医療庁前にて
白い壁に赤十字。
病棟の他にも薬草育成の為の温室や異様な煙を吐き出す製薬工場、実験用動物が檻に収容されている飼育場。それらを統括して管理下に置いているのがこの
"医療庁"である。
そこに通じる道、看板には「第13ゲート」と書かれた場所に黒い装甲車が何台も止まっている。
車の前には白衣を着た女性が立ちふさがっていて、その周りにも同じく白衣の医師が数人いた。
「ですから!黒河S級医師は現在行方不明なんですよ!」
「信用出来るか!中を調べさせろ!」
「嫌ですよ!貴方達あっちこっちひっくり返してグチャグチャにした挙句放置して帰るじゃないですか!」
そうだそうだと周りの医師も同調した。
細く長い耳に褐色肌。
白く透き通る髪を持つ彼女は俗にいうダークエルフである。
黒いパワードスーツを着て銃を持った自分より遥かに背の高い男を睨みつけ口論する。
「知るか!奴には反逆の疑いがあるんだぞ。
不穏分子を潰すのが我々の仕事だ!」
彼らは保安庁。
その名の通り、機構内部の治安維持が主な仕事だ。
保安庁は数分前に異世界庁のオペレーター室が制圧されたと通報を受けた。
そして事件に関わったと思われる医療庁最高責任者の情報を入手し、医療庁に押し寄せたとのことであった。
「我々は人を生かすことが仕事です!
それ以外の事は関知しません!」
ダークエルフの女性がそう叫んだ時だった。
「マァマァ2人とも落ち着いテ?」
その声の主は保安庁の車両からぬるりと現れた。
袖の広い中華服を着ている。
「テ、テジマヤ副長官…!」
「君がこの部隊の隊長だろウ?」
「ハッ。そうであります」
隊長は男に敬礼する。
「ウンウン、勤勉ダ。デモそれだけじゃあいけなイ。我々は内に潜む敵から守る盾であり矛でもあル。ソノ為には多少の強引さも持ち合わせなければ、ネ?」
テジマヤと呼ばれた男はそう言ってぽんっと隊長の左肩に手を置く。
ぐにゃあっ
「は……?」
隊長の左肩から腕にかけた部分が粘土のように柔らかく曲がった。
隊長は一瞬の間を置いて叫ぶ。
「フフフ。サテ、女性にこんな事をするのは本望ではなイ。道を開けてもらおうカ」
テジマヤは音も無く近づいてくる。
周囲の医師は後ずさったがダークエルフの女性はそこから引かずに睨み返す。
「ジャア仕方なイ」
男は右腕を近づける。
が、その腕は届かず女性は首を引っ張られるような感覚を受けた。そのまま何かの背後に隠される。
「何やってるんです、あんたら」
緑色の肌に牙。
身長は2メートルを超えているだろう。
「……オーク?」
テジマヤは頭上にクエスチョンマークを発生させながら尋ねる。
「何です?腰蓑と棍棒がお似合いだとでも?」
「イヤァ、そうじゃないけどネ。違和感が凄いナ」
現れたオークの男は黒いスーツを完璧に着こなしていた。あまり目つきは良くない。
「柳生くんーーーーーー!!」
柳生と呼ばれたオークに、ダークエルフの女性は抱きつく。
「ダークエルフの次はオークかネ。君達の省庁は中々多彩だネ?」
「ウチの上司は俺みたいなのでも拾ってくれるんでね」
「フム、ナルホドその巨体なら充分武器になるナ」
「何だと?」
柳生はその鋭い目付きを更に鋭くする。
「スマナイ、例えばの話だヨ」
悪びれる事なくテジマヤは話す。
「シカシながら君達の上司が相当やらかしてることは事実ダ」
そう言って紙を1枚柳生に渡す。
サッと目を通した柳生は、
またやらかしたのかこの人は……!
そう思ったが顔には出さず仏頂面でなるほど、とだけ言った。
「だからと言ってここはあんたらが無遠慮に入り込んでいい場所じゃない。患者がいるんだ。あんた、令状は?」
「……無イ」
「自分のとこの省会議で捜索令状を持ってから来い。正式な書状なくお前らに捜索なんてさせてたまるか」
ピッと紙を投げ返す。
「ヤレヤレ。その気になれば押し入ることくらいはできるけどネ?」
カシャカシャカシャ
テジマヤの背後にいる隊員達が銃を構える。
ピリッとした空気が一瞬流れる。
「冗談ダ。行くゾ」
強行突破はされず、テジマヤは再び隊長の肩を叩いて歩き出す。
ぐにゃぐにゃに捻じ曲がっていた隊長の腕は、次の瞬間には元に戻っていた。
「はっ、はい!」
ガシャリと音を立てながらテジマヤ含む保安庁隊員は装甲車に乗り込みゲートを後にした。
「こ、怖かったぁぁぁ〜〜」
「大丈夫でしたか、小町さん」
小町と呼ばれたダークエルフの女性はズルズルと崩れ落ちる。
「うん。柳生くんが来てくれて良かった!」
「周りが見てます。とりあえず離れて下さい」
ただでさえ人間離れした美人なのにその2つの豊満なモノを押し付けられてはたまらない。柳生はそう思い彼女を引き離す。
現に周りの男性医師からの目も厳しくなっていくのを感じる。
「あ、うんごめんね」
「貴女、俺より年上なんですからもっと堂々して下さいよ」
「無理よー……。黒河さんみたいには絶対無理だし、柳生くんみたいに武闘派じゃ無いもの。A級でも医師なんだから非戦闘員よ?」
「俺だってC級エージェントなんでひよっこですよ。とにかく黒河の姐さんを探さないと……」
「よう。面倒な奴を追っ払ってくれて助かった」
「いやー、まさかもう保安庁が動いているとはね」
聞き覚えのある声がして2人ともギクリと首を回す。
周りの医師は驚愕した目で彼らを見ていた。
赤い髪の女と黒髪のへらへらした眼鏡。
それはまさしく保安庁が探している件の2人。
「な」
「な」
「「なんでここに居るんですかーーーーー!!!」」
こうして赤い髪の女とへらへらした眼鏡は2人の叫び声と共に現れた。
閲覧ありがとうございます。
大分時間がかかりました。次話はもっと早く投稿します。
さっさとこの話は畳むつもりでしたがもう少しかかります。どうかお付き合い下さい。
では、また。




