緊急出動
深夜。
生活棟にある六城の部屋にビーッビーッとけたたましい音が鳴り響いていた。
「何が起こった!?」
暗い部屋の中ベッドから跳ね起き、備え付けの大型モニターに尋ねる。
『エージェント・六城、緊急事態です。案件B-1-keyにおける監視中の転生者・藤堂博之が突如としてエルフ国から出国、クレマイヤ王国へと移動しました』
「藤堂博之……シルヴァか。いや、まてよ。両国間は馬車でも時間がかかる筈だ!そもそも彼は追われてるんだぞ?何故戻る?」
『ですから緊急事態です。今すぐ第1会議室へ』
「わかった、すぐ行く」
5分後、李世は会議室の扉を開いた。部屋には既に鳴瀬が到着していた。
「先輩」
「鳴瀬か。状況は?」
「それは僕から説明するね」
そう言ってノートパソコンを持って出てきたのは富士見だった。
「そこの彼女は初めましてだね?」
「前にも会った。またボケてんのか」
「ゴメンよ?大分ポンコツな頭でーーー」
「そのやり取りは3回目です……あと私はC級エージェントの鳴瀬です……」
「そうゆうことだ。早く説明しろ。鳴瀬、諦めるな」
「はい……頑張ります……」
「ア、アハハ……。さて、問題の藤堂博之だ。彼は30分前に突如として超スピードでエルフ国から出国した。ついでに彼についていたナノマシンはその時機能を停止、現在わかっているのは彼がクレマイヤ王国の方角に向かって行ったこととあのスピードなら今頃クレマイヤ王国に着いていることくらいだね」
「つまりシルヴァが今どうなってるかわからないと」
「そうだね、だから緊急事態だ。2分後に出動、目的地はクレマイヤ王国城門付近。目標は対象の安否確認。場合によっては無理矢理連れて帰ってね」
「了解。鳴瀬! 出れるな?」
「はい!」
「そうだ。鳴瀬さん?忘れてたけど君の服の改造が終わったらしいね。ほらコレ」
そう言って富士見は鳴瀬に黒いパーカーを渡した。
「ありがとうございます」
バサリと鳴瀬はパーカーを羽織り部屋をでて転移陣へと向かった。
「オペレーターは僕がやるね」
そう言って富士見が転移陣の機械を弄る。
「富士見研究員!? 正規のオペレーターじゃないですよね!?」
周りのオペレーター達の声をマイクが拾う。
「何をやってるんだ……」
「大丈夫でしょうか……」
2人共転移陣の真ん中に立った。
ガコンガコンと何重にも幾何学的な模様が展開し薄っすらと緑色に光りだす。
「ちょっと君黙って。平気平気。えーと、転移システム作動?擬似召喚式構築。全システムオールグリーン……なってる?これ。あ、大丈夫。目的地クレマイヤ王国城門付近。転移開始まで10.9.8……」
「待ってください! 2人じゃなくて3人転移になっています! 誰ですか3人目は!? 転移許可が出ていません!」
オペレーターが叫ぶが既に遅く2人、いや3人は転移した後だった。
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ゴォォォと炎を吹き上げながら門が燃えている。
辺りは血に染まり恐怖に怯えた顔で人々が死んでいた。
「うっ……これは」
「こりゃあ酷いな。大丈夫か?シルヴァの安否を確かめるぞ」
「はい、大丈夫です」
「国の中はどうなってることやら。侵入は楽だが……何だ?」
死体の横で白い服を着た人らしき影があった。
鳴瀬を片手で庇い銃を構える。
「ンだこりゃあ。どいつもこいつも体の穴という穴から血ィ噴き出して死んでやがる。伝染性か?死体の状況から死後10時間ってところだな。現行世界なら当てはまる病気はそう多くないが……おい、血生臭ぇ武器構えんじゃねーよ。こちとらお医者様だぞ」
「あんたは!」
「六城ぉ。殺すよか助ける方が百万倍難しいんだぞ?わかって私に武器向けてんのか?」
「何でいるんだ……?」
「今回の転生者は医者なんだろ?なら会って使える奴か確かめなきゃいけねぇだろ」
「だからって医療庁の最高責任者が来るか!!!!」
「仕方ねーだろ、来ちまったんだから。ほら、国に入るぞ。門燃えてるけどな」
「黒河さん……」
「おう、新人か。えーと、鳴瀬だったな。堅苦しいからもっと軽い呼び方でいいぞ」
「そうですか?なら、雛さんでいいでしょうか?」
「おう。下の名前で呼ばれるとどこかのポンコツ研究員を思い出すな。向こうは馴れ馴れしく「雛ちゃん」とか言ってくるが」
3人目の転移者。
黒河雛はそうケラケラ笑った。
閲覧ありがとうございます。
明けました。
今年も頑張るのでどうかよろしくお願いします。
追記・5月14日改稿しました。




