本当の姿(後編)
昨日書き忘れてました…誠に申し訳ございません
私が「君と僕と願いと」という恋愛ゲームの中に入ってしまった事に自覚して一ヶ月がたった。
私は「川端梓」がゲームの中でどのような働きをしていたかもう一度整理した。
お金持ちで冷血、気に入らない者は誰であろうと蹴散らす気性の荒さと理不尽さ。それを可能にしている権力と地位。父親が大手企業の社長、母親もアパレル企業で成功している一家だ。
そんな「川端梓」は主人公が攻略するはずの女の子達をいじめて女の子達を転校させたり、心を折って主人公から離れさせたりする。そんな「川端梓」に対して主人公や彼の味方は力を合わせてイジメの現場を取り押さえ、それにより力を失った「川端梓」は学校内で孤立、イジメ問題がニュースに取り上げられて両親の会社にも大ダメージを受け借金地獄…
明るい未来が一切ないキャラだ。
(いやぁ〜〜!なんでよりによって梓なの!)
心の中の私は荒れに荒れまくっていて、いっそのこと金髪にでも染めてやろうかと思った。唯一の救いといえばお金持ちの家だからかご飯がとても美味しいことだけだった。
今日の夕食は回らない寿司屋だ。私はイクラの軍艦巻きを口に放る。プチプチとした食感と、割れたイクラの中身から旨味を含んだ液体がふわりとした口当たりのシャリと合わさってとても美味しい。
美味しくてお箸を止められない私は食べながら考えた。このままではこのお寿司が価格108円のコンビニおにぎりが出てくる食卓に変わってしまうかもしれない。それだけは絶対に阻止しなくてはならない。私はこの日から貯金と、そして周りからの評価にこだわり始めた。
月に3万円入るお小遣いは5千円だけ取り出して残りはクッキーの缶に入れた。習い事も進んで行くようにして、小学校に入ってからは家柄で寄ってくる子達に優しくした。
正直、下心が見えている相手と話すのは苦手だが、そんな中にも本当に友達と呼べる子達もできた。
そして月日が流れて、私は主人公やその周りに現れる登場人物達が通う高校に入学することが決まった。
高校でも私に寄ってくる子達はいたが、その寄ってくる意味が中学の頃とは変わっていた。女の子は特にいなかったが、男の子達は親に言われたのだろうか、色目を使うようになってきた。
もしそのせいで他の女の子達からイジメでも受ける事になったらひとたまりもないと思った私はなるべく男子を避けるようになっていた。そのせいだろうか…
学校が始まって3ヶ月、私には女の子の友達はいれども男の子の友達が一人もいなかった。せっかくの高校生活、お付き合いができれば何という贅沢か。前世で付き合えなかった私はそう思っていた。
そうやって途方に暮れていた時、私はある一人の男の子に出会った。「大城健」。同じクラスの男の子だが、その子の何に惹かれたかというと、とても前世の私の幼馴染に似ていたのだ。
それに気づいた時から私は時折彼を見るようになっていた。別に好意を寄せているとかではなく、ただ気になるのだ。久しく会っていなかった幼馴染の顔、前世での記憶が少しずつ頭に浮かぶ。それがなんだか心踊るような感覚になるのだ。そんな彼だから、私は友達になりたいと思った。
しかし、ある日とんでもないことになってしまった。なんと「大城健」は主人公だったのだ。
攻略キャラの一人、転校生の「神崎初香」を「生願部」へ連れて行った彼が、いつか私を没落させる人物だと知ると目の前が真っ暗になった。
目が覚めるとそこは見覚えのない天井だった。ああ、夢だったのかと、そう安堵したかったが、そんな事はないとわかってしまう。ベッドから起き上がると保健室の三河先生がいた。
「おはよう川端。いきなり倒れたらしいが特に悪いところは見受けられなかった。すぐに帰れるぞ?鞄はそこにある。お友達が持ってきてくれていたぞ」
「ありがとうございます。ご迷惑をおかけしました」
精神的ショックで倒れただなんて口が裂けても言えない私はすぐにベッドから降りてからスタスタと出口へ向かった。すると、
「…なあ川端、悩みがあるなら聞くぞ?」
背中越しに三河先生の声が聞こえた。私はゆっくりと振り返り三河先生を見る。まるで私の心の中を覗かれたかのような錯覚を覚えた。
「ほら、私は一応カウンセラーもやっている。これも仕事の一環だ」
そういうと三河先生はとなりにあったパイプ椅子を広げて座席をポンポンと叩く。どうやらここに座れという事らしい。私はそれに大人しく従い座った。
「それで、どうしたんだ」
私は倒れた理由を省いて大まかに事を話した。すると、三河先生が飲みかけの缶コーヒーを、一息に仰ぐとゴミ箱へ投げた。
「そういう事ならうってつけの場所がある。「生願部」というんだがな?」
「生願部、ですか?」
確か最近転校生の神崎さんが入った部活だと他の女の子の友達から聞いた。
三河先生はニヤニヤとしながらその部室の場所を教えてくれた。私はそこへ行った。旧校舎と新校舎を繋ぐ渡り廊下の窓からは運動場で走り込みをする部活生の人達が見えた。そんな彼らの様子がどこか遠く、そしてとても羨ましいと感じた。
部室の前に着くと、中からは騒がしい声が聞こえた。私はその扉をゆっくりと開けた。
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