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銀行員な俺の異世界攻略  作者: 黒猫アイス
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5話『冒険者ギルド』

どうやら昨日はあのまま眠ってしまったらしい。

 爽やかな朝の陽気に当てられながら、昨日は風呂にも入らず即寝してしまったことを後悔する。

借り物のベッドと本棚、それから目覚まし時計が、陽の光を浴びてきらめいていた。

それから俺はまだ朝食には早いことを確認して、早めの湯浴びをすることにした。

浴室は昨日、自由に使ってよいとの申し出があったので、その言葉に甘えてみようかと思う。


 迷惑にならないように、なるべく気配を消しながら浴室に入る。人の気配はない。

アニメやラノベでよくある、お風呂鉢合わせ事故など、現実で起こった日には後1週間は互いに気まずさを引きずらなくなって非常に厄介だ。

いや、実際に経験したわけではないが。

脱衣所で汗ばんだ服を脱ぎ捨て、頭からシャワーを浴びる。

この世界でも用法は同じなシャンプーやボディソープで体を洗い、浴室から出る。


そこで、俺は自分の過ちに気が付いた。

何ということでしょう!替えの服がないじゃないですか!

 考えてみれば当たり前のことだが、今の自分は無一文。さらには昨日いろいろドタバタしていたせいで替えのTシャツ一つ持っていない。

どうする、この状況。この際昨日着ていた下着をもう一度身につけるのは問題ないとしても、洗濯機に入れているのかバスタオルもないというこの状況をどう乗り切ろうか。

がらり。

唐突に扉の開く音。「「....」」

 扉の前でフリーズするサアヤと、自分の衣類を手に立ち尽くす俺。

手に持っているバスタオルや衣類を見るに、どうやら彼女も朝風呂を浴びに来たようだ。

「ご、ごめんなさいっ」予想もしていなかった事態によほど動揺したサアヤが、ドアを勢い良く閉める。


「すみませんでした‼」

椅子に座り赤面するサアヤ。頭を下げて謝る俺。

彼女の顔が真っ赤なのはシャワーを浴びたせいではないだろう。

どう考えても俺が悪い。寝ぼけていたとはいえ、バスタオルも持たずにシャワーを浴びてしまった自分の間抜けさを悔いながら、なおも頭を下げ続ける。


やがて、顔を上げてくださいと告げられ、それに習う。

まだ顔は赤かったが、少し落ち着きを取り戻した様子のサアヤは、照れ笑いを浮かべながら「今度、お洋服とか見に行ってみるのもいいかもしれないですね」「ですよね」

即答する俺を、面白そうにクスクス笑うサアヤ。

良かった。もう今後1週間口を聞いてもらえないかと思った。

俺としても、早く着替えたいのでさっさと服屋を探そう。


自称女神であるアイルの説明によれば確か馬車を使わずに行ける距離だったはずだ。

たまにサアヤからちらちら感じる視線をやり過ごしながら食事を済ませ、早速服を買いに行くために外出。

 何か手伝いくらいはしたかったものの、ずっと汚れた服でいるとお互いに困るだろう。

サアヤに書いてもらった地図を見ながら、15分をほど歩いたところにある服屋らしき店を見つけた。木で囲われたショーウインドウに、マネキンが飾っている。いかにもなお店だった。

扉を開けると、「いらっしゃいませぇ~」とやや間延びした挨拶が響き、少々ハイセンスな服装をした店員が出迎える。

まずパッと見で目を引くのが、所謂ゴスロリというのだろうか。紺を基調にしたフリフリ衣装に、頭には何故かキャップのような帽子を被っている。

似合っているのが不思議なくらいの恰好だった。


俺はこんにちは、と声をかけ、この店に男性用の服が置いているかどうかを尋ねる。

ありがたいことに、男性用の服も一式そろえているという。

どうもこの店は外から見た大きさより少し大きく感じる。

男女の服を分けて配置するのは当然のマナーだと思うが、その配列の仕方が絶妙だ。

それこそ、部屋を広く感じさせるほどに。

 男性服の売り場は、やはり女性のものよりは規模が小さいものの、充実した品揃えを誇っていた。広くない分、見やすくもある。

俺は自分の替えの下着と、洋服一式を購入し、自室に戻り今度こそちゃんとバスタオルと着替えを持って、バスルームに入る。


スッキリしてシャワールームから出ると、リビングでサアヤとマリエルさんが顔を見合わせながら、何か話混んでいるのが見えた。お店は放っておいていいのだろうか。

見たところ店の問題だし、俺が首を突っ込んでいいことではあるまい。

「おい、小僧。またんか」

気を遣ったつもりで素通りを決め込んだ俺の背中に、マリエルさんが見えないフックを投げかけてくる。フックは見事に俺を捉えた。

 戸惑う俺に、サアヤが悩みの種であるであろうノートをばっと広げて見せてくれる。

なるほど、中身はちょっとした帳簿のようになっていた。

売上と仕入れ、その他雑費を勘定しているようだが、先ほどの様子を見るに売上が思うように行っていないか、帳簿の記入に苦戦していたのだろう。

 前者なら俺の力ではどうしようもないが、後者なら力になれる。

説明を求めると、問題はどうやら後者にあるようだった。

俺は机の上に置かれた書類を一つずつ記入しながら、ミスを発見すべく帳簿に神経を集中する。

結果2つのミスが見つかり、それを訂正してやるときちんとした帳簿が完成した。

なおもミスがないか入念にチェックしながら、できましたと告げる。

「あ、ありがとうございます!助かりました」「ほう」

サアヤが感謝の声を、マリエルさんまでもが驚いた声を上げる。

やばい、ちょっと照れる。

問題があっさり解決したからか、二人はぎこちなく立ち上がり、店の準備を始める。

 どうやら服屋から帰ってきたときは慌てていて気づかなかったが、どうやら帳簿に問題があったせいで店を開けていなかったらしい。


この世界の住民は基本マイペースなのかもしれない。

その辺は、出る杭は打たれることが多い祖国に比べて自由でいい。

何か手伝うことはないか尋ねると、今日は忙しい日でもないし特に手伝うようなこともないとのこと。

それなら前借したとはいえ装備も揃ったわけだから、とギルドへ足を運ぶことにした。


冒険者ギルド。

 それは街で最も多くの冒険者が集まる場所であり、ここでパーティーを組んだり国や地方から公的に依頼されたクエストの受注も受けることができる、ゲーマーとしては是非とも言ってみたい場所である。

中は居酒屋も兼ねているのか酒を飲んで騒ぐ連中や掲示板を見分する人であふれていた。

人混みに揉まれながら、掲示板の文字が見える位置まで移動する。

初心者クラスの募集はしていないだろうか。チームメイトも初心者ならなお良し。


しかし、残念ながら俺が面接に行けそうな初心者クラスの募集はなかった。

 この街はどうも駆け出しが多く集まる街らしいが、そう高くはないもののやはりレベル制限が付くものがほとんどだったため、なかなか手が出ない。

一応窓口のお姉さんにレベル1の俺でも入れるパーティーがないか確認してもらったが、やはりないものはない。

 俺のスキルカードを見た受付のお姉さんが、「あの、失礼ですが。職業に就くことは考えていないのですか」と言った。

職業?そんなものがあるのか。

ゲームでは定番だが、今まで説明されなかったため、地力か魔法でモンスターを倒すしかないのだとばかり思っていた。

お姉さんの話によると、バーサーカー、魔法使い、プリースト、戦士、といった、様々な職業につくことが出来るらしい。

また特定の職業に付くことで、自分でパーティーを募集できるようになったり、パーティーに入りやすくなることもあるという。


 本来は自分の適性に合わせて選ぶものなのだろうが、いかんせん俺のステータスは最低だ。適正も何もない。

なので俺は見栄を張ることはせず、シーフ。盗賊職を選択することにする。

自分で魔法を生成することが出来る魔法使い職を除けば、一番多くのスキルを習得できるそうだ。

多彩なスキルを覚えれば、レベル以上の力を発揮できる可能性もあるかもしれない。

いや、決して自分のステータスの低さから逃げているわけではないが。

職業はスキルポイントを消費することで転職できる。

今の俺の持ちポイントが5ポイント。

盗賊職になるに当たって必要になるポイントは4ポイント。

というわけで俺は盗賊職へジョブチェンジ。

スキルカードには新しく「職業 シーフ」と記載されていた。

 無事新たな職業に就けた俺は、さんざん考えた挙句自分でパーティーを作り、募集することに決めた。

レベル1を雇うパーティーが少ないのもあったが、なんだかんだで憧れていたのだ。

駆け出しの冒険者同士が集まり、激しい冒険を経て信頼を深めていく。

そんなオンラインRPGの世界観を。


俺は待ち続けた。来るべき冒険者が現れるのを。

「...来ないな」壁に駆けられた時計を見る。ギルドの片隅で待ち続けてもう半日も経過していた。しかし、誰も面接に来ないどころか俺に話しかけて来るやつすらいない。

帰ろう。そしてサアヤに今日は誰も面接に来てくれなかったと愚痴を聞いてもらう。そうでもしないとやってられない。

荷物をまとめて帰り支度をしていると、声をかけられた。

「あ、あの。パーティーの募集をしていると聞いたのですが。」少女がいた。

しかも、俺に話しかけている。

 少女の頭に手を置き、「もしかして、迷子かな。良かったら受付のお姉さんに相談するといいよ」じゃ、と言って去ろうとする俺に、少女は少し語尾を強めた。

「ち、違います。迷子じゃないです。パーティー募集の掲示板を見て、面接に来たんです。あ、名前はジャンヌって言います。」

...え。目の前に立っているのは、どう高く見積もっても14歳くらいの少女だ。

そんな大事な年頃の子どもが、面接?この世界の労働基準法はどうなっているのだろう。


「嘘じゃないです。ほら、職業だってちゃんとした職に就いているんですから」

 未だ首を捻っている俺を強引にでも納得させようとしているのか、おもむろにスキルカードを取り出す。

そのカードを見て、俺はすぐに違和感を憶えた。

カードの色が、俺のものとは違っていたからだ。

俺のスキルカードはブロンズ。彼女のカードはシルバー。職業を見てみると、アーチャーの中でも上級職に入る<精鋭弓士>という職業が記載されている。

どうやら階級によってカードの色が変わるらしい。

「まじか」「マジです」確かに、彼女が上級職であることはわかった。

が、まだどうしても納得できないことがある。

「なあ、俺は『駆け出しの冒険者募集。』って書いたはずだよな。ついでに言うと俺自身がまさに駆け出しの冒険者だ。お前上級職なんだろ?こんな初心者パーティーに入って良いのかよ。」

そこはどうしても気になった。

何か理由があるのだろうかと。

だがジャンヌはそれには曖昧に返事をしただけで答えなかった。


こいつ、絶対なんかあるな。俺は少し訝しみつつ、とりあえず様子を見てから決めることに。

それから小一時間、頼んだ料理を食べながらジャンヌと会話をして過ごした。今のところ、おかしな要素は見当たらない。

ここで見るのはコミュニケーション能力や協調性だ。

 弱小パーティーどころかメンバー一人のパーティーにすらなり切れていないチームに入ろうとする上級職とか、トラブルメーカーの臭いしかしなかったのだが、今のところそんな感じはしない。

性格上問題なし。能力的にも上級職で信頼できる。


この時点でパーティーの参加を許可した俺を、誰が責められよう。

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