土足で一歩
浮かんでこい!シリアス!
今回はと次回はシリアス回です♪
ー墓月sideー
放課後、今日の部室はいつもより空気が重く感じた。健だけがおらず、仔猫先輩も星宮ゴリラも神崎ちゃんも、話づらそうにしている。原因は分かっている。先日の川端さんの依頼取り消しの件だ。そもそも健を友達候補に推したのは俺だった。
あいつは普段大人しそうに見えながら友達の事になると雰囲気が少し変わる。それがいい方向に変わることもあれば怖い方向に変わることもあるけれど、川端さんを友達として大事に扱ってくれると思ったからだ。
けれど、それだけが理由で川端さんの友達を選ぶのは間違っていたかもしれない。なんせ、今回の依頼はあの「川端梓」からの依頼だったのだから。
彼女がどれだけ周りの女子達から尊敬され、大切に扱われてきたかはこの学校に来てから生徒の間ですぐに思い知らされた。その上同じクラスにいるのだからその様子はもちろん俺にも分かっていた。
分かっていたのに気づけなかった。それが今回の失敗だ。
一昨日の放課後、俺は荷物を置くために部室に来ていた。その時、鍵が開いていなかったのか扉の前には川端さんがいた。
「生願部」の部室の鍵は管理の仕方が少し特殊で、職員室には置いておらず、扉の左下に小さな空間がありそこに隠してある。
俺はそこから鍵を取り部室を開け川端さんに中で待つように言った。
「そういえば大城君はまだ来てないんですか?」
「へ?あーうん」
俺はそう返事をするとカバンを置いて健を探しに向かおうとするした。急いでいたせいか胸ポケットから携帯を落としてしまった。それと同時に健からメールが届いた、川端さんはそれを拾ってくれたのだが、その時に健から貰ったメールの内容を見られてしまった。
川端さんはそれを見ると一気に顔の色が青くなっていった。
俺もそのメールの内容を確認して気まずくなって部室なの外へ出た。しばらく外で待っていると健が来た。少し怒っているように見えた。
その後のことは色々とあって気が重くなった。そしてその日から健はどこか落ち込んでいるように見える。川端さんも、前より周りの男子から閉鎖的になってしまった。
俺も俺なりに責任を感じている。あの時俺が携帯を落としてなければ少なくともあの時に川端さんが竜胆達のことに気づくことはなかっただろう。
俺にできることがあるならなんでもやろう。俺の中での後悔は、あの依頼を解決しなければ残り続けるだろうから。
だから今日、俺は多少嫌われても無理をしようと、俺の作戦を実行することにしたんだ。
ー大城sideー
僕は今視聴覚室に来ている。
今日の部活は映像資料を使うからと将吾が仔猫先輩からの伝言を僕にも回して来てくれた。
しかし、どんな依頼を受けたから映像資料なんて扱うのかまでは聞いていなかった。それに時間になっても他の部員は一人も来てなかった。
「将吾のやつ…もしかして嘘ついたのか?」
こんな時に笑えない冗談をするなんてどうやらお灸を据える必要があるようだ。
僕はふつふつと湧き上がる怒りをなんとか抑えながら視聴覚室から出ようと扉を開けた。そこで僕は抑えていた怒りを一瞬忘れてしまった。
扉を開けると目の前にいたのは川端だったからだ。
「…川端さん?」
「っ…大城君⁉︎何故ここに!」
川端も驚いているようでいつもより口調が荒い気がする。
僕は先日の件もあり目を合わせることが出来ずについ目をそらして話してしまった。
「部活でここを使うって言われてね…」
しかし、この様子を見たところ違うのは明らかだ。大方、将吾が仕組んだことなのだろう、川端に日直の仕事だとか適当な理由をつけてここに誘い出し、僕を騙してここに来させた。その理由は…
「わ、私は明日の授業でここを使うからと墓月君が先生からの伝言を…」
「川端さん、それ多分嘘だよ。明日一限目は国語なんだから映像資料なんて使うはずない」
「…!それもそうですわね…」
川端は悔しそうに俯いた。
ここに川端を連れて来た理由、僕をここに呼び出した理由、簡単だ。先日の依頼の件だろう。
正直余計なお世話だ。時が過ぎればきっとお互いに忘れられただろうし触れなければ痛い思いだってしなくて済む。いつも通りに戻れたはずだ。
そう、入学当時なら思っていただろう。それでも、今の僕にはそれができない。
何故なら僕は知ってしまったからだ。誰かと関わりを持った時にできた傷は痛みだけをもたらすわけではないことを、この痛みを飲み込んだ先にある僕達の時間は何にも代え難い大切なものだとあの人達に教えてもらった。
だから逃げない。逃がさない。あの将吾が分かりやすく準備してくれた機会を無駄にするつもりはない。
「川端さん、話があるんだ」
僕は傷つく事を選び、一歩彼女の心に土足で踏み込む。
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