あの日の
今回は特になしです!
翌日、僕はお昼休みに再び竜胆に呼び出された。しかし、昨日とは違って今日は竜胆一人だ。
「…悪かったわ…」
「は?」
突如としてそう言った竜胆の言葉に僕は間抜けな反応をしてしまった。それが気に食わなかったのか、竜胆はむっとして僕に目を向けた。
僕はむっとしたら女の子は普段より可愛く見えるという将吾も首を傾げる価値観を持ってはいるが、こんなにもトゲトゲしく、可愛げのなにふくれっ面は見たことがない。
なんて阿呆なことを考えていると川端は僕を睨んだまま言葉を続けた。
「昨日、梓様から連絡があったのよ。昨日、あんたを呼び出した事がバレてたらしくてね。最初こそあんたを疑ったけどそれはないってわかってたから」
「…僕が川端さんにメールしてたかもしれないぞ?」
「私達の情報網を舐めないでよ。あんたみたいな冴えない奴が梓様とメアド交換してないってことぐらい知ってる。いつも梓様を見守ってきたのは私達なんだから」
「そうですか…」
まさかの発言に驚き半分、恐れ半分といったところだ。てっきり変な信用を持たれてると思ったが、それは川端へのストーカーで生まれた竜胆本人への信用だった。
正直ここまでやっているとは恐れ入る。いや全く。
「用はそれだけ。だけどあんまり調子に乗らないでよね?あんたみたいなのが梓様の近くにいるだけで殺意を持つ子は沢山いるんだから」
女子社会の闇なのか、それとも川端の周りだけこうも異常なのか、どちらにしろ男の僕が一歩でも踏み込めば泥沼どころか深海にまでひきづりこまれてお陀仏されてしまうだろう。
「別に近寄ろうとしたつもりはないよ。それに、もう依頼は取り下げられてるからね」
「は?依頼?あんた何言って…」
「それじゃ、お昼食べる時間なくなるから」
「は!?待ちなさい大城!何よ依頼って!おい!」
竜胆の言葉に耳を傾けるつもりはなかった。
せっかく作ってきた弁当は、何かが喉に引っかかっているような気がして全然食べられなかった。残してしまうのも勿体無かったので残りは全て将吾の口の中にねじ込んでおいた。
そのせいか否か、午後の授業はほとんど集中出来ず、将吾は気持ちよさそうに熟睡していた。
ー川端sideー
私はきっと浮かれていたんだ。
昨日からその事をずっと後悔している。
初めて彼に、大城健に出会ったのは高校に入学してから一週間が経ってからだった。その頃には私の周りには中学から一緒の竜胆さんや御手洗さん、そして二人の近くにいる女の子達て囲まれていた。
何とかして没落ルートから逃れたかった私は主人公を避けるために男子を避けていた。それ以外にも男子を避けていたい理由はあったが、やはり没落するかもしれないという恐怖は私の中にいつもあった。
その日の放課後、日直としての仕事をしていた私は一人で勝手のわからない仕事に苦戦していた。
一人というのは、今日日直の男子がサボって帰ってしまったのだ。
いつも近くにいる竜胆さんも御手洗さんも習い事や部活で先に帰ってしまい、私は一人で教室の掃除をしていた。
「これだから男子は…」
か弱い女子が仕事をしているのにそれを放って自分は帰宅しているのだ。やはりろくな奴がいない。
このゲームの中に入ってから、私の中の男子への価値観は変わってしまった。
元の世界にいた時は普通に友達として話せていたが、この世界では私の周りに来る男子というのは「川端家」の財力を狙っているどこぞの御曹司や野心家、みんな何かしら下心をもって近づいてくる。
私はそれに酷く嫌気がさしていた。
だれも私自身の事を見てくれてはいない。財力を狙っただけの彼らは作り笑顔ばかりできっと一人で広い教室を掃除したことすらない温室育ちのお坊ちゃんなのだろう。
「はぁ…馬鹿みたい」
こんなに面倒な仕事なんて適当に終わらせて仕舞えばいい。そう思い私は掃除道具を片付けようとする。すると、
「…川端さん?」
扉の方からした声に私は目を向ける。そこにはかつてよく目にした姿があった。
「翔?」
そこにいたのはあの世界で私の幼馴染の原島翔だった。
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