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銀行員な俺の異世界攻略  作者: 黒猫アイス
9/22

8話『スキル発動』

パーティーでモンスターを倒した場合、受け取れる経験値と報酬は合計値を均等に山分けされるのだとか。

俺は今、上昇したレベルと所持金を見て、早速何かのスキルを覚えようと頭を悩ませている。

オオトカゲを討伐した後。

俺たちはギルドの酒場でドリンクバーを楽しんでいた。

目の前では、今まで金がなくあまり食事を取っていなかったらしいジャンヌが、年頃の女子とは思えない量の食べ物を喰らっている。

それも、とんでもないスピードで。

うん、わかっちゃいたけど色気もなにもねえな...。


それはそうと、カードにスキル表示がされているものの、どうやって取得すればいいのかわからない。

スプーンを持ちながらのジャンヌが顔をあげると。「スキルポイントを使えばスキルを習得できるのですから、いつまでも悩んでないでさっさと習得したらどうですか?」

そういって俺の手からカードを奪いとるジャンヌ。

なるほど、スキル名の横にあるボタンをタッチすることでスキルが習得できるのか。

「おい、今何を習得した?」

ジャンヌが操作していたのは俺のスキルカード。そして今ジャンヌは何かのスキルを習得していた。


「ああ、これはテレパスという能力でこの能力を使えばパーティー仲間は一定時間どんなに距離があっても意思の伝達が可能ぁぁぁ!やめて下さいいいいい!」

さり気なく背後に周り頭を握りこぶしで挟み込んでやる。


「お前...俺の初めてのスキルなのに何してくれてんだよ、こら」

「すみませんすみません!私ってばついうっかりしてましたほんとすみません!」

謝りながら涙目でカードを返してくるジャンヌ。

まあ習得してしまったものは仕方ないか。


で、このスキルに使ったポイントが2ポイント。残り4ポイントある訳だが、これはせっかくなので攻撃系魔法の習得に使いたい。

『フレイム』に『ウォータ』といった初級魔法がやはり無難なところだと思う。

初級魔法はそれぞれ消費ポイントは1,2ポイント。2つ3つのスキルを取ることが出来る。

そんなこんなで、俺はスキルを習得し、その日は解散した。


後日、ジャンヌとメーヤを連れ、俺は広場で取得したスキルの試し打ちをしていた。


「『フレイム』!」

右手を前に出し、スキル名を叫ぶと、手から炎が放出される。

初級魔法だけあって火力は少ないが、生まれて初めて腕から炎を出す経験をした俺は舞い上がった。


「すっげ、これが魔法か...」

俺は『ウォータ―』、それから気になっていた『スタンド』というスキルを取ってみた。

距離は短いものの属性魔法を一定時間自分の好きなように動かせる魔法だ。

「初級魔法は消費魔力が少ないから、連発できるのが利点だよ。うん、私は必要ないけど、属性スキルもかっこいいね」

「おいメーヤ!お前はいい加減、剣術以外にもポイントを振れ!特に体力だ!HPが少なすぎてこっちがひやひやすんだよ」


さり気なく初級魔法を不要扱いするメーヤに、正当なクレーム。

昨日の剣術を見たから多少納得も行くが、HP60でよく生きて来られたなこいつ。

「『フレイム』!」「『スタンド』!」再び宙に向かって魔法を唱える。『スタンド』のスキルを使ったことにより、先ほどと同じく放出した炎が、自分の思い通りの動きをするようになる。


「「おおー!」」スキルの合わせ技によって空中に星マークを作ってやると、ジャンヌとメーヤを含む見物人から歓声が上がる。なにこれ。ちょー気持ちいい。


「アラタアラタ、これ面白いですね!いろいろ応用も効きそうですし、何と言っても見ていて楽しいです!もっといろいろ覚えましょう!」

「人のスキルを見せ物みたいに言うな。初級魔法だって継続して使うと結構疲れるものなんだぞ」

「...初級魔法で疲れるって...。いえ何でもありません。ではスキルの使い方も覚えたことですし、練習はこれくらいにしてクエスト受けに行きましょうよ。確か程よい難易度のやつが出ていた気がします」

「待て、お前何か言いかけたよな。初級魔法で疲れるのって俺だけじゃないよな。ち、違うだろ?おい、目をそらすなこっち向け」

どうも気になることを言いかけたような気もするが、聞くと俺のメンタルもヤバそうなんで追求しないことにした。

世の中、知らない方が幸せなことだって多いんだ。


早速ギルドに向いた俺たちを待っていたのは、思わず身震いしてしまいそうになる大声と、あまり目立たないことに定評のあるギルド入り口の簡易掲示板を叩く音だった。

「おいてめえ何やってんだ!そのクエストはもともと、俺のパーティーが受けるはずだったもんだろうが!何手だしてんだよ!」

「ああ⁉お前らが放置してっから、俺たちが取ったんだろうが!なんだよお前、文句つけんのかよ」

どうやらクエストの取り合いでいざこざが発生しているらしい。

入り口で何やってんだよ、邪魔だなあ。


俺は途中トイレに行ったジャンヌを含むパーティー全員を巻き込んだ『テレパス』を使用する。

一定時間内なら、パーティー仲間と意思の疎通ができるスキルだ。

<おいジャンヌ、困ったことになった。なんかいざこざがあって掲示板に近付けない。ところでお前、そこから狙撃ってできるか?>


<ちょっと人がトイレにいるときになんですか!?狙撃?まあ半径1,2キロ程度なら割と小さな的でも当てられると思いますが。どうするんですか?まあ100メートル以内はからっきしだめですが>

こいつそんな距離でも当てられるのかー、怖いなー。機嫌を損ねたら撃ってきそうで。


<なに、ちょっとスキルの調整も兼ねて、喧嘩を収めてやるだけだよ>

<そこはかとなく嫌な予感しかしませんが。まあいいでしょう。私も狙撃の的が欲しかったところですし。それで、誰を狙うんですか>


おいおい、人はさすがに狙わねえよ..。こいつ普段どんだけ動くものを撃ちたがってんだ。

<いやいや、さすがに人を撃っちゃだめだろ。そうじゃなくて、今ギルドの出入り口で喧嘩してる男が二人いるから、片方が持ってる紙を撃ってくれ。>


<なんだ紙ですか。了解しました。外さないようやってみます!>

...なんでちょっと残念そうなんだよ。

<ねえ私の出番は?>

<メーヤは今回出番なしだ。ていうかお前は隣にいるんだから普通に口頭で話せよ...>

<私テレパスって初めて使ったから..。今のパーティーメンバーが使ってるのは見てたけど、入れてもらえなかったし>

<...もう好きなだけ使っていいよ。い、いくらでも喋れよ?俺たちは何でも相談に乗るから>

なんでこう、うちのパーティーはこんな残念なのだろうか。


<そ、そうですよメーヤ!私たちはあなたを空気扱いしたりしませんから堂々と思いの丈を言うがいいです!>

<な、なんか二人がめちゃくちゃ優し気な口調に...>

俺たちの哀れみを含んだ言葉を受け、微妙な顔のメーヤ。


<それじゃ、ジャンヌは狙撃の準備。メーヤは待機。俺はその間耳と目を閉じて口を塞いで孤独に暮らすわ>

<あなたはどこかの機動隊か何かですか⁉...狙撃準備は残り1分ほどです。準備が整いしだい通達します>


ジャンヌから狙撃準備完了の通達があった数秒後、尚も周りの目も気にせずもみ合っている男の片手。

その手が握っているクエスト依頼書へと命中し、それに驚いた男が手を離した。

「『フレイム』」俺は周りに聞こえない程度の声で呟く。腕から放出した炎は、 ちょうど射程圏内ギリギリのところに落ちていた依頼書を焼き尽くした。


「ああ!?」

「スキルか⁉誰が売ったんだ出てこいやおら」

依頼書を目当てに言い争っていた冒険者は当然怒りをあらわにするが、俺の周囲には人だかりができている。

下手に動かなければまずばれることはないだろう。


<さすがアラタ、なかなかゲスいことをしますね。ある意味感服しました>

<うわ、えげつない>

ジャンヌとメーヤがテレパスで賞賛...賞賛、だよな。

それはそうとこの『テレパス』、耳元でしゃべってるみたいに聞こえるから微妙に気恥ずかしい。

現実世界のバイノーラルマイクみたいな音質だ。

<ちょっ、邪魔者を大人しくしたんだからもっと褒めろよ。どうせあのままじゃ長引いたんだろうし>

ゲスいだのえげつないだの心外なことを言う二人に正当なクレーム。

ほんとこいつらは一人じゃろくなクエストもこなせないくせにこういう時だけ文句を..。

まあ一人じゃ何もできないのは俺も同じだけどさ。


<それもそうですね。では騒ぎが治まったらゆっくり掲示板でも見に行きますか>

ジャンヌの落ち着いた声。

俺の妨害により半分は争う理由がなくなったからか、すでに騒動は収まりつつある。

俺とメーヤはジャンヌが戻ってくるまで掲示板でクエストを探し、戻ってくると同時に装備を整えてギルドの受付窓口へと足を向けた俺たちを、じっと見つめていた女がいたことにこの時は誰も気づけずにいた。

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