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対異世界機構カルネアデス  作者: 南京錠
「ある医者の話」
22/30

暴走の始まり



「おーい、起きなよー」


 ペシペシと床に転がるオペレーターの1人を軽く叩いて起こす。


「僕は逃げるから後のオペレートよろしくね」


「ハッ!?富士見研究員!?ちょっと待って下さい!ほ、保安庁に連絡!!」


 オペレーターがそう叫んでいる間に富士見はコソコソと出て行く。


「やぁ、ちゃんと戻れたみたいで良かった」


 富士見はオペレータールームから異世界転移陣へ続く白い廊下を歩き、帰還済みの黒河を見つける。


「で?これからどうするの?」


「シルヴァだったか、あいつを医療庁に引き抜く。あとあの国の人間を治療する。転生者には便宜を図ってんだろ?」


「あの国の人間を治療するのは便宜にはならないと思うけどね?責任問題だよ?」


「だろうな。まぁ機構が私を手放す訳がないし精々勧告か減俸だろ。問題は物資と人手だな。この転移陣から運ぶには量が多すぎる。どれだけ減らしてもトラックが必要なレベルにはなる」


「それにオペレータールームを僕が武力制圧してたから保安庁が動き始めるだろうね。保安庁に繋がる連絡手段は僕が弄っておいたから到着まで数十分はかかるだろうけど」


「お前……。本当に敵対組織が来たらどうするんだ」


 黒河は呆れて富士見を見る。


「その時はその時。さて、話を戻そう。大質量の物資と大人数を運ぶという条件だね。取り敢えずトラックは無しだ。代わりにヘリで行こう」


「あぁ?」


 何言ってるんだこいつと睨む黒河に富士見は自身の細い目をうっすらと開いて笑った。



   ♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢




 屋敷に残った2人は隅の方で考え込んでいた。


「先輩、どうしますか」


「最悪シルヴァの安全が確保できれば帰還は後でいい。黒河に言われたとおりこの屋敷を守るのが一番だろうな」


 六城がそう言った矢先に屋敷のドアが大きく開く。

 先程、六城達を囲んだ男達がなだれ込んだ。

 その中の1人が叫ぶ。


「大変だ!王国軍がここの鎮圧に出動した!!」


「なんだと!?」


 治療に当たっていた白衣の医者が慌て出す。


「俺達は対策を講じない貴族連中の代わりに治療してるだけだ!なぜ鎮圧など!」


「自分達に治療出来ない病が解散した医療団に治されるのが気に入らないんだろうな。その上亡命したシルヴァ様が居ることがバレれば俺達全員縛り首だ」


「防衛網を整える人手が足りん!誰か来てくれ!」


 数名の男達が出て行く。

 ピーピーピーとヘッドセットが鳴り響いた。


『こちら本部!無事か!? 3人目は誰だ?』


「そんな1度に言われてもわかるか!富士見はどうしたんだ!」


『富士見研究員は現在逃走中!くそっ、保安庁に連絡がつかない!』


「はぁ!? 何だと!?」


『君達が出撃する直前に富士見研究員が来て警報装置を押す暇さえなくオペレータールームを制圧したんだ! そちらに行った3人目は誰だ!?』


「3人目はS級医師の黒河だ!」


『S級医師!? 非戦闘員じゃないか!何考えてやがる!』


「知るか!とにかくそっちはそっちで対応してくれ!俺達は任務を遂行する!」


『りょ、了解!』


 そのまま通信を終了する。


「貴様ら!」


 誰かに名前を呼ばれ2人は周りを見る。


「貴様らだ貴様ら!そこの2人組!」


 呼んだのは先程取り囲んだ男達の中でも1番立派な装備の男だった。


「誰だ?」


「医療団の護衛部隊の者だ。シルヴァ様の知り合いなんだろう? 防戦に参加してくれ。猫の手も借りたい」


 シルヴァが王国軍に見つかれば処刑されるだろう。

 防衛戦に参加するのは悪くない。

 そう思った六城はこう言い放った。


「わかった。ただし鳴瀬……この女はここに置いていく。いいな?」



閲覧ありがとうございました。


追記・5月15日改稿しました。

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