帰国
辺りが明るくなり木漏れ日が優しく差し込む。
「君たちは……?」
シルヴァが目を覚まし、ゆっくりと起き上がる。
肩には包帯が巻きつけてあった。
六城が持っている拳銃を見せて言う。
「俺らの言葉がわかるなら正体もわかるだろ?」
「日本語……。君たちも転生者なのか?」
「惜しいな。どちらかというと転移者だ」
そこに鳴瀬が現れた。
「先輩。藤堂さんの奥さんを連れてきました」
「シルヴァ様!」
ジュリエッタがシルヴァに駆け寄る。
「ジュリエッタ!無事で良かった……」
「さて、夫婦再会もいいがあんたらがどうゆう状況なのかを聞かせてくれないか」
「夫婦?私とジュリエッタはそうゆう関係ではないが……。そういえばあの追っ手も新婚旅行と言ってたな」
「あの、彼らは何を喋っているのでしょう?」
ジュリエッタは首を傾げ六城達を見る。
「ああ、彼らは私の世界の言葉を喋っている。夫婦だと思っているみたいなんだが……」
「ん?日本語になってたか。すまない」
李世はヘッドセットのマイクを使って言葉を発する。
「アー。オクサン?ワレワレハ旦那サンガ元いタ世界の人間だ。よし、翻訳が馴染んできたな」
その声にジュリエッタが驚く。
「わっ。不思議な声」
「機械音声だからな。鳴瀬もやっておけ」
「はい。それとどうもこの2人は夫婦ではないようですが」
「何?そうなのか?」
「ええ。まぁ」
ジュリエッタが何かに気づいたように喋る
「王都にいた時にシルヴァ様の私生活は乱れまくっていたので助手の私が色々やっていたんです。そしたら……」
「そしたら?」
「その、みんなから若奥様と……。シルヴァ様も積極的に否定しませんでしたし、私も悪い気はしなかったので……。いつのまにかその呼称に慣れてましたけど、彼らが新婚旅行と言ったのもシルヴァ様が研究で忙しくて行けてないと思っていたからかと」
「そういえばそんな呼び名で呼ばれて困っていると言ってたな。全然困った顔じゃなかったしむしろ嬉しそうだったから放置していたが。どうせまた悪名だと思ってたし」
「シルヴァ様は市民にはかなり人気がありましたよ?身を粉にして自分達の為に働いてくれているって。脱出にも力を借りましたし。貴族には既得権益に介入しまくっていたので恨まれていましたが」
「あの連中は金の為に市民から高額の治療代を請求していたからな。結局私は地盤固めが出来ないまま色々動いてこのザマだ」
その会話を聞いていた李世が聞く。
「あんたらが夫婦じゃないのはわかったが、医療の第一人者として国の医療機関に勤めているんじゃなかったのか?」
「それが……」
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2人から事情が説明される。
「なるほどねぇ。それであんたらは故郷のエルフ国へ向かっていたのか」
その問いにジュリエッタが答える。
「ええ。あと少しの距離だったんですが護衛は殺され馬車は壊されました」
鳴瀬が尋ねる。
「あの……エルフの国はここから歩いて行ける距離なんですか?」
「はい。それなりに距離はありますが、昼過ぎには着くかと」
「んじゃそこで話をするか。ただ追っ手が来ると面倒だ。鳴瀬、人を背負ったままどれくらい走れる?」
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森の中を2つの影がぴったりと並走する。
そのスピードは恐らく車と同じ程。
もはや人間はおろかエルフですら出せる速さではない。
「凄い……! 上半身が全く動いていない。本当に人間か?」
「一般人が知らなくてもいい世界があるってことさ。そっちのお嬢さんは大丈夫か」
鳴瀬に背負われたジュリエッタが答える。
「は、はい!だだだ大丈夫ででです!!」
「すみませんジュリエッタさん。私は先輩と違ってまだ未熟です。流石に上半身を動かさずにこのスピードを保って走ることはできません」
「いや、ついてきているだけで充分おかしいと思うが!? 人間がこんなに早く走れるはずが無い!」
それに対して李世が飄々と答える。
「世界にはまだまだおかしな奴らがいっぱいいるってことさ。常識は常に疑ってかかるべきだぞ」
「疑う必要がないから常識なのだが!?」
シルヴァの叫びは森の中に消えた。
その時ヒュンっと、矢が目の前に飛来してきた。
李世は急停止する。
矢は地面に刺さり上の木から声がかかる。
「止まれ!それ以上近づけば射殺す!」
声の主に対してシルヴァは叫ぶ。
「私だ!シルヴァだ!」
「何?シルヴァだと?」
木から1人のエルフが降りてくる。
「本当だ!シルヴァじゃねえか! 久しぶりだな。みんな!シルヴァだ、シルヴァが帰ってきたぞ!」
木の上や裏から次々とエルフが現れる。
「シルヴァだ!」
「久しぶりだな。数年ぶりか」
「人間の国で働いてたんだろ?どうしたんだ?」
などなど矢継ぎ早に質問される。
「ちょっと待ってくれ。どうしてこんなに警戒態勢なんだ?」
「そりゃお前、超高速で何かが国に接近してきたんだ。しかも国に正しく辿り着く一本道にある入国小屋と再三に渡る警告を無視してな」
「そんな物あったか?それに言われたか?」
背負われたままシルヴァが尋ねる。
李世と鳴瀬は、
「そういえば小屋は見たな。警告は聞こえなかったが」
「そうですね。警告は全くわかりませんでした」
とだけ言った。
「そりゃあんたらが物凄い速く動いていたからな。というかあんたら人か?悪魔とかじゃねぇよな?普通人を背負ったままあの速さで走るなんてできねー。どんな魔法を使ったんだ?」
「あ?普通に背負って走っただけ……ムグ」
そう答えそうになった李世の口を鳴瀬の手が塞ぎ、頭を下げて答える。
「ええそうです。我が国に伝わる秘密の魔法で移動してきました。警告の無視は申し訳ありませんでした」
「いや、敵意がないならいいよ。どのみちこの人数には勝てないだろうし」
「いや、あんたら相手なら素手ででも1分ありゃ……ムググ」
開きかけた李世の口を再び鳴瀬が抑える。
「何すんだ」
「わざわざ疑われたるんですか?馬鹿なんですか?」
コソコソ話す2人に、
「シルヴァも帰ってきたんだ。ようこそ我が国へ」
とエルフたちは言った。
追記・5月13日改稿しました。