような姿では決してないということ。そこから恥ずかしくなりさらに顔が熱くなる。
そして、私は恥ずかしさのあまり黙り込んでしまった。
「……」
「……」
前方にいる彼もおそらくなんと言えばいいのか、わからずに黙り込んでしまった。
ーどうすればいいの⁉︎ちゃんと人と話せないといけないのに!ー
頭の中に色々な挨拶の言葉が浮かぶが上手く言葉にできる気がしない。
若干パニックに陥っていると、彼の方から声をかけてきた。
「あの…」
「はっ、はい!」
私はつい大きな声で返事してしまった。それを受けて彼は驚いた様子だ。
ああ、やってしまった。そう思った。いきなり初対面の人に大きな声で返事されてもきっと困ってしまうだろうに…何をやっているのだ私は、と。
すると彼は私を心配してきてくれた。
「…だ、大丈夫?つ@mtp」
最後の方がうまく耳に入ってこなかった。もしかして、変な人だと思われてしまったのだろうか?
それだけは避けなければならない。私はなんとか笑顔を作って大丈夫だと伝えた。しかし、
「っ⁉︎ちょ、ちょっと!」
「っ…」
私は彼の方に向けて倒れていた。いや、今は彼に抱きしめられて支えられている。彼の人の手はしっかりとしていて、安心感が支えられていると安心感がある。
ーあぁ…身体に力が入らないや…また失敗しちゃったかな…ー
自分の体の弱さのせいでまた失敗するかと思うと怖くなり、そして、こんな自分を恨んでしまいそうになる。
けれど、結局の原因は私自身の心の弱さなんだ。体が弱くても自ら話しかければよかった。話に加えてもらえばよかった。それでも、拒絶されるのが怖くて、立ち直れなくなるのが怖くて、体の弱さを言い訳にして逃げてきた心の弱さが。そんな自分の弱さが少し嫌になった。
息がさっきより上がっているのが自分でもわかった。小さな絶望を感じて私は目を閉じようとした。すると…
「このまま保健室まで連れていくから少し我慢してて」
先程の彼がそう言って私をおんぶした。突然の事で何をされたかわからない私は、彼から降りようと必死に足をばたつかせる。しかし、力が上手く入らなくてそれは無駄に終わってしまう。
私を背負ってくれている彼の背中はとても大きく感じて、安心できた。しかし、年の近い男性におんぶをされているこの状況が恥ずかしくて、私はぎゅっと目を瞑り、そこで私の意識は途絶えた。
次話も神崎初香視点です




