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対異世界機構カルネアデス  作者: 南京錠
「ある医者の話」
19/30

蔓延する病



 時間は巻き戻る。


 シルヴァは悩んでいた。


 3日という時間はあまりにも短すぎる。

 私の事はどうでもいい。

 彼らが私に何をしようと構わない。

 しかしジュリエッタはどうする。私を脱国させた彼女が国に戻れば処刑されるだろう。

 目の前に座って母と仲良く喋っているジュリエッタを見た。


「……って何で母さんがいるんだ!?」


「あら?さっき来たばかりよ?あなたが頭を抱えて考え込んでるからジュリエッタちゃんと話してたの」


「えぇ。シルヴァ様は考え込むと周りの声が聞こえなくなりますから」


「お茶まで出して和気藹々と……」


 呆れるようにシルヴァが呟いたその時、家の扉が激しく叩かれた。



「シルヴァ!!いるか!?」


「誰でしょうか?」


「この声は……。開けてくれ」


 ジュリエッタが扉を開けるとエルフの男が入ってきた。


「久しぶりだな。どうしたんだ?」


 入ってきた男は幼少時の友人だった。

 会うのは10年ぶりだが彼はその時間を感じさせないようにすらすらと話す。

 それもそのはず、精神が人間感覚の私には10年が長いが(エルフ)にとってはたった数ヶ月ぶりくらいの感覚だろう。もちろん城壁で迎えてくれたエルフ達も同じだ。


「すまん、城門の医務室まで来てくれ。お前に会いたいと言ってる奴がいる」


(まさか追っ手では……?)


 そうジュリエッタがヒソヒソと話す。


「瀕死の状態だがどうしてもお前に伝えたい事があるらしい」


 シルヴァは少しだけ考え込んだが、すぐに立ち上がった。


「わかった。行こう」


 城門に常設されている医務室に着くと血だらけのベッドに寝かされている人間の男が1人いた。


「血が止まりません!」


「それに凄い熱です!」


「原因が分からん!何なんだこれは!」


「グハッ!ゲボっ!」


 エルフの医者と看護師に囲まれ、男は腕から足から血を吹き出し口からも吐血する。

 吹き出した血は湯気を出した。


「シルヴァを連れてきたぞ!」


「ゲホッゴホッ!ーーシルヴァ先生!」


 男はシルヴァが来たことを聞くとガバッと体を起こす。


「お前は……!」


「先生!ご無事でなによりです!うっ…ゲホッ!」


 男はシルヴァがクレマイヤ王国で創設した医療団の一員であった。


「シルヴァ様!この病気は!」


「嬢ちゃん、これが何か知ってるのか?」


 ジュリエッタに対し友人の男が尋ねる。


「えぇ。これは昔シルヴァ様が研究していた不治の病です」


 シルヴァは男を見ながら説明する。


「初期は高い熱が出るだけだが終末期には体の血液がボコボコと湯立ち体のあらゆる所から噴血する。しかも死亡時に一定の確率で周囲に感染を引き起こすという厄介な性質を持っている」


「何!?」


「大丈夫だ。エルフには何故か感染しない」


「いや、そこの嬢ちゃんは人間だろう!?」


「え?あ、しまった!ジュリエッタ!早く外へ」


「は、はい!」


 ジュリエッタが外へ出ていく。


「それで私に話とは?」


「はい、私はもう末期の状態。助からないことはわかっています。私は。」


(確かに彼の状態はもう助からない……。数時間と持たないだろう)


「しかし先生!先生ならこの病気を治せます!どうかもう一度!私達の国を救って下さい!」


 血だらけのまま男はシルヴァの腕を掴む。


「どうゆう事だ。この病気は滅多に発症しない。国全体で起こってる訳ではないだろう?」


「起こっているんです!!!」


「何だと?」


「先生が脱国した後のことです。まず冒険者達が罹患しました。次に城壁を守る兵士達が。そして先生に追っ手を差し向けた貴族達が死にました。だから追っ手は一回しか行ってません。本来ならもっと多くの追っ手が差し向けられる予定でした」


「馬鹿な。この病気の進行はもっと遅い。末期状態になるまで1年以上はーー」


 そこでシルヴァは気がつく。

 目の前の男を見て。


「いや、違う。私が告発されたのはつい1ヶ月前だ。お前が罹っている様子はなかった……!」


「そうです。今国内で蔓延しているこの病は酷く進行が早いのです。しかも感染力も高く死体に近寄るだけで感染します。王国は大混乱になったので私達武装医療団の元メンバーは再集結し民衆の治療に当たりました。しかし治療は上手くいかず、次第に団員からも死者が出るようになりました」


 男はゲホゲホと血を流す。


「先生!!恥を承知で頼みます!私達の国を救っていただけませんか!」


「まてシルヴァ!お前人間の国で何があったか知らんが追われているんだろう?殺されるぞ!こいつが囮とも限らん」


 友人はそう叫ぶ。

 シルヴァは考え、


「王国は警備も出来ないほど大混乱なのか……?」


 とだけ男に尋ねた。

 男はこくりと頷き、それを見て


「わかった」


 そう一言呟きシルヴァは医務室から飛び出した。



閲覧ありがとうございました。

お久しぶりです。


追記・5月14日改稿しました。

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