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雨さんさん

しとしと降る雨は窓に体当たりしながらそれぞれが似たようで違う音を奏でている。


晴れの日にこの窓から見える景色は空と海の境界がうっすらと見える絵画のような美しさがあるが、今は鼠色の雲が重く荒れる海にのしかかっている。


せっかくの昼休みだというのに外で食べることもできずジメジメとした教室で黙々と食べていると感傷的になってしまう。



「なぁ…雨の日って最悪だよな」



ふと前の方から声がして窓から視線を外すと、いつのまにか将吾が椅子を後ろにして向かいに座っていた。



「…いつからいたの?」


「お前には親友の姿が認知できなかったのかよ?」


「親友なら認知してたかもね」


「冷たいねぇ…それより雨だ雨。こんな天気じゃ気持ちだって落ち込むだろ」


将吾はそういうと何故か窓を全開にした。パタパタと窓に当たっていた雨粒が僕の頰にあたる。それと同時に雨の日特有の晴れの日とは違う不思議な匂いが風に運ばれてきた。



「ねぇ、濡れるんだけど」


「濡らしてるんだよ」



雨はそのまま教室に入り込み、他のクラスメイト達が少し嫌な顔をしている。流石に早く閉めないと迷惑になりそうだったので将吾の脛をちょっと強めに蹴り、閉めるように促す。

決して、何故か勝ち誇ったように笑っていた将吾に腹が立ったわけではない。


将吾は不満気に窓を閉める。



「んだよ…せっかちだなぁ」


「将吾のせいで僕の机の被害は甚大だよ」


「机一つ犠牲にする事で教室の大気環境が少し改善されたんだ。もっと喜べよ」



訳の分からない言い訳に対して再び脛に蹴りを入れようとしたが今回はひょいとかわされてしまった。

また勝ち誇ったような顔になる将吾と僕の机下戦争が始まる。


ガタガタと激しく揺れる机に比べて、僕と将吾は涼しい顔をしたままお互いに攻撃の手…いや、足を止めることはない。



「…あんた達何してんの?」



お互いに次の足の動きを読んでいると隣のクラスから遊びに来ていた星宮が横槍を入れてきた。



「これは男をかけた戦いだ。邪魔するなよ」


「将吾がムカつくからやった。すぐに終わらせるよ」



僕と将吾は星宮にそう言って一度放置し、再び机下戦争を再開させる。

しかし、それが星宮を怒らせてしまったらしい。


無言で首の根っこをすごい握力で捕まれて、僕と将吾は借りてきた猫のように大人しくする羽目になった。



「部室行くわよ、仔猫先輩が話しがあるらしいから」



僕達は星宮の殺気のようなオーラに気圧されて、ただ頷いた。


教室の外には神崎が待っていたようで、僕と将吾が引っ張られてるのをみて驚いた顔をしている。

星宮が腕が疲れたというので僕と将吾は投げ捨てられた。



「もっと優しく投げてくれよ…」


「投げられることに慣れてきてない?僕ら…」



一瞬だけ将吾と同じことを考えてしまったが、女の子に投げられること自体稀な出来事なのだと思い出すとなんだか少し恥ずかしい気がした。



「いいからとっとと歩きなさいよ…お昼休み終わっちゃうでしょ?」


「ちっ、なんでゴリ宮が仕切ってんだか…」


「何か言った?墓月?」


「ま、まあまあ…葉桜先輩も待ってますし急ぎましょう?」



今にも星宮と将吾の追いかけっこが始まりそうなのを神崎がなだめて落ち着かせている。

僕も何か言った方がいいかと考えたのだが、星宮の機嫌をみたところ逆効果になるだろうと口を閉じていた。


部室に着くと仔猫先輩がいつもの席に座っていた。いつものようにどこか不思議な雰囲気を漂わせ、お気に入りのスノードームを眺めている。その光景はまるで一枚の絵画のように見える。


しかし、今日の仔猫先輩はいつもよりどこか上機嫌のようだった。



「きたな?貴様ら、これで全員か」



仔猫先輩の声が少し弾んでいるように聞こえた。



「あの…葉桜先輩?まだ川端さんが来てませんよ?」


「あら、私ならここにいますわよ?」



神崎がそう聞くといつのまにか僕の後ろにいた川端が当たり前のように話し始めた。



「え?いつから?」


「みなさんが何処かに向かうところが見えたのでついて来たのです。先輩に呼ばれていたのなら私も呼んでくれたらよかったのに」


「ちぃ、気づいてたか…」



星宮がちぃと小さく舌打ちしている。まさか私的理由で呼んでいなかったのだろうか…?



「まあここにいるなら問題はない。それより今年の夏休み、貴様らは予定を空けておけ」


「え?どうしたんですかいきなり」


「夏休みと言えば決まっているだろう?生願部、夏合宿だ」



仔猫先輩は外の雨など気にならないほど明るい笑顔でそう言った。

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