6話『ぼっちでも寄り集まれば死ににくくなると思うんですよ』
...すごかった。
そんな語彙力の欠如した感想を抱いてしまうほど、俺は目の前の少女に圧倒されていた。
金欲しさに早速二人でもいけそうなクエストを受け、オークの討伐に出発したものの、最早俺の出番はないのではないかというほどに、ジャンヌはオークの群れを圧倒していた。
俺がやっとオークを認識できる距離から、クロスボウを使い狙撃。
集中力がなせる業なのか、彼女の横顔は先ほどまでの幼げだった面構えとは打って変わり、大人びて見えた。
「オークがこちらに向けて走りだしました。援護をお願いします」
よほど目が良いのかオークの動向を把握しているジャンヌ。
なんだろう、ちょっとかっこいい。
オークたちは仲間がやられたことでいきり立ってるのか遠目から見てもわかる程の迫力で、こちらに駆けてきた。
「おい、ジャンヌ。近接戦になりそうだが、またさっきのすごい射撃を頼む」
「できません」
は?
「できません。私は、遠く離れた場所からしか打てませんし、打ちたくありません」
え?ちょっと意味が分からない。
「お前、何言ってんの?」
「あなたは知らないかもしれませんが、射撃スキルには長距離射撃と近距離射撃の二種類があります。
私は全てのスキルポイントを前者につぎ込んでいます。よって、近距離射撃はできませんすみません」
いつの間にか眼前に迫るオークたち、俺はジャンヌの手を引きながらも迫りくるオークに向けやけくそに剣を振り回し、多少ダメージを受けながらも隙を突いて逃げた。
「危なかったですね。」
「お前のせいだからな。言っとくけど」
息を切らしながら、俺たちは無事ギルドの街並みへと戻ってきた。
自分のせい呼ばわりされたジャンヌは、やや大げさに口元に手を当て「この男、オークを一体も狩れてないくせに、7体討伐した私に責任を押し付けようとしましたよ。最低です」と反論。
だったら先に近接戦ができませんとか言えよ。
だが確かに今回のクエストにおいて俺は1匹も狩れていないので、反論できないのが悔しい。
「とはいえ今回のクエスト達成のために必要な討伐数は5体。今回ジャンヌが倒したオークが7体。クエストは達成だな」言いながら頭を撫でる。
今の弱っちい俺に出来るのはこれくらいだろう。
「そ、そうですね。山分けです。」
撫でられてまんざらでもなさそうなジャンヌ。手を頭からどけると名残思想にしていた。
「ていうか、なんで長距離射撃しか覚えないんだよ」
冒険者ギルドについても未だ握ったままのジャンヌをの手をくねらせながら、正当な質問。
ジャンヌは万力のような握力で俺の手を握りながら呟いた。
「私は、遠くから撃って的に当てるのが好きなんです。矢を撃ってから当たるまでの感覚が好きなんです。近距離なんて、射撃の何たるかが分かっていない、射撃の楽しさが半減する邪道じゃないですか」
...こいつ、開き直りやがった。
戦闘の時にはちょっと格好良かったように見えたが、どうもこいつは何か駄目な感じな感じがする。
だが今回の功労者は間違いなくジャンヌであり、一方の俺は逃げるときにしか役立っていない。ここで追い出しても後味が悪い。
「近距離射撃が邪道かは知らんが、別に追い出したりしないからその手を離してくれ。地味に痛い。」
なんでこんな握力してんだよ。
正式にパーティーに入る許可を得たジャンヌは、驚きつつも目を輝かせていた。
「ほ、本当ですかっ⁉追い出されないんですかわたし‼感謝します!どこのパーティーも私が狙撃しか出来ないのを知ると、なぜか追い出されるか、空気扱いされるので、もうパーティー参加は諦めて玉砕覚悟で単独でモンスターを狩るしかないかと...」
言い終わらない内にジャンヌはみるみる元気をなくしていく。...なんだかかわいそうになってきた。
「ああ、今日から俺たちは仲間だ。一緒に頑張ろうぜ」
「はいっ」
歯切れの良い声と同時、俺たちは再度手を取り合った。
手が痛い。