12人委員会による重要機密書類指定・事件ログ258より
鳴瀬の指先が少し光りフッと空気が軽くなって辺りが明るくなった。
「ギャアーーー!!まさお(享年23歳)!!」
巴が叫ぶ。
「軽く祓っただけです。まだその辺に漂っていると思いますよ?」
そう鳴瀬が伝えると巴は奥へ走っていった。
「先輩、とりあえず外に出ましょう」
「あぁ。すまない……」
外に出た六城は近くのベンチに座る。
「大丈夫ですか?」
「もう平気だ。はぁ、なんだか情けない所ばかり見せている気がするな」
「巴さんは何者なんですか?」
「巴は五行院家の直系で最後の1人だ。五行院家は戦後、機構に吸収された陰陽道の大家。もうそれも過去の話さ。巴も両親とは死別している」
「それは」
鳴瀬が質問しようとした時巡回バスがやってくる。
「詳しい話はまた今度な。今は陰陽五行研究部の連中や俺が面倒を見ている。まぁ、あんなんだが仲良くしてやってくれ」
「わかりました」
そう言って2人は立ち上がりバスに乗り込む。
地下都市はゆっくりと光を落としていく。
「今日の仕事はもうない。久しぶりに地下の生活棟に戻るか。鳴瀬の部屋はあるんだよな?」
「はい。女子棟にあります」
「そうか。なにかあれば呼んでくれ。じゃあな」
「お疲れ様でした」
バスは生活棟に着き2人は別れた。
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地下都市は壁面に照明がいくつもついており、外と同じように夜は照明が落ちる。
技術庁では部屋にまだ明かりが灯っていた。
科学技術部の木村は机に向かっていたがやがて大きな伸びをした。
「よし、終わったな。まさか報告書が今日までとは。あとは……昼間来てた新人の、えーと……鳴瀬だ。彼女の服に光学迷彩を施さなくては」
鳴瀬の黒いパーカーを手にして道具を持つ。
半田ごてのようなその道具でパーカーに触れた瞬間、パーカーは鋭く光った。
ビィィィィィッ!
魔法陣のような幾何学模様と文字が浮かび木村に狙いを定めている。
「む、不味い」
木村はドアを開けて自室から飛び出す。
直後、その背後で部屋で轟音が鳴り響きドアが焦げながら吹き飛んだ。
周りの部屋から白衣の男達が出てくる。
「木村研究員?一体何を……うわぁぁぁ!!なんだこいつは!?」
研究員達に黒パーカーがビームを放ちながら襲いかかる。
「た、退避!!退避ーー!!保安庁に部隊の派遣要請を急げ!!」
10分後、到着した完全武装の部隊が目にしたのは黒パーカーと研究員達が交戦している姿だった。
「何が起こってる!?状況を説明しろ!」
部隊のリーダーらしき男が近くの研究員に尋ねる。
研究員は拳銃で黒パーカーを撃ちながら答えた。
「わかりません!科学技術部から出現した事と魔法陣のような模様からレーザーを射出する事のみです!」
「くそッ攻撃開始!無力化しろ!」
SWATのような装備をした部隊は小銃で黒パーカーを攻撃する。
その威力は拳銃の比ではなく無傷だった黒パーカーに穴が空き始めていた。
「効いてるぞ。このまま攻撃を続行ーーぐわッ!」
チュドっ!
足元にレーザーが着弾し、隊長が吹き飛ぶ。
それを見て隊員の1人が叫んだ。
「不味い、威力が上がっている!研究員は即時撤退せよ!近くに着弾した衝撃波だけで致命傷を負うぞ!」
「大丈夫ですか隊長!」
「あぁ。我々でも直撃したら死ぬぞ、盾を構えろ。部隊の増援要請を出せ!」
その指示を聞き隊員達は盾を構えて攻撃を続ける。
「アレの回復力も上がっています!小銃では破壊出来ません!」
「車両の機関銃を使う。全員撃ちながら退がれ!」
隊員達は攻撃を続けながら車まで下がる。
黒パーカーの穴は空いてからすぐに塞がっていく。
だが、次の瞬間パーカーは大きく千切れ飛んだ。
ズドドドドドドドッッ!!
彼らが乗ってきた歩兵用装甲車両の機関銃が火を吹いたのだ。
「今だ!封じ込めろ!」
辺りから狩衣姿の男達が現れた。
「陰陽五行研究部か!まて、完全に破壊して無力化させるべきだ!」
「原因がわからない以上結界で封じ込めて術式を解析すべきです!」
隊長と陰陽五行研究部の1人が言い合ってるうちに他の研究員は徐々に回復を始める黒パーカーに近づき、人形を辺りに散らす。
「発動せよ、剪紙製兵術!!」
手の平ほどの人形は大きくなってゆき1mほどの大きさになって黒パーカーを囲む。
人形は手に相当する部分を人形同士で繋ぎ回転し始める。
「結界が構築されています。これならアレは攻撃出来ません」
狩衣姿の研究員が言うが黒パーカーはまたゆっくりと光り始める。
やがて光が溢れて爆発する。
「何っ!?」
人形はボロボロに千切れ黒パーカーは再び傷ひとつ無く空中に浮かんでいた。
先ほどより遥かに多くの魔法陣が浮かび上がる。
「研究員を守れ!!」
隊長がそう叫び、レーザーが射出される。
そう思った時上空から何者かが飛来した。
それに向かって黒パーカーはレーザーを放つが命中する前にレーザーは消失し、遂に黒パーカーは掴まれ地面に叩きつけられる。
その衝撃で地面は大きく割れ部隊のメンバーは足元をふらつかせる。
「貴様何者だ!」
土煙が晴れて人影が現れた。
その人物を見て叫んだ隊長は慌てる。
「失礼しました!まさか貴方様が来るとは!!」
「大丈夫。異常性は消えた」
煙から出てきたのは金色の髪を後ろで束ねたスーツ姿の女。
彼女は先ほどまで暴れていた黒パーカーを持っている。パーカーは既に沈静化しているようだった。
「そうですか。まさか"虚の工兵大隊"の方がいらっしゃるとは。後は我々が処理しますのでーーー」
「いい」
「はい?」
「ごめんね」
黒いガスマスクを装着し、女はスプレー缶のようなものを投げた。
プシューッと音を出し煙が広がる。
「これは記憶改竄用のーーー」
パタリと部隊員や研究員達が倒れる。
その様子を見て女は着けていたサングラスを外しどこかに連絡をする。
「私。レベル5の記憶改竄。状況終了」
そして連絡を終えた女は再び空へ飛び上がった。
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【警告】この文書は12人委員会により重要機密書類に指定されています。閲覧にはセキュリティレベルS以上が必要となります。
セキュリティが120秒以内に確認出来なかった場合には委員会直轄の"虚の工兵大隊"が派遣されます。
ーーセキュリティレベル???を確認。情報を一部開示します。
[表示不可]年
[表示不可]月
[表示不可]日
技術庁及び科学技術部にて原因不明の爆発事故が発生。
付近に「嫌神会」の術式を確認。同組織による攻撃と考えられる。
怪我人が十数名程発生。
調査は行われず、関係者全員にレベル5の記憶改竄措置が行われた。
既に本事件は終了している。
みだりにこの事件を調べた場合処罰の対象となる。
ーー追加情報の請求が行われました。
【再警告】
この情報は12人委員会により最重要機密情報に指定されています。
情報閲覧には12人委員会より1名以上の承認が必要です。
承認が360秒以内に確認出来なかった場合には自爆プログラムが発動します。
ーー12人委員会「博士」により承認。情報を開示します。この情報が外部に漏洩した場合関係者全員がレベル8の記憶改竄、または処分の対象となります。注意して下さい。
事件の原因はC級エージェント・鳴瀬の着用していた黒色のパーカーだった。
パーカーには全自動の反撃術式が組み込まれており、A級研究員・木村による改造に対し発動したものと考えられる。
更に、保安庁の通常部隊が即座に対応した為攻撃はより強力なものとなった。
12人委員会は情報を入手後"虚の工兵大隊"S級エージェント・神苑に事件の収束及び関係者の記憶改竄を依頼。
事件終了後にパーカーは「虚の工兵大隊」立会いの下、魔法庁・対神庁のS級研究員によって解析。
全自動の反撃術式は非常に安全な方法で取り除かれた。
パーカーには反撃術式以外に全自動回復術式が組み込まれていた。
また一番の発見としてはパーカーの素材であり、機構の使用している防弾・防刃・防火・防寒に優れた素材によく似ているがそれに加えて未知の技術で神術に一定以上の抵抗力を持つことが判明した。
研究員がC級エージェント・鳴瀬に興味を持った為、全員にレベル5の記憶改竄を行なう。
全ての異常性を取り除いた後A級研究員・木村に返還。光学迷彩の加工が施された。
パーカーの素材は「嫌神会」メンバーが着用している衣服と同じ可能性がある。
C級エージェント・鳴瀬に対しパーカーの異常性について言及することを禁じる。
以上をもって情報を最重要機密文書に分類する。
12人委員会
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閲覧ありがとうございました。
怪しい組織とか報告書とか大好きなのでこれからもちらほら出てくると思います。
ではまた。
追記・5月14日改稿しました。