帰還
ピキ……ゴゴゴゴゴ
少女のメイスが開けた穴からヒビが部屋全体に広がり、周囲は崩れ始める。
「神が死んだので空間が崩壊し始めましたね。ここにいると巻き込まれます。逃げましょう」
少女はそう言うやいなや自身の体を超える大きさのメイスを地面から片手で引き抜き肩に担いだ。
もう片方の手は六城の腰を掴む。
「おい、ちょっと待てまさか」
彼女は彼を掴んだまま穴に向かって飛び上がり、空間の外にでる。
「俺はエージェントだ。自分で脱出できる」
「そう言えばそうでしたね。失礼しました」
六城を地面に降ろしつつ少女は無表情で言い放つ。
「そう言えばって……もういい。ここはどこなんだ」
李世は呆れながら辺りを見渡す。
「あの神が祀られていた場所です。そこが一番介入しやすかったので」
「それにしては随分ボロいな」
森の中にあるその神殿は所々崩壊しており周りは苔で覆われている。六城が近づき彫られている文字を見るが脳にある文字情報と一致しない。
「もはや人々に名前すら忘れられた神だったのでしょう。神格も低く、私のような人間にすら殺される神。そんなところです」
ピピーッ
その時、六城のヘッドセットに着信があった。
『おう!利生か!ようやく繋がったぞ。ということは神から逃げられたんだな。そちらにエージェントが到着しているだろう』
「状況は把握済みですか……。というかあの少女本当に機構のエージェントだったんですね」
『何!? 少女? そいつ女なのか!』
「えっ。あんたが送り込んだんでしょう?」
『いや、送り込んだのは12人委員会の連中だ。あの連中が手を打ってなかったらお前はまだ神に囚われたままだったな』
「うわ、マジですか。一体どこから情報得てるんですかアイツら」
『知るか! それにしても少女か。予想外すぎる』
「はい?」
『神に対する専門家と委員会は言っていたからな。しかも救出終了後にお前の相棒として異世界庁に配属すると』
『何ですそれ? 俺は今まで単独行動だったんですよ。それに知ってるでしょう。俺の能力は』
『わかってはおるがな。とにかく戻って来い!話はその後だ』
下鴨が半ば強制的に通信を切る。
「あっ、切りやがった。しかし、相棒って……」
六城はちらりと少女を見る。
彼女は150cmあるかないかの背丈で腕や足は細い。
なんであんなメイスを持ち上げられるのか。
確かに機構は多種多様な方法で人体を強化しているがそれにしたって向き不向きがある。
そう考えていると、少女はこちらに顔を向けた。
「あの、どうしましたか?」
「……鳴瀬、だったか。とりあえず帰還するぞ」
足元が青白く光り、魔法陣が現れ、目の前が真っ白になる。
浮遊感に襲われながら目を開けると、そこは元いた世界。機構の異世界転移陣がある第8棟だった。
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異世界案件報告書
第9215件目
異世界クラス「leaf」
リングヘルン王国
タイプA-2及びA-3
今回調査したリングヘルン王国は現行世界の男子高校生を召喚することに成功しました。
術式は彼らのみで作製したものではなく「奇跡を起こす魔術師」によって作られたとのことです。現在機構は後続部隊を送り込みその魔術師達との接触を図っています。
案件はすでにエージェント・六城によって解決済みであり再び異世界召喚が行われる可能性は低いでしょう。
転移者の奪還、転移陣の破壊、関係者の殺害を完遂し、案件は終了しました。
転移者である少年は遠魂分離機にセットされた後レベル3の記憶改竄を行い、行方不明の原因を「家出」としました。
少年はその後警察に引き渡され、保護された後家へ引き取られました。
以上で報告を終了します。
エージェント・六城
ーー以下の情報開示にはセキュリティレベルA以上が必要となります。
ーーセキュリティレベル???を確認。情報を開示します。
エージェント・六城は帰還時に「神」と接触。
その際危機的状態にあったのをエージェント・鳴瀬によって救出され、エージェント・鳴瀬は日本支部異世界庁に配属となりました。
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≪12人委員会による第2階級命令≫
日本支部異世界庁長官・下鴨頼銘及び異世界庁所属A級エージェント・六城利生が、C級エージェント・鳴瀬沙耶について言及することを禁ずる。
また、機構内部にて彼女の素性を調べようとした者がいた場合即座に報告せよ。
別命令としてA級エージェント・六城に告ぐ。
これより先、行動時は彼女を伴うように。
以上。
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閲覧ありがとうございました。
今回はあまり話が進みませんでしたね。
よくわからない連中がとりあえず暗躍してます。
それではまた次回。
追記・5月13日改稿しました。