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氷華姫の願望

よし!本日2話目!宣言通り実行できました!

今現在、「生願部」の部室は類い稀な異常気象に見舞われていた。


かたや怒りで火山の如く燃え盛る部活仲間、かたや氷山の如く冷たく尖っているクラスメイト、そしてもう一人、苛立ちを隠せずピリピリといつ雷が落ちてもおかしくない先輩。


残った僕と将吾、神崎は部屋の隅っこで怯えたように縮こまっていた。

なぜこうなったのか…理由を話せば30分ほど前に遡る事になる。










「こちらが、「生願部」ですか?」

「氷華姫…?」


僕はついそう口から漏らしてしまった。すると、「氷華姫」こと、川端梓は僕をその凍るような冷たい目で睨んできた。

一瞬の恐怖で呼吸が止まり足が固まる。僕はなんとか一礼すると、彼女も礼儀正しく礼を返してくれた。

その所作を見るだけでも育ちが違うのを実感させられる。


「三河先生の紹介でここにきました。願いを叶えてくださる部活だとうかがってますわ」


彼女はそう言うと仔猫先輩を一点に見つめる。仔猫先輩もそれを見返してしばらくの間沈黙が生まれてしまった。その沈黙を破ってくれたのは星宮だったが、これが異常気象の始まりだった。


「えーと、川端さんだった?とりあえずそこでいいから自由に座って?話だけでもとりあえず聞いてあげるから」

「はい、では失礼します」


そう言って川端は部室に入ると僕の隣に座った。


「え?」


つい間抜けな声を出してしまって口を手で塞ぐ。聞かれていないかと隣の様子を伺うが、表情一つ変えず、涼しい顔をしていた。どうやら気づかれてはいなかったようだ。

しかし、何故か星宮がここで不機嫌になった。


「ちょっと、川端さん。私、そこに座ってって言ったんだけど?なんでそこに座るのかな?」

「空いている席なら他にもありましたし、ここならみなさんに声が届きやすいかと思いまして」

「それならこのバカの隣でもいいんじゃない?そっちでも全然声は届くと思うけど」

「そちらは…生理的に無理です」


そんな話に出された将吾を見るとほとんど息をしていない。どうやらボケる事も茶化すこともできないこの雰囲気の中でただでさえきついのに、その上で二人にボロクソに言われて精神的に死にかけているのだろう。出来る事なら今すぐにも衛生兵か三河先生を呼んであげたいが、それが出来ないので心の中だけで合掌しておく。

そんな事をしている間にも川端と星宮は口論を続けていた。するとそこで仔猫先輩が切り出した。


「…なあ川端、このままでは貴様の依頼の話も聞けないだろう。一度そこのバカの隣に座ってくれないか?それが嫌なら別の席でも構わん」

「席は自由に座ってもいいと初めに星宮さんがおっしゃっていましたよね?」

「だからってなんでそこなのよ!もっと席はあるでしょ!」

「あのな…」

「そちらに座るならみなさんに依頼を聞いて貰いたかったのですが、貴女にだけは聞かれたくないですわ」

「ならいつものお友達に相談して解決してきなさいよ?こっちはみんなで解決してきてるんだから」

「おい貴様ら、話を…」

「だいたいなんでわざわざ大城の隣なの?気でもあるわけ?」

「あら?大城君の隣という事に拘っているのは貴女でしょう?私はそんなこと気にしてなんていませんわ」

「……」

「なんですって!この雪女!」

「あら怖い、ここに雪女なんていませんよ?見えないものが見えるなんて…メンヘラ女は怖いですわね、あぁ怖い怖い」

「いい加減にしろ!」


そこで仔猫先輩の雷が落ちて僕と将吾と神崎はみんな部室の隅へ避難した。


そこからは三人の言い合いが始まり、そして今硬直状態に陥っていた。

僕ら三人はヒソヒソと会話を始めた。


「なぁ…なんでこんな事になったんだよ…」

「僕だって分かんないよ…席なんてどこでもいいだろうに…何にこだわってるんだろう…プライド?」

「…多分違うと思います。大城君って意外と鈍感なんですか?」

「え?うーんどうだろう…蚊とかいたら1番に気づくけど…てかなんで今その話なの?」

「見ての通りだ神崎ちゃん」

「どうやらそのようですね…」


神崎にガッカリな人間を見ているかのような目を向けられて結構ショックを受けた。

すると、仔猫先輩が大きくため息をついた。


「はぁぁ〜…なら大城と神崎はそこに座れ。バカはゴミ箱の中、貴様ら二人はそこに並んで座っておけ」

「「なっ⁉︎」」

「何か文句でもあるのか?あ?」


どうやら仔猫先輩も相当お怒りの様子で女子高生が決して出してはいけないやうな声を出してしまっている。その様子を見て二つの山もすっかり勢いが弱まって席替えが始まった。


「…はぁ…次こんな事が起きたら貴様の依頼はなかった事にするぞ川端」

「…申し訳ございませんでした」


川端もなんだかしおらしくなってしまった。その姿がいつもの凛々しくて気高く、そしてどこか冷たい彼女からは想像できなくて。ギャップ萌え、というやつなのだろう。なんだか可愛く思えた。


「それで、貴様の願いとはなんなんだ?」

「それは…」


川端は言いづらそうにもじもじとしている。その姿はなんだかとてもドキドキしてしまう。ちらっとこちらを見てきた川端と目が合い、すぐに逸らされる。

…何故だろう?あんなに怖いはずの川端梓が、「氷華姫」がすごく可愛い女の子にしか見えない。


「川端さん?大丈夫だよ。ここにいる人達は誰も貴女の願いを笑ったりしない。私がそうだったから。だから、ね?」


神崎がそう川端に優しく話しかけた。神崎本人もここに依頼に来たのが始まりだったからそれが印象強く残っているのだろう。連れてきたのは僕だったけれど…

川端は神崎にそう言われるとゆっくりと言葉を口にした。


「……こ………………す」

「え?」

「…のこ……だ……です」

「えーと…ごめんね?もう少し大きな声で…」

「男の子の友達が欲しいんです!」



「氷華姫」は見たことない真っ赤な顔になりながらそう言った。

正直僕からしたらそれは意外だった。川端はいつも周りに女子が付いていて、男子のことを毛嫌いしているように思えたからだ。しかし、今言ったことは本当のことなのだろう。

川端は先程からずっと下を向いている。どこかで同じような姿を見た事がある気がした。


すると、神崎がそんな川端の手を優しく握って声をかけてあげている。


「ほら、大丈夫。誰も川端さんの願いを馬鹿にする人なんていないよ?ここはそういうところだから」


そのセリフを聞いて思い出した。


(あぁ…僕が神崎さんを連れてきた時と一緒だ)


あの時は神崎も今の川端のように自分の願いを聞かれて不安に思っていたんだった。それを神崎は察して優しく接してあげているのだろう。

そんな最近のことを思い出して、あの時は優しくされていた神崎が優しくしている姿を見て心が少し浮き上がるような感じがした。


「あ、あの…笑わないんですか?」


川端は本当か疑うようにそう聞いてきた。


「やだなー川端さんったら、俺達はそんな事で笑うほど沸点は低くないって」

「何故笑う必要がある?貴様がそう願うなら私達はそれを叶えるために全力を尽くすだけだよ」

「うん、まあそういう事なんだよ。僕たちは川端さんの願いを叶える。人の願いを笑うなんて事は絶対にしないよ」


僕達は口々に当たり前だとそう答えた。川端さんはどこか驚いた表情で、その表情もすぐに引っ込むと恐る恐る星宮を見た。おそらく先程まで口論をしていた相手がこの願いをどう受けているのか怖かったのだろう。しかし、


「はぁ…そんなこと?笑う必要性もないわよ。さっさと作戦たてましょう」


そう言って星宮は簡易ホワイトボードを取り出してきた。川端の表情が今どうなっているのか、彼女がこちらを見ていないからわからないが、きっとその顔は驚きに満ちているのだろう。


たとえ喧嘩した相手でも、何かを望むのなら、願いを欲するというのなら手を差し伸べ全力で叶える。それが僕達「生願部」だ。








最後まで読んでくださりありがとうございます


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