脅迫
「なんで助けられたなんて嘘をついた?」
歩きながらシルヴァが尋ねる。
「そりゃあんたが襲われていたのを助けたなんて言ったら大変な事になりそうだったからな。あの兵士達の反応を見るにあんたこの国でも有名なんじゃないのか?」
「まぁ、一瞬とは言え隣国で医療分野の第一人者だったからな」
そんな事を言っている間にシルヴァが足を止める。
「ここが私の家だ。しばらく使っていないが多分大丈夫だろう」
「綺麗な家ですね」
鳴瀬がそう言った。
シルヴァは笑って全員を家の中に招き入れた。
「さて、ようやく君たちが何者か、何故あの場所に居合わせて私たちを助けたかを聞かせてもらえるのかな?」
六城はニヤリと胡散臭い笑みで答えた。
「藤堂さん。俺たちはあんたを連れ戻しに来た。地球からな」
「私を連れ戻しに……?」
「あぁ。あんたみたいな異世界転生者が増えたせいでこっちの世界は大変でな」
そのまま事情を説明する。何故自分達が現れたか。
何故連れ戻しにきたのかを。
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シルヴァは理解したような呆れているような複雑な顔を浮かべる。
「……つまり何だ、地球を維持するエネルギーを転生者が異世界に持って行くから連れ戻す……と?」
「そういうことだな。正確にはその世界で死ぬとそのリソースが異世界に廻るから転生者が死なない内に連れ戻すって話だが」
「なるほど…? 正直まだ信じられないな。世界規模の平和維持組織に秘密結社とは……」
六城はきょとんとしてシルヴァを見据える。
「異世界に転生した人間が何を言ってるんだか」
「いや、まぁそれはそうだが」
そこで六城は立ち上がって目を細め、笑みを貼り付けながら言葉を続ける。
「さぁ本題だ。あんたには元の世界に戻ってもらう」
シルヴァはその顔を見返して言う。
「やはりそうか……だが少し考えさせてくれないか」
「駄目だ」
間髪入れず六城が却下した。
「放っておけばクレマイヤ王国に殺されそうだしさっさと回収した方がいいからな。抵抗は無駄だぞ?」
そう言った李世は自動拳銃を手にしていた。
「私を脅すのか?」
「それで事が済むならな。殺しはしないから安心しろ。ただそこにいるお嬢さんはどうかな?地球人じゃないから手加減は必要ない」
そう言ってジュリエッタに拳銃を向ける。
彼女は短い悲鳴を上げシルヴァの背後に隠れる。
「先輩!!それは流石に……」
六城は手で鳴瀬の言葉を遮る。
シルヴァの顔には汗が一滴流れ、ジュリエッタは顔面蒼白だ。
「……わかった……受け入れよう」
六城はその言葉を聞き真顔になる。
手から拳銃は消えていた。
「よし、言質は取った。3日後に迎えに来る」
「今すぐではないのか……?」
「そうだ。ナノマシンで監視しているから必ずどこに居ても3日後に連れ戻す。いいな?」
「あ、あぁ」
「それと1番重要な事を言っておこう。心残りがあったら無くしておけ。無くせないなら俺達に言え」
「どういうことだ?」
「まぁ色々事情があってな。だから3日だ。3日後に全て終わらせておけ。行くぞ鳴瀬」
そう言って六城はドアから出て行く。
鳴瀬が話し掛ける。
「先輩」
「話は後だ。色々と不備があるからな。1度戻るぞ」
そう言うや否やオペレーターを呼び出しサルベージするように指示した。
オペレーターの声が聞こえ魔法陣が出現する。
『転移システム起動。全システムオールグリーン。
転移開始まで10.9.8…』
次の瞬間2人の視界は歪み光に包まれた。
閲覧ありがとうございました。
5月14日改稿しました。