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対異世界機構カルネアデス  作者: 南京錠
「ある医者の話」
30/30

終幕





「今すぐ息の音を止めてやる……」


 ペストマスクの体から青白い(もや)が現れる。

 それは徐々に固まり、人間の様な形を作る。


「奴らを腐らせろ!【ペイルライダー】!!」


 鎌を携え彼の術はこちらへ向かって来る。

 六城たちは全員その鎌を避けたが、それだけで攻撃は止まらない。


 毒々しい黒い鎌は二度と三度と振るわれ、こちらを襲う。

 【ペイルライダー】が大きく上段に構え、それを振りかぶった時、鳴瀬に向かってその鎌が飛び出した。

 突然の攻撃で彼女はそれを避けれなかった。


 当たる。

 そう思った瞬間、鳴瀬の眼前に躍り出たのは薬膳だった。


「ぐはっ!」


 肩口からざっくりと切られる。

 だがそれ以上の効果が現れた。

 切られた薬膳の手足や顔に黒い発疹が出たのだ。


 ぐらりとよろめきそのまま彼は倒れた。

 ペストマスクは悠然とその横を通り過ぎる。


「フフ、まずは1人……。さぁ2人目だ。

 次こそその女を殺す。どうした?

 恐ろしくて声も出ないか?

 精々いい悲鳴をあげてくれよ!!」


「いや……後ろ……」


「は……?」


 鳴瀬が指差すとペストマスクの真後ろには薬膳が立ち上がっていた。

 黒い発疹は消えている。


「うむ。【ぺいるらいだぁ】と言うだけあって使う術はペスト菌の様だな。

 お前さん今回この国を騒がせている病といい既存の病気を改造する事しか出来んだろ」


「そんな馬鹿な……!通常の100倍で進行するよう調節したペスト菌だぞ!?どうやって!」


「ん?治したぞ?

 私は仏のご加護を受けているのでなぁ」


「ふ、ふざけるな!こんな……」


「おい」


 薬膳がペストマスクを引き付けている間、ビゼンは既に行動を終えていた。


大銀条(だいぎんじょう)穿落星(はくらくせい)


 ビゼンが投げた小さな針金数本がペストマスクの頭上で巨大化し、2mはある槍として彼の体を貫いた。


「ぎゃああああ!!!」


 針金は彼の体内で枝分かれし串刺しにする。


「急所は避けたが抜けたくても抜けられねぇぞ。

 ペスト菌なんて言葉を知ってるんだ。

 お前も地球人だな?

 どこの組織に所属している!」


 ビゼンに詰め寄られペストマスクはただ一言だけ、


To anothr(次の世) world line(界線へ)


 と呟いた。

 次の瞬間、顔からドロリと蝋人形の様に溶けてペストマスク、マントと帽子以外は泥の塊になってしまった。


「失礼します」


 鳴瀬がそれに近寄り、泥から札のようなものを取り出した。


呪い(まじない)よ、還れ。

 彼の者に遡り自らの生誕を呪え!」


 バチンっと札に火花が散り、四散する。


「……すみません、失敗しました」


「何をやったんだ?」


 六城が尋ねる。


「あれは身代わり人形です。

 本体は別の場所にいるのでしょう。

 人形を形成していた札を媒体にして本体に呪いをかけようとしましたが気づかれたようです」


「サラッと怖いことするな」


「ただ、術は解けたみたいだぜ。

 居残った奴らから連絡があった」


 いつのまにかヘッドセットをしていたビゼンがそう言った。


「じゃあ、帰るか。

 ようやく一件落着だ」


 こうして全てが長い夜と共に終わった。

 



♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢




 一方、地球側は大騒動となっていた。

 アメリカ本部を抑えて巨大化した日本支部による反乱だと各国の支部に衝撃が走った。


 保安庁副長官であるテジマヤは一刻も早く事態を収拾するべく奔走していた。


「通常の転移装置からエージェントを送り込んで鎮圧出来ないのですか?」


「向こうで何が起こっているかわからなイ!

 ソレに富士見S級研究員が座標を改竄したらしく転移装置でエージェントが送り込めン!」


「テジマヤ副長官!

 フィラデルフィアS級研究員が到着しました!」


「通セ!」


「失礼しますよ」


 現れたのは白衣を着て大きな黒縁メガネをした白髪の老人だった。


「ヨウコソいらっしゃいましタ」


「日本は遠いね。

 米軍基地を経由して5時間だ」


「ソレでも民間機の半分くらいの時間ですがネ。

 早速ですが本題に入りましょウ」


「うん。【白象牙の塔】が奪取されたんだってね」


「ハイ。誤作動ということはあり得ませんよネ?」


「勿論だ。

 富士見S級研究員も同行していたんだろう?

 彼なら問題無く異世界に繋げる」


「単刀直入に【白象牙の塔】の開発者である貴方ニ聞きまス。現時点で我々が打てる手はありますカ?」


「無いね。残念ながら」


 その言葉を聞いてテジマヤは嘆息する。


「ただ、【白象牙の塔】完成直前に緊急の呼び戻し装置を開発してね。現在アメリカ本部から輸送中だ」


「ソレがあれバ!」


「とりあえずは解決出来る。

 到着後すぐ起動作業に入ろう。

 それと、アメリカ本部と連絡を取るので部屋を用意して貰いたいんだが……」


「ワカリマシタ。ゲストルームを使って下さイ」







 フィラデルフィア研究員はゲストルームに入ると、自身のトランクケースを開く。

 その中に入っていたのは着替えなどでは無くいくつかの機械だった。

 彼はそれを手で組み込み、アンテナを張りダイヤルを回して機械を調整する。


 何度かそれを繰り返した後、カチッという音と共に通信が繋がった。


「もしもし!富士見研究員かね!?」


『おや、フィラデルフィア研究員だね?』


「君は一体何をやっている!?」


『今?クレマイヤ王国に忘却剤を散布するところだよ。転移者は保護出来たけどね』


「そうでは無い!大変な事になっているんだぞ!

 (そら)の工兵大隊に待機命令が出た。

 指示があればすぐ日本支部に乗り込んでくるぞ。

 それに先ほど【異界門戸解放軍(ゲートウェイ)】討伐作戦の応援として韓国支部に駐留していたフランス支部の遊撃部隊がこちらに向かうと連絡があった。

 早く戻ってきたまえ!」


『【異界門戸解放軍(ゲートウェイ)】?A級危険監視団体の?

 もう討伐作戦が終わったんだね』


「とりあえず近場ではな。

 連中も各国に巣くっている。

 カルネアデス機構の汚点だ」


『ふーん……。まぁ早めに戻った方が良さそうだね』


「【白象牙の塔】の呼び戻し装置があと2時間で到着する。起動準備を込みにしても余り時間は無いぞ」


「今、転移者と異世界人の涙の別れなんだけどなぁ」


『一刻も早く戻ってきたまえ!!』


 フィラデルフィア研究員は通信を切り頭を抱えた。




  ♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢




「というわけでゴメンね?巻きでいこう」


「富士見さん……」


「アンタなぁ……」


 富士見の発言に六城と鳴瀬はため息をついた。

 その様子を無視してシルヴァとジュリエッタは向かい会って話を


「ジュリエッタ。君には私の持つ医療技術をほとんど教えた。もう私は必要ない。みんなを頼むよ」


「私……嫌です!シルヴァ様と離れたくない!」


「ジュリエッタ……。すまない。

 君といた10年は、病で不自由だった前世と比べて素晴らしいものだった。かけがえのないものだ」


「じゃあ……!」


「だが、もう私はこの世界に必要無い。

 もともとこの世界にとって異物だった私だが、この20年間ずっと何の為に自分が異世界に転生されたのか考えていた。きっと今回の出来事を解決させる為に呼ばれたのだと思う」


 その様子を見ていた六城がポツリと呟く。


物語(ストーリー)か……」


「どういうことです?」


「異世界に何で地球人が呼ばれるかって理由だ。

 その世界を改善し活躍できる人間を異世界自体が意思を持って選んでるんじゃないかという説だ。

 地球人が無意識下に望んだ世界へ何かの弾みで自ら転移・転生してるって説もあるがな」


「異世界の意思……?」


「転移なら異世界人が恣意的に呼んでる場合が多いからわかりやすいが転生は条件がよくわからない。

 まぁ早い話が、料理人なら飯の不味い世界に飛ばされ、医者なら医療技術が低い世界に飛ばされやすいってことだ」


「それには神も関わっていますよね?」


「ちょくちょくな」


「じゃあこの世界の神も殺しますか?」


「物騒だな……。

 下手に神を殺すと世界が崩壊するからそれは無い」


「そうですか」


 彼らがそんな会話をしていると、ついにシルヴァが別れを告げた。


「だから私はこの世界から出て行く。

 そして迎えに来た彼らは私の助けが必要だと言う。

 人々を、故郷を救いに行かなくてはならない」


「シルヴァ様を必要としてる人達はまだいます!

 この国だって……」


「それは君達が治療するんだ。

 必ず出来る。何故なら君は、私の優秀な助手だ」


 ジュリエッタは今にも泣きだしそうな顔だった。

 しかし彼女はそれを我慢して頭を下げた。


「……いってらっしゃい。シルヴァ様」


 彼はその頭を撫でて立ち去った。

 それを横目で見ていた黒河が尋ねる。


「本当にいいのか?」


「男の覚悟を無駄にしないでくれ。

 それに、六城君が来た時から決めていたことだ。

 この世界でやるべきことが残っている気がしていたからあの時は困ったが、今はもう無い」


「そうかい。……ようこそカルネアデス機構へ」


 全員を収容しヘリが地上から飛び立つ。


「記憶改竄の忘却剤を散布しろ。

 私達の痕跡を消す。

 あぁ、転生者から学んだ技術は対象外でな」


「了解しました」


 ヘリ群が大量の白煙を噴霧し人々を包み込む。

 彼らは最初、この煙に驚いたがすぐに気にしなくなった。何故なら煙に包まれたことも忘れたからだ。


 ジュリエッタは頭を上げる。

 そこへ走ってくる1人の男。


「ジュリエッタ様!

 城の牢獄から支援者の大臣が見つかりました!」


「支援者って……私の?」


「貴女の医療団への支援者に決まってるでしょう。

 堅牢な牢獄ですから無事だったようです。

 あの方は地位も高かったので簡単に処刑出来なかったようですね」


「……そう、ね。すぐ行きましょう」




 その後、大臣を中心に復興したクレマイヤ王国では救国の聖女として1人の医女が崇められた。

 しかし彼女は「それは自分の手柄では無い」と固辞し一切の栄誉を断ったとされている。

 


 








ありがとうございました。

医者の話はこれで終わりです。

次回は好き勝手やった人達が怒られて、六城と鳴瀬が地上勤務に向かいます。

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