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対異世界機構カルネアデス  作者: 南京錠
「ある医者の話」
10/30

逃避行




 真夜中に男女が森の中をひた走る。

 ポツポツと降り注いでいた雨はいつのまにか激しくなり2人が着ている服は汗と泥にまみれ、乱れていた。


 雷がピカリとその姿を影に映し出す。木を避け根を飛び男は走る。女もその後を一生懸命について行く。

 背後を睨みながら男はどう逃げるか考えた。


 ーー雨と森、そして闇が私たちを匿っている間に里に着かなければいけない。


 男の耳は長く先が尖っていた。金髪に緑色の目をした本来は美青年であろう彼の顔は酷い有様で、目には隈ができ髪はぐちゃぐちゃになっていた。


 彼は俗に言うエルフだった。


「シルヴァ様、申し訳ありません!」


 追いついた女が謝る。


「いや、君は人間だ。無理をしない方がいい」


「しかし彼らに追いつかれたら……!」




 そうだ、追いつかれたら間違いなく殺される。彼女だけでも逃さなければいけない。

 最後までこんな私に付き合ってくれた彼女を、死なせる訳にはいかない。


 そう思い、再び闇の中を駆け出した。



   ♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢




 六城が扉を開く。

 そこには糸目で黒髪の、見るからに胡散臭い男が立っていた。


「やぁタビラルト君!久しぶりだね?どうぞ座って」


「いや、4日ぶりくらいだが。あと俺の名前は六城だ」


「あれ?そうだっけ?その子は?」


 男は首を傾げ質問する。


「新人の鳴瀬だ。少し訳ありだが既にC級エージェントだぞ……おい、何故隠れる」


 その時、鳴瀬は李世の背後に隠れていた。


「凄いねぇ。よろしく!鳴瀬さん?顔くらい出してくれないかな?」


 ゆっくりと六城の背後から顔を出す鳴瀬。


「どうしたんだ?確かにコイツは信用出来ないタイプの人間だが」


「酷い!」


「いえ、あの。この人の声が苦手といいますか……すみません」


「鳴瀬、こいつは富士見(ふしみ)だ。一応A級研究員だが何故か俺の顔と名前が覚えられない」


「あははは。ごめんよ。大分ポンコツな頭でねぇ」


「絶対わざとだろう。他の奴は1発で覚えられるクセに。まぁこんなこと言ってるが実績はあるしかなり優秀なんだが」


「そう言われると照れるねぇ」


「……そうなんですか」


「今嘘つけって思ったでしょ?僕もこんな地位にいていいのかよくわかんないよ。ははははは」


「はぁ……。で? 異世界案件が発生したんだろう? 詳細は?」


 呆れた顔で六城は尋ねる。


「そうそう! 忘れないうちに2人に話をしておかなきゃね! 今回のタイプはB-1-keyだね。種族はエルフ。向こうの国で医療の第一人者として強い権限を持っているらしいね」


「医療?元医者なのか?」


「うん。若手の医師でかなり優秀な人材として注目されていたみたいだよ?医療庁は経験を積んだら引き抜くつもりだったらしいし。それで5年前に亡くなっているね」


「じゃあ今5歳か?」


「いや、時間軸にズレがあるらしい。今20歳くらいじゃないかな」


「20年経ってるのか。連れ戻すのが大変だな」


「転生者は転移者と違って痕跡が少ないからなかなか特定できなくてね。ナノマシンで捜査はしていたんだけど、結局マークしていた彼が奥さんに自分が転生者だと言わなければわからなかったね」


「転生者は後処理も面倒だしな。で?そいつは今どこにいるんだ?」


 富士見は手元にあるノートパソコンを操作する。

 画面に地図が映り1つの点が移動していた。


「クレマイヤ王国から大分離れた森の中にいるね。え?なんでそんなところにいるの?」


「いや、知らねぇよ」


「あれー?おかしいな……。あ、周りに人がいるね。彼のすぐ後ろに1人。少し奥に20人くらい」


「どれだ?見せてくれ」


 李世は画面に表示されている地図を覗き込み、表情が凍りつく。


「おい!今すぐ俺たちをこの場所に送り込め!」


「どうしたのさアタルベニア君?」


「多分後ろにいるこの連中は2人を追いかけている。包囲しているんだ。ハンターが獲物を狩るときみたいにな。転移棟へ連絡してくれ。武装してすぐに向こうへ行く」


「言語のインストールはしないのかい?」


「時間が惜しい。そっちで翻訳してくれ。行くぞ鳴瀬!」


「は、はいっ!」


 そう言うと六城はドアノブに手をかける。

 ドアを出る前に振り返って富士見に問いかける。


「転生者の名前は?」


藤堂博之(とうどうひろゆき)だよ」


 それだけ聞くと六城は廊下に出てエレベーターに乗る。


「鳴瀬!武器と服は準備できるか?」


「このまますぐに出れます!」


「何?」


「メイスはここに。この服は防弾・防刃・耐火素材です。その上に特殊な魔法術式が込みこまれたものなので問題ありません」


 鳴瀬は首元のアクセサリーを見せる。

 それは赤い石がついたネックレスだった。


「C級から服装規定はなくなるとはいえ、いきなりそんな服を着てきたことに驚いたがそうゆうための服だったのか」


 六城は黒い記号のロゴが入った白いTシャツにフード付きの黒いパーカー、ガーターパンツを着た鳴瀬を見た。


「う……変……ですかね?」


「いや?悪いとは思わないが。だがそのアクセサリーが武器なのか?」


「えぇ。巨大化するので」


 彼女はアクセサリーを外す。

 すると赤い石がカッと光り輝く。

 光が収まると石は彼女の身長以上の巨大なメイスへと変わっていた。

 乗っているエレベーターがズシンという音を立てる。


「今ここでさせる必要があるか!!」


「すみません!」



   ♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢




 オペレーターの声が聞こえる。


『転移システム起動。擬似召喚式(シュードサモンプログラム)構築……………完了。対象者2名、エージェント・六城及びエージェント・鳴瀬。全システムオールグリーン。目的地クレマイヤ王国外れの森林。転移開始まで10.9.8…』


 武装した李世と鳴瀬を淡い光が包み込む。

 白い部屋の中で足元に円形の魔法陣が発生し、2人は消えた。



 異世界案件

 第9218件

 異世界クラス「leaf」

 クレマイヤ王国



   ♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢




「ジュリエッタ!! 危ない!」


 男はそう叫び女をかばう。


 ドスッと鈍い音を立て飛来した矢が彼の肩に突き刺さる。


「シルヴァ様!」


 ジュリエッタと呼ばれた女はシルヴァと呼ばれた男に近づこうとしたが彼はそれを拒否し前に進み出た。


「ようお二人さん。命懸けの新婚旅行は楽しかったかな?あんたらに恨みはないが金を貰った手前仕事はしなきゃなんねぇ。死んで貰おうか」


 2人の前に数人の男が現れる。誰もが剣や斧、弓矢などで武装している。


「……私は構わないが、せめて彼女だけでも見逃してくれないか」


「そんな!シルヴァ様!駄目です!」


 ジュリエッタは彼の腕を掴んで泣き叫ぶ。


「悪いな。そいつも込みで殺せとの命令だ。それにもう国内にお前らを守ってくれる奴はいないぞ?みーんな処刑されたからなぁ!」


「おい、その女はすぐ殺すなよ。上玉だからな。やるなら楽しんだ上で、だ」


「下衆め……!」


 シルヴァはその緑色の目で男達を睨みつける。

 ジュリエッタは彼の背後で震えていた。


「ヒヒヒヒ、どうとでも言え。お前はもう死ぬんだからよ!」


 1人の男が剣を構えて突進する。


「風よ…!我が敵を切り裂き路を開け!」


 それに対してシルヴァは呪文のような言葉を呟く。

 すると男の体は真っ二つになった。


「なっ!」


「こいつ!魔法を使ったのか!」


 仲間の男達はどよめくがシルヴァにもう余裕はなかった。


 ーーさっきの矢に毒でも塗ってあったのか……。焦点が定まらない。それに魔力が切れた。さっきの魔法はもう使えないな……。



 シルヴァは腰の剣を抜く。


「くそっ。何人かでかかるぞ!」


 魔法に警戒したのか男達が彼を囲む。


「ジュリエッタっ!逃げろ‼︎」


 そう叫んで彼女を突き放し突進する。


 エルフの持つ高い運動神経は、素人の動きでもそれをカバーした。


 男達の首を切り、腕を切り、腹を突き刺す。斧を振りかぶった男を転ばせ鉈を持った男の目を抉る。


 しかし遂に剣が折れ弾き飛ばされる。


「手間かけさせやがって……死ねぇ!!」


 シルヴァは目を瞑る。



 彼は剣が自身を貫くのを待った。

 しかしあまりに長く何も起こらなかったのでゆっくりと目を開ける。


 すると、男達が頭から血を流し死んでいた。



「あんたが藤堂博之(とうどうひろゆき)か?危なかったな、安心しろ。あんたを助けに来ただけだ」




 そう誰かが呟いたのを聞いた藤堂博之(シルヴァ)は地面に倒れ意識を失った。






閲覧ありがとうございます。

ツイッターで活動報告してます。

よろしければ。↓

@padlocked_gate

次回もよろしくお願いします。

ではまた。


追記・5月13日改稿しました。

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