治療へ
「魔力増結石化症?」
ヘリ群から続々と医師やエージェントが降下してくる。その様子を尻目に六城は黒河に尋ねた。
彼女は真っ先に降りて来たのだった。
その時突き落とされた富士見はミンチになっている。およそ人の所業ではない。
「あぁ。異世界の共通概念の1つにある"魔力は血液と密接な関係を持つ."というのは知ってるな?」
それは知っている。
鳴瀬と出会った世界でも魔力=血液であった。
「この病気は魔力の増加が止めらなくなるモンだ。
同じく血液もな。血液に魔力が乗って体内を循環することで熱を生み出し、発熱するから体中の様々な穴が開いて余分な血液を吐き出させる。
問題はその後だな。血液は心臓へと戻っていくがステージ2になると魔力が心臓付近へ集中する。
それが凝固して石化したのがそこに転がってる虹色の石だ」
黒河はそう言った。
しかしシルヴァは納得していない。
「確かにそうだ。そして石は患者の生命力を吸い取って更に魔力を増加させる。外科手術で石を取り除くしか無いのがこの病気だ。しかし……」
「あんな骸骨は出てこないって話だろ?
だから私は言ったはずだ。
手を加えた馬鹿がいると」
「誰かが意図的にこの病気を作ったのか?」
「そうだ。元々簡単になる病気じゃねぇ。
こんな伝染病みたいな発症の仕方は初めて見た。
お前はこの病気を知ってるみたいだがこの世界ではこうなのか?」
「いや……"魔巡"……こちらの世界での呼び名だ。これはエルフの森にいた時1人発症したことがあったが集団的におきる病気では無い」
そこに鳴瀬が口を挟んだ。
「あの骸骨は魔法や呪術に準じるモノです。
誰か術者がいるはずです」
「その通りだ。テメェらこれを見ろ」
黒河は空中にホログラムを出す。
そこかしこに火がついて燃えている都市の映像。
それはこの国を上空から撮影したものだった。
「さっき飛ばした武装ドローンからの映像だ。
真ん中に立ってるのが王宮だな。
その周りを囲むようにあるのが貴族街。
あってるか?」
「ああ」
この国は壁に囲まれて円の形をしている。
黒河が言った王宮に目を向けると点々と人らしきものが写っている。
「少し拡大だ」
その人らしきものがクローズアップされる。
「何だこれは……」
いや、それは確かに人だった。
しかし生きてはいない。
首が無かったり腕がもげていたり、目は焦点が定まっていないし顔は土気色だ。
更に特筆するとすれば彼らは普通の人間の2倍近い体格だった。体の筋肉が異常に肥大化している。
その腕はまだ生きている人間を掴むとあっという間に引きちぎった。
「うっ」
あまりの様子にシルヴァは顔をそらす。
だがすぐに画面を凝視することになった。
引きちぎられた人間が動きだしたのだ。
同じようにして彼らは増えていく。
その様子はまるでゾンビのようだった。
「……とまぁこの調子だといずれこの貧民街にもゾンビ共がやって来る訳だ」
「いや待て!これは何なんだ!」
シルヴァは理解出来なかった。
まさか貧民街の外がこんな化け物に埋め尽くされているとは思わなかったのだ。
「強いて言うなら病の第3ステージだろうな。
この病気は第2ステージが進むと確実に死ぬ病だ。
ただ、誰かが手を加えて死んだ後その肉体を操れるようにしたんだろう」
「まさかあの骸骨幽霊は……」
鳴瀬が呟く。
もし魂などであればそれを潰してしまえば隣部屋にいる患者たちは二度と目が覚めない。
「いや、あれは術の核となる石を守る術式なだけだ。
魔力を大量に生み出すこの石が肉体強化をする命令の受信装置になってる可能性が高いからな」
黒河は砕けた虹色の石を手に取る。
そこへ降りてきた医師達がやって来た。
「医療班準備完了しました!」
「よし、治療を始めろ。石は取り出したらすぐに砕け。エージェントを1名以上つけてやれ」
それを見てシルヴァは泣きそうな声を出す。
「手伝ってくれるのか!?」
「石を取り出すのは対処療法にしかならねぇがな」
黒河は六城達エージェントを見る。
嫌な予感がし逃げだそうとしたが首を掴まれた。
「お前らにはお前らでやってもらうことがある」
「何を?」
「ゾンビ共は王宮から出てくる。ここに間違いなく術者がいる」
「もう逃げ出してる可能性だってあるだろ」
六城がそう言うと無言でタブレットを渡して来た。
それはドローンの操縦を行うものだった。
「そこの赤い丸を押してみろ」
言われるがままに押す。
ドシュゥゥゥゥゥゥ!!
するとドローンから鉛筆形の何かが飛んでいった。
ロケット噴射で真っ直ぐ王宮へと向かっていく。
ドローンに積まれているそれでは破壊力はたかが知れるが、王宮の一角くらいは吹き飛ばせる筈だ。
六城はそう思っていた。
ズドォォン!
しかし、それは王宮にダメージを与えなかった。
命中する直前に青色の壁に激突し爆発したのだ。
「これは……!」
「科学のバリアか魔法の結界かは知らねぇがこれに防がれる。ほら、来るぞ」
一体何が。
そう言う間もなくドローンとの通信が途切れ画面が真っ黒になった。
「撃ち落とされたのか」
「無人機も含めてさっきから2、3回攻撃してるんだが全滅だ」
六城の嫌な予感は命中した。
何を言われるのかわかったからだ。
「連れてきたビゼン、薬膳、それとお前ら2人でコイツを捕まえてこい」
やはりそう言われた。
いや、「お前ら2人」……?
六城は後ろを振り返る。
そこにはきょとんとした顔でこちらを見る鳴瀬がいた。
閲覧ありがとうございました。
読みづらい文を何とかしようと試行錯誤中です。
次回もよろしくお願いします。




