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銀行員な俺の異世界攻略  作者: 黒猫アイス
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7話『剣術使い』

翌朝。

今日も「フラワーガーデン」の方は手伝うような用事もなさそうだったので、暇を持て余した俺はギルドにて低難易度のクエスト探しに没頭していた。

駆け出し冒険者が集まる街だけあって、レベルの高いクエストは比率的少ないものの、ややレベルの低いものでも今の俺では到底話にならない。


どれをとろうか悩んでいると、不意に服の裾を後ろへと引っ張られる感覚がした。

昨日パーティーに加入してくれた、なんちゃって上級職ちゃんが、俺の服を掴んでいる。

「おうまだ朝早いのにもう来てたのか。待ってろ、今俺たちでもできそうなクエストを...」と掲示板に顔を向ける俺に、紙を二枚手渡してきた。

「エリマキオオトカゲの退治」「ダンジョン内の雑草の駆除」

なるほど、ジャンヌは先に来て掲示板からめぼしい依頼書をストックしてたんだな。

...使えるじゃないか。


依頼書を読み終えた俺が早速受付窓口に足を向けると、考え事をしているのか先ほどからおとなしいジャンヌが、顎に手をあてたまま、またも俺の裾を掴む動作をする。

「ちょっと買い物があります。少しだけ待っていてもらえますか。」

それだけ言うと、俺の返事を待たずにどこかへ行ってしまった。

年頃の女の子にはいろいろあるのだろう。


一人ではどうしようもない俺は、手近な椅子に腰を下ろす。

特になにをするわけでもなく自分の指でも眺めながら過ごしていたときだった。

肩をぽんぽん、と軽やかな手つきで叩かれる。

またしても少女だった。

しかもジャンヌのようなロリっこではなく、高校生くらいの年齢をした女の子だ。

女子にしては短めの黒髪を一つにまとめ、髪の間から見える瞳が爽やかな感じだ。

「ねえねえ、もしかしてあなたがミウラさん?私メーヤって言うんだけど、まだパーティー募集してる?」


突然名前を言い当てられ言葉がでない俺。

それを肯定と受け取ったのか、さらに口を開いた。

か、顔が近いです顔が。

「良かったら、私をパーティーに入れてくれないかな。職業は一応ソードマスターなんだけど。ちょっとした弱点があって高レベルクエストじゃ通用しないから、せめて初級クエストで数をこなしていきたいんだけど...」「弱点のとこ、詳しく」

上目遣いで見つめるメーヤに追加情報を要求。

昨日のジャンヌのこともあった。こんな底辺のパーティーに参加するような上級職には多少なりとも警戒した方がいいだろう。


俺の追求にやや言葉に詰まった様子のメーヤだったが、面接で「弱点があるから」なんて言うということは、どのみち早い内に言うつもりだったのだろう。

「そうですね、口で伝えるよりスキルカードを見た方が早いかもしれません」

覚悟を決めたようにカードを差し出すメーヤ。

「...うん、却下。」

俺はカードに記されているステータスを見るにつけ即決し、この場からいち早く離れようと荷物を担ぎ立ち上がろうとした..その肩をメーヤが上から押さえつける。

くっ、立ち上がれない。

「君よく見たら方が凝ってるね!私がほぐしてあげましょう。だから私をパーティーに入れて下さい!」ぎぎぎ、と肩に力が込められる。

「い、いたっ。痛い痛い。お前絶対他のパーティーに入れてもらえなかった口だろ。てゆうかポイントを剣スキルと回避に全振りして、そんであのHPの低さって、キレやすい若者にもほどがあるだからな!いてて、いい加減この手を離せ」


ジャンヌといい、なんで上級職の捨てられちゃった子たちはこんな握力強いんだよ。無駄に扱いづらくなるだろうが。

「上手いこと言ったつもりかなのかな!お願いします!私、何でもします!サポートさえしてくれたら大概の敵なんて瞬殺ですし、使えると思います!だから、だから見捨てないで下さい!」

サポートという言葉に不安しか感じられない。


女の子が必死の形相で肩をがくがく揺らしながら「見捨てないで」なんていうものだら、それはもうギルド連中の視線が痛い。

「何あの男。もしかして彼女を使うだけ使って捨てるつもり?ゲスの極みね」「さいてー」ギルド内の主に女性陣からのささやき。

「わかった!わかったから、揺らすな叫ぶな肩を掴むな。俺はこれからもう一人仲間を連れて『始まりの森』へ行く。そこで面接も兼ねてクエストに行こう。な?」

友達のいない友人を慰めるようにしながら、俺は問題児を一人追加してクエストへと出発することに。

帰りたい、もう。


受けたクエストは雑草の処理とエリマキオオトカゲ退治の二つ。

なのでまずはエリマキオオトカゲを倒してから、落ち着いて雑草の処理をする予定だ。

「オオトカゲは名前の通りの巨体で、その全長は人間の大きさを軽く超えます。足も速くて顔も怖いです二足歩行動物ですが、きちんと立ち回ればさほど問題ないと思いますよ」

ジャンヌだけは対峙したことがあるのか、何の気なしに助言をしてくる。

聞いた感じ強そうなのだが、なぜそんなモンスターの討伐レベルが低いのだろう。

万が一死んだら苦情をつけてやる。


「始まりの森」中部へ進んだ俺たちは、目的のエリマキオオトカゲと対峙していた。

でかい身体と、それをさらに大きく見せるためのエリ。

理性的というより動物的な本能から恐怖を感じた俺は、無意識のうちに逃げ腰になってしまう。

どうしよう。見るからに強そうだ。

しかも1体ならまだ手の打ちようがあったものの、不幸なことにこのフロア全体で5体のエリマキオオトカゲがいる。


「ねえアラタ君。これ、私の出番だよね。やっちゃっていいかな!」

フロアの端っこにて狙撃態勢に入ってもらっているジャンヌへ「逃走」のジェスチャーを送ろうとする俺に、メーヤがなにか恍惚とした顔を向けた。

「ばか、お前あの数が見えねえのかよ!こんなもんさっさと退散しようぜ」馬鹿の馬鹿な発言を聞いて退散を決め込む俺に、メーヤはきょとんとした顔をしている。

「あれくらいなら余裕だよ!ああもう待てない。行ってきます」

何かに突き動かされるように突っ走る。...とんでもない速さで。

エリマキオオトカゲの一匹に素早く近づき、その腹を裂くメーヤ。

それを見た他のトカゲ共がそれぞれに攻撃を仕掛けてくるが、それを回避したり剣で受けて弾いたりして本人はまるでダメージを受けない。

その間にも的確に攻撃を入れ、一匹一匹的確に倒していく。

まるで舞台でも見ている気分だ。


トカゲの数も残り2体になり、どちらの勝ちか火を見るより明らかになったからか、2体のトカゲがメーヤに向けて同時に突進する。

「危ない!」あれはさすがに一人では対処できない。俺は猛スピードで並走するトカゲの足元に盾を投げつけようと身構える。

すると2体揃って疾走していた内の一体が、突然倒れた。トカゲの1体に矢が刺さっている。狙撃だ。その機を見逃さず、未だとてつもない速度で向かってくる1つの巨体に向けて剣を振るうメーヤ。


本当に、ほとんど一人で倒してしまった。

顔が真っ二つに割れたトカゲを見下ろして両手を掲げて祈りのポーズをするメーヤは、先ほどの剣の腕前も相まって、一流の剣士然としていてつい魅入ってしまいそうになる。

ギルドで俺に泣きついてきたアホと、今モンスターの前で佇んでいる剣士が同一人物であることが信じられない。

俺たちの元に戻ってきたメーヤはやや顔を赤くしながら、「いやあ、久しぶりにたくさん斬らせてもらって感謝するよ。最高の斬り心地でした」と妙に高いテンションで頭を下げた。


こいつあれだ。絶対ドSだわ。

さっきのクールさはどこへ行ったのか、たくさんのオオトカゲを斬殺することができてちょっとヤバめの笑みを浮かべるメーヤと、仲間が増えたことが嬉しいのかこちらもほくほく顔のジャンヌ。

二人のフォローをしながらげんなり顔の俺、と非常にアンバランスな感じになりながらも、俺たちは雑草をむしる除草作業をこなした。

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