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気づいた事

仔猫先輩が夏合宿を宣伝した放課後、僕達はショッピングモールに来ていた。


それを提案したのは珍しく仔猫先輩自身で、夏合宿用の水着を買いに行きたいかららしい。


他のみんなもそれには賛成のようで、生願部一同でショッピングモールに来たのだ。



「それじゃあこれから男子と女子は別行動ね、終わったら大城に連絡するから」


星宮がそういうと将吾が抗議し始めた。



「な、なんで男女別行動なんだよ!」


「あんたがいたら絶対更衣室覗くでしょ?」


「馬鹿野郎!俺は覗かねぇ!水着姿がみてぇんだ!」


「あんたが言うと犯罪臭がすんのよ…ほらさっさと行こ」



星宮はそう言うと他の3人を連れて女性の水着売り場に行ってしまった。



「じゃあ僕たちも適当に買いに行こっか」


「俺新しいカメラ欲しい」



そんなことを話しながらショッピングモールを散策し始めた。

そんな中で初めて知ったのだが、将吾は結構カメラにこだわりがあるようだった。



「いや、そのデジカメも悪くはないが、やっぱ思い出のこすならこういう趣きのあるやつの方がいいだろ?あと新しいレンズかいたして…」



いつものふざけた様子とは打って変わり随分真剣に考えている姿を見ると、話しかけて邪魔するのも気が引けたので、先に水着コーナーに行くと伝えて自分の水着を見繕っていた。


すると少し離れたところで楽しそうな女子の話し声が聞こえた。おそらく神崎達だろうとちらっと見るとそこにいたのは竜胆達だった。



「…え?」


「あ…」



僕はすぐにその場から離れるべく手にしていた水着を戻した。


しかし、時すでに遅く、水着を戻したその腕を竜胆に掴まれてしまった。



「何逃げようとしてんのよ」


「い、いやお邪魔しちゃ悪いかな…と」



現に竜胆の後ろにいるいつも川端の取り巻きとなっている女子達は凄い形相でこちらを見ている。



「べつに前みたいに消そうとかはもう考えてないから安心しなさい」


「前は消そうと思ってたんだね…」


「当たり前でしょ?今は梓様とあんたが友達だから手は出しはしないわよ」


「じゃあ僕の腕はなしてもらってもいいかな?」


「そしたらあんた逃げるじゃない?」



僕が逃げようと腕に力を入れてもそれ以上の握力で押さえ込んでくる。最近の女子は何故こうも力が強いのだろうか?


「あ、そういえばあんた携帯持ってる?」


「え?一応持ってるけど…」



いきなり聞かれてつい携帯を出しながらそう言うと、竜胆は目にも止まらぬ速さで僕の携帯を取り上げた。



「な⁉︎ちょっと!」


「ふーん…あんたロックぐらいかけときなさいよ。スられた時に被害うけるわよ?っと。はい」



竜胆はそういうと片手ですごいスピードでなにかを打ち込み携帯を返した。



「私のアプリのID入れといたから」


「は!?な、なんで?」



いきなりのことでついて行けない僕に竜胆はめんどくさそうに説明した。



「あんたがもし梓様に手ェ出したらこれですぐに死刑宣告ができるでしょ?」



遠回し…いや一周回ってストレートに「手ェ出したら殺す」と死刑宣告を受けた。

すると竜胆は飽きたかのようにその場をささっと去っていった。一体なんだったのだろうとポカンとしていると、将吾がようやくカメラを買ったようでこちらにきた。



「わりぃ、待たせちまったな…」


「将吾…」


「え、ど、どうした?」


「女子って…怖いな…」


「はぁ?」



僕はどっと訪れたその倦怠感を適当に将吾にぶつけた。

しばらくすると水着を買い終えた女性陣と合流し、僕らも無事に水着を買い終えた。



ーーーーーーーーーー


竜胆side


私の名前は竜胆夏芽根。代々弁護士の家系で育った竜胆家の長女だ。


小さい頃から親の影響で色々な習い事をしており、小学生までの私は怖いもの無しだった。

しかし、中学校に入学すると、私にとって嫌なことが増えた。

まず一つに男子からの視線だ。自分で言うのもなんだが、私はかなり可愛かった。他の女の子達よりもスタイルだって良かったし、成績も運動神経だって負けたことはなかった。それに金持ち弁護士の才女である私を、下心のある男子達は獲物を狙うハイエナのようにこちらを見ていた。何人もの男子から告白されてきたが、どれもその目にはいやらしい光がちらほらと見えていた。


それだけなら別に無視して入ればよかったのだが、ある日私に人生最悪の出来事が起きた。


放課後の教室で、一人で学級事務の仕事をしていると、担任の男教師が現れた。



「やぁ竜胆さん、学級事務の仕事まで手伝ってもらって悪いね」


「いえ、これぐらいは当たり前のことです」



そう言って私は黙々と仕事を進める。すると、教師がとなりに座ってきた。


(え…)


その教師は私の足を触ってきたのだ。



「何するんですか!」


私はすぐに立ち上がり、教師から距離をとった。その教師は何もなかったように貼り付けた笑顔をしながらこちらを見ていた。



「あぁ…ごめんね?邪魔しちゃった?」



私はその場で糾弾してやろうと思ったが、喉まで出かけた言葉が躊躇いで止まり、鞄をもってすぐに教室から出ていった。


その時の私は面倒ごとを起こしたくなった。理由は父だ。

金持ち弁護士である父は度々テレビにも出ていたが、最近不倫がばれてメディアにも叩かれていた。今でこそそれも笑い話となり、なんなら不倫についての意見を聞きたいと言う顧客も増えたのだが、その時の家の中は面倒ごとはもうごめんだと、そう言う空気で満ちていた。


その頃からだ。私が男に対して嫌悪感を抱き、敵意をあらわにしたのは。


そしてそんな中、私は再び学級事務の仕事で放課後残ることになり、あの教師が再びやってきた。


教師は私の足を触ってきて、私はそれを咎めようとした。すると、



「川端さんのお父さん、今大変だよね…?」



小さな声でその教師はそういってきた。

私は自分の心臓が異常なまでに痛くなるのを感じた。



「君が今迷惑をかけたら確実に家族は崩壊する…気疲れするお母さんにメディアに追われるお父さん。そんな中で君はご両親を頼れる?あぁそれとも…頼る必要もなく、これを期待してたのかな?」



教師は下卑た笑顔でそう続け、私の足からお腹へと手を伸ばし、撫で回し、そして胸へと手を伸ばした。



「いやっ…」



自分でも今の両親に迷惑はかけたくないと思っていた。それを見透かされてこんなクズに手を出された。

そんな落ち度で、失敗で、この身が汚されるなんて…あまりにも悔しすぎた。


少しでも抵抗しようと出した声は震え…かすかに視界が歪む。

教師の手が私の胸に触れたその瞬間全てが嫌になった。


だけど、そんな嫌な世界にも救いはあっだんだ。



[カシャ]



「え…?」


突然鳴ったシャッター音に教師は反応して、音のなった方へ目を向ける。


私もそこに目を向けると一人の女子生徒がいた。



「教師が優秀な女子生徒に脅迫して不純異性交遊を迫る現場、抑えさせていただきました。」


「な、あ、川端さん!?」



川端梓。最近転校してきた川端カンパニーのご令嬢だ。私のバカな父親が顧問弁護士として働いているのも彼女の父親の会社だ。

この人を始めて見たとき、私は初めて敗北を味わった。人形のように整った容姿、成績優秀であり運動も私よりできていた。そんな彼女が今、私に触れていた汚物に対して異様なまでの冷気を放ち、冷たい瞳で睨んでいる。



「ど、どうしたんだい?こんな時間に…」


「今すぐ竜胆さんから離れなさい下郎」



川端さんは汚物の言葉を遮るように強く言い放つ。



「その子は私の大事な友達です。それ以上その子の近くにいるようなら、この国に居られると思わないでください」



川端さんの目は本気だった。その毅然とし、堂々とした振る舞いに汚物は震えていたが、すぐにその目は怒りに染まった。


30も超える大人の男が、たった13の少女を前に震えていたのだ。そのプライドはすでに燃え尽きつつあるロウソクのごとく弱々しい。


それでも汚物は抵抗しようと、川場さんに襲いかかった。


しかし川端さんはそれを避け、汚物の股間にロンファーをぶち込んだ。


汚物は汚い声を撒き散らして悶え、足をばたつかせる。その様子は羽をもがれた鳥のように哀れでかなしいものだった。


川端さんはそんな汚物には目もくれず、私の方へ来て手を引いてくれた。



「今のうちに!」



川端さんはそう言って走り出した。

学級事務の書類が、羽ばたいた鳥が残した羽のようにばら撒かれる。


この時、私は初めて一生尊敬できる、忠義すら誓える梓様と出会ったのだ。



その後、汚物は今まで私にしたように他の生徒達も脅して自らの性欲を満たしていたらしく、それをとある情報筋からバラされて学校はおろか、日本にすらいられなくなるほど多くの情報を流されていたらしい。

梓様にそのことを話すと



「上手くいってよかったわ、外国なら事故にあったっておかしくないもの」



と、ざまぁみろと言わんばかりに楽しそうに笑っていた。



この方の側でずっといられればいいと、本気で思えた。


だが最近…梓様の近くに羽虫が現れた。

大城健。見た感じ普通としか言えない単なる一般人だ。


両親は共働きで海外へ、弟と妹が一人ずついて、校内に存在するへんな部活に入っている。


その変な部活に梓様はここずっと通っていた。おそらくあの羽虫に会うために。一緒にお昼を食べたり、放課後に一緒にいたり…



だから私はあの羽虫が嫌いになった。その羽虫が、梓様へ下心をもった目を向けるのがどうしても許せなかった。


そして、ある日の放課後に校舎裏に呼び出した。


そこで予想外のことが起きた。


大城健は私達に怯えもせず、むしろ起こっていた。



「それってさ、傲慢だよね」


「は?」



言われてすぐは頭が働かなかった。


しかし、あいつが言ったことは私の中でどこか覚えていた引っかかりのように感じた。


その日から少しずつあいつの事が気になり始めた。梓様が何故興味を抱くのか、そして、何故あのような考えができるのか。



ここ数日では梓様は明るくなられた。それも一応あいつの影響だと考えると腹立たしい気持ちと共にほんの少しの感謝もした。


だから今日、IDを交換してでも言いたかった事があったのだ。



『気づかせてくれてありがとう』


と、そうメッセージを送った。

















しかし、悔しいものは悔しいので、

『それでも梓様に手は出すな!』

と、念入りに釘を刺しておいた。

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