黒幕
「俺はビゼン・チャーリストだ。
武器はこの針金だな」
銀髪に長身、神父服を纏った男はそう言った。
六城とは知り合いだったが鳴瀬とは初めて会ったので王城突入前の自己紹介だった。
「うむ!では拙僧の番だな!
来迎院薬膳と言う!武器は己の肉体のみだ!」
彼は頭にはバンダナを巻き、法衣を着ていた。
鳴瀬は何故だか一瞬驚いた顔をした。
「わ、私は鳴瀬沙耶です……。
数日前カルネアデスのエージェントになりました。
よろしくお願いします。
武器は、これです」
例の如く鳴瀬のペンダントが赤く輝き、次の瞬間には巨大なメイスが現れる。
「うぉっ、すげぇな」
「う、うむ」
若干眼を見張るビゼンと薬膳。
そこへ黒河が声をかけて出発を促した。
「おら、お前らさっさと行け。
A級が3人もいりゃどうにかなるだろ」
随分簡単に言ってくれる。
そもそも自分はA級にカウントされる実力はないと言うのに。
六城が泣き言を言っても始まらない。
一行はスラム街から出て、居住区へ向かった。
「グロォォォォォォォ!!」
居住区に入るとそこは人の住む場所ではなかった。
肥大化した人だった何かがそこかしこで暴れまわっていた。
「どうする?」
「強行突破しかねーだろうよ」
六城の問いにビゼンは答える。
彼は腰に下げている武器を構えた。
その武器は針金が何本も組み合わさって出来ており針金剣とでも言えるモノだった。
「大銀条・銀零月山」
バキンッ……ヒュンッ
ビゼンが言葉を口にすると、針金剣は変化した。
まず絡みついている針金が数本解け、形が変わり平たい板になった。
ベキベキと板は折れ曲り、ゾンビ達の首を目掛けて如意棒のように伸びていく。
シュカッ
そして、何という事もなく首を斬り落とした。
「行くぞ」
同じようなペースで会敵したらビゼンが能力を使いゾンビを倒していく。
隠れつつ最短で一般居住区を抜ける。
問題はその次の貴族街だった。
ゾンビは一般居住区の数十倍。
おまけに居住区のゾンビとは体格も動きも違う。
「俺1人じゃ厳しいな。
全員戦闘準備だ」
薬膳は法衣をまくり、鳴瀬はメイスを生み出す。
六城はアイテムボックス(偽)から自動拳銃を取り出した。
ダンッ
元は貴族街の門番だったであろうゾンビに向けて、引き金を引く。
弾丸は頭部に命中したが分厚い肉に阻まれ、そのまま地面に落ちた。
「……」
別の銃に持ち帰る。
こちらは反動が大きい為両手で撃たなければいけないモノだ。
先ほどの自動拳銃よりふた回りほど大きい。
バンッ……ぶしゅっ
ゾンビの頭が弾け飛んだ。
これでいいかと決めようやく六城の準備が終わる。
「六城よぉ。A級なんだし剣とか使えばどうだ?
銃より早いだろ」
「剣は身体能力や技術に依存するから嫌だ」
「銃も同じようなもんだろうが」
俺はあんたらと違って人を殺す感触を感じても動じないほどタフじゃない。
口まで出かかった言葉を六城は抑え込む。
鳴瀬もいる上、彼らも動じない訳ではないことを知っているからだ。
「よし、行くぞ」
一行は貴族街へ入る。
先頭はビゼンで、先ほどの技を繰り返し前にいるゾンビを斬り裂く。
次に行くのが薬膳だ。
彼は法衣を着ているとは思えぬ身軽さでゾンビへと近づく。
「薬利反転・十王腐毒」
地面に穴を開けるほどのゾンビの拳をヒラリとかわし、その額に彼の左手が触れる。
ジュウウウッ!
「オ、オオ、グオォォ!!」
触れた場所から赤黒い模様が生まれる。
それはあっという間に全身に広がり、ゾンビの体は崩壊を始めた。
「先輩、薬膳さんは……」
巨大メイスでゾンビを吹き飛ばしながら鳴瀬が話しかけてくる。
「薬膳の能力はあらゆる薬と毒の効果を生む左手だ。
山修行してたら発現したらしい。
本人は薬師如来の加護だと思いこんでるんだが、あれは間違いなく異能力だ」
「……細かくは考えないようにします」
「それがいい。
異能力に関しては機構もよく分かってはいない」
六城は拳銃から自動小銃に切り替える。
放たれた弾はゾンビの頭部に全て命中した。
「ん?異能力なら六城も持っておるだろうに」
再びゾンビを溶かした薬膳が話しかける。
「そうなんですか?」
「応。こいつは高い空間把握能力を保持しておる」
「それだけですか」
「それだけだな」
「地味で悪かったな!」
事実、地味な能力ではある。
だがこの能力が無ければ何度死んでいただろうか。
後ろにも目がある。
相手の間合いが分かる。
飛んでくる攻撃を察知出来る。
エージェントとして六城がA級まで上り詰めたのはこの能力のお陰と言ってもよい。
王城へ向かう一行の索敵を行なっているのもまた、六城であった。
「お前らそろそろ王城に入るぞ。
準備しておけ」
前方でまた一体ゾンビを斬ったビゼンが言う。
王城はもう目の前だった。
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城内も軒並みゾンビだらけであった。
一行は巨大な広間にいた。
「誘い込まれてるな」
「分かるんですか?」
「手数のゾンビがやられているのに対応してこない。
城に結界を張るなりゾンビ共に罠を仕掛けるなり俺たちを排除する手段はあるはずだからな」
「いやいや、少しやる気のようだぞ。
剣を持ってる」
奥から武装したゾンビが現れた。
ビゼンはそのゾンビを小馬鹿にする。
知恵無き獣が武器を持ってもそれは脅威にはなり得ない。
針金を操り、ゾンビをバラバラにしてしまった。
だが事が動いたのはその時だった。
カツン……カツン……
「!?」
人の足音が聞こえる。
全員が身構えた。
ソレは異様な気配を身に纏っていた。
王城の影全体が蠢いている。
「フフフ……ようこそ、回収者の諸君。
そしてここが君たちの墓場になる……」
影の中から白い手袋をはめた細長い腕が現れた。
そしてズズズッとクチバシが付いたマスクと全身が出てくる。
そのペストマスクを見て鳴瀬以外の3人が溜息を漏らした。
「「「はぁ……」」」
「……何だそのため息は……!」
相手はイラついた声を発する。
黒いスーツは小さく、痩せこけた印象が残る。
六城は尋ねた。
「お前が黒幕だな。ボツ個性野郎」
小銃から手を離さない。
彼の銃口は相手の頭を狙っている。
「いかにも……いや、ボツ個性、だと?……私が?」
ペストマスクは絶句する。
「もう一度言ってみろ。私がーーーー」
「何度でも言ってやるボツ個性野郎!
お前みたいなサイコパスは見慣れてるんだよ!
ペストマスクはお前で10人目だ!」
それは黒幕の正体を見て口から出た六城の本音だ。
続くようにビゼン、薬膳が相手を挑発する。
「そういや俺も7、8人倒したな」
「拙僧は3人くらいだな」
「ペストマスクキャラって中ボスくらいですよね」
ペストマスクは肩を怒らせ震えている。
どうやら妙なところにヒットしたらしい。
「いいだろう貴様ら!
今ここで殺してやる!
特に中ボスとか言ったその女はなぁ!」
奴は鳴瀬に指をさす。
その言葉が一番効いたようだった。
そして、微妙に締まりのない戦いが始まった。
閲覧ありがとうございます。
前回投稿から約1ヶ月かかってしまいました。
「医者の話」もいよいよ終盤です。
次回もよろしくお願いします。




