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銀行員な俺の異世界攻略  作者: 黒猫アイス
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2話『街案内とクエスト』

「どうすんだよこのあと!!!」

アイルが消えてしまったあと、俺は徐々に賑わいを取り戻す街をしり目に、塞ぎ込んでいた。

おそらく、アイルが作った仮想空間とやらにいた人間が戻ってきたのだろうな、とは思う。

しばらく街の隅でうずくまっている間に、落ち着きが戻ってきた。


ずっと塞ぎ込んでいても仕方がない。まずは今すべきことを考えるんだ。

まずは...そうだな。顔見知りを作っておきたい。なんせ俺はこの世界に知り合いもいなければ親もいない。


世界単位のぼっちだからな、知り合いを作っておいて損はないだろう。

どんなゲームでもまずは人と人との会話から始まるものだ。


俺はこうみえても休日は朝から晩まで飯も食わずにRPGを制覇してきたから、そこには絶対の自信がある。ていうかこのままだと純粋に寂しい。


22年の人生でおそらく一番の孤独感を抱えながら、俺は花屋へ足を向けた。

本当は冒険者ギルドで仲間を募りたかったが、ろくな装備を持たない俺をホワイトなパーティーが拾ってくれるとも思えなかった。


しかも花屋についてはアイルが「最初はここに行くといいよ」と言っていた場所だ。

なんせ情報も何もないんだここはその助言に従うべきだと思う。


 店の扉を開けると、自然の花特有の甘い薫りと鮮やかな色合いの花や苗がそこにはあった。

店のカウンターには店主であろう初老の男と、まさしく花が良く似合いそうな女の子が肩の高さまで切った朱色の髪を揺らしながら、楽しそうに花を愛でている。

きっと彼女が、アイルの言っていた「親切な娘さん」だ。

だけど、うーん...。


初対面の女性にどう声をかけたものかと悩んでいると、幸いなことに「親切な娘さん」の方から声をかけてくれた。きっといつまでも出入り口付近でうろうろとしている客に気を使ってくれたのだろう。

「あの、どうかなさいました?」

おずおずとしながらも、最後ににこっと笑いかけてくれる。

うん、超かわいい。


本来あまり女性に免疫がなく、しかもかなりの孤独感を抱えていたところにこの気づかいは純粋にすごく嬉しい。


「あー、えっと。俺..僕は旅人なのですが、この街が気に入ったので、出来れば住んでみたいと思いまして。まずはご挨拶に」

我ながら適当なことを言っていると思う。


しかしここに来る途中で旅人らしき人間を何人か見つけたし、実際ここ以外に知っている場所も帰る所もないのだから、妥当な言い訳なのではないだろうか。


俺の説明を粗方理解したらしい彼女は喜色満面の表情で「まあ。それは歓迎いたします!私はサアヤと申します。ここはご覧の通り、花屋の「フラワーガーデン」です。


困ったときはいつでも相談してくださいね。...えっと、お名前をまだ聞いていませんでした」と歓迎してくれている様子。


なんだろう、この温かみは。さっきまでの孤独感が少しマシになった気がする。

「あはは、そうでしたね。僕は三浦新といいます。こちらに来たばかりなのでお言葉に甘えさせてもらうかもしれません。あは、あはは」

いかん、緊張と安心のあまり喋り方がかなり変だ。


この空間の中で僕だけが奇妙な気恥ずかしさを覚えているという、初対面の女性あるある現象に内心頭を抱えていると、彼女はお店の隅に置いてあるテーブルを確認。


今現在空席なのを確かめると。

「もしよろしければ、そこのテーブルでお茶でもしませんか?ここに住むのであれば、まだ右も左もわからない状態でしょうし。新しい住人さんになるのであれば、知り合いがいた方が心強いと思います。その...私などでは頼りないかもしれませんが...」


サアヤさんは自分の発言に照れてきたのか、やや恥ずかしそうにうつむき、そのまま「お茶を持ってきます」と2階へと走って行った。


 俺はというと、テーブルの端に置いてある値札や包装紙を見ながら、これからどうやって生計を立てて

行こうかなーとぼんやり考えていた。

やっぱ異世界とはいえ、、国籍とか必要なのかなー。

急に現実的思考になったところに「お待たせしました」と2階からサアヤさんが戻ってきた。

手にはティーカップと、バスケットいっぱいに焼き菓子が詰められている。


テーブルの上に置かれるそれらを眺めながら、どうやらストレートらしい紅茶を啜る。「うまい...!」何だこれ。めちゃくちゃ美味い。

一見ただのアイスティーだが、ここまで美味しい物は飲んだことがない。


「ふふふ、それはこの街の雑貨屋さんで買った紅茶です。そうだ、あのお店はこういったものにこだわりを持っているので、おすすめのお店なんです♪今度一緒に行ってみませんか?」

...雑貨屋か、そういえばそんな店もあったな。

向かいの席に座る少女を見ながら、俺はとりあえず今一番聞かなくてはならないことを尋ねる。


「あ、あの...」「はい?」キョトンとした目で首を傾げる彼女。

ええい、言葉を選んでいる場合ではない。

「実は、働き口が欲しいんですけど」

そう。俺は今現在、一文無しなのである。


「ええと、では遠い国から来たミウラさんは、この国の生活手段を、全くご存じない。そういうことですね?」さすがに少しばかり戸惑った様子で、サアヤが確認してくる。

「はい...」


何故だろう。事実をしゃべっているはずなのに、すごく恥ずかしい。

「ではまずこの国でお金を稼ぐ方法を説明していきます。ここではモンスターという生物が存在します。これは人間に危害を与えるものがほとんどで、定期的に退治クエストが出ます。まずこれが、何もない状態から手っ取り早くお金を得られる手段となります。


あとはうちみたいに商売をやったり、ダンジョンで手に入れた素材などをお店に売却して、お金を得ることもできます。ですがこれはそもそも元金やスキルが必要になってくるので、やはり最初はダンジョンでの討伐依頼をこなしてお金を得るのが適切だと思います」


ほう、やはり異世界というだけあって、ダンジョンというものがあるらしいな。

そこは普通のRPGっぽくて安心する。

「なるほど。その討伐依頼というのは、どこで受けることが出来るんだ?」


少し会話をすると、俺は早くも敬語を使うことを辞めていた。

サアヤが「敬語じゃなくてもいいですよ」と言ったため、その言葉に甘えることにしたのだ。

普通に話せる友人を作るには、こちらの方が好都合に思えた。


「ああ、それは街の掲示板やギルドから受けることが出来ます。後で行ってみましょう。それからモンスターなのですが、モンスターを倒すと経験値がもらえます。

経験値が溜まるとレベルが上がり、ランダムでステータスが上昇します。またそれらの数値は、スキルカードに随時記載されるので、定期的に確認すべきものですね」


へえ、スキルカード。そんなものに心当たりはなかったが、ポケットを探ってみると一応それらしきものを発見した。

銀色の、クレジットカード大の大きさのカードだ。見ると

「三浦新

年齢 22歳

職業 無職

ステータス ㏋60 MP50 

剣術 5魔力 3防御力7 etc」

といった、俺のステータス値が並んでいた。俺のステータス、低っ!


「まあ初期ステータスはみんな大体そんなものですよ。モンスターを退治すれば自然とステータスは上昇していくものです。」

 初期ステータスの低さに涙目になっていた俺をサアヤが優しく励ましてくれている。


「ではだいぶお話しもしましたし、そろそろ掲示板を見に行きますか?一緒に」

彼女はさも当然のように言っているが、正直そこまで手をかけさせて良いのかという気持ちもある。

俺、今後もこの人に頼りきりになりそうな気がしてならない。

「それでは、おじいちゃん。すみませんがお店を少しお願いします」


そんな心配をよそに、サアヤは店の外に出ていってしまった。

先ほどから俺を少し厳しめの目で睨み付けているおじいさんに一礼し、慌ててサアヤの背中を追いかける。


一度言い出したらすぐ行動に移す実行力。

意外と彼女は活発な少女なのかもしれない。

掲示板とやらは、「フラワーガーデン」から少し歩いた、レンガ造りのビルのような建物のすぐ横にあった。

うーん、このレンガビル。ちょっと強い地震がきたらすぐに壊れてしまいそうで危なっかしい。


掲示板にはたくさんの紙が貼られていた。「短時間高報酬!薬剤被験者募集」「デビルイーグルの生け捕り 10000s」などの怪しめなものから、「モココの綿を収穫」「キラーアントの退治」「迷子の猫探し」といった比較的簡単そうなものまで、多種多様だ。

ちなみにこの世界の通貨は、全国共通で「silver」という単位らしい。

曰く、通貨のほとんどが銀貨なのだとか。それを略して「s]と表記しているようだ。

しかし、これだけたくさんの求人があるのならば、効率良くこなせばそれなりにお金は溜まるんじゃないだろうか。そう、例え今は一門なしでも!


なんとかして宿代くらいは稼ぎたい。これはもはや死活問題なのだ。

「よし、これに決めた!」バッ、と勢いよく依頼表。「モココの綿を収穫」。

....まあ、初めてのクエストですし。だれに言い訳するでもなく、ただそうつぶやいた。


モココとは、その名の通りとてももこもことした羊毛に身を包んだモンスターで、基本的に無害。

たまに打撃をしてくることもあるらしいが、羊毛がクッションになってまるでダメージにならない、真っ白な毛と黒い肌が相まって実に可愛らしいモンスターだとか。

早速クエストを達成すべく、街のはずれにある、駆け出し冒険者向けダンジョン「始まりの地」の出発地点にて、装備を整えながらも心持ちを新たにしていた。


金がなくて装備を整えることが出来ないと気付いた俺に、そういうことならと装備を前借、もとい後払い制で売ってくれたのは、鍛冶屋で働いている少女、アイリスだった。

あの母親の姿を真似た自称女神、アイルが鍛冶屋の前を横切る際に、「この鍛冶屋には不愛想な美人と変な鍛冶職人がいる」といっていたが、なるほど噂に違わぬ美人っぷり。


銀髪灼眼。それだけでも十分に幻想的な雰囲気を醸し出していると思うが、それを差し引いても彼女の整った顔立ちと、どこか別の場所を見ているような表情が相まって、どこか魅惑的な印象を作り出していた。


そして彼女は不愛想というかかなり言葉数が少なく、それはやはり、不愛想と呼んでも差し支えないものだと感じた。


無表情で表情が読み取れず、商品を前借させてくれる時も「2500シルバー。お金がないなら後払いでいい」と言い、それ以降しゃべらなくなった。


そんなこんなで装備を整えることが出来たが、今回は「万が一のことがあったらまずい」と心配してくれたサアヤが、冒険に同行してくれる。至れり尽くせりだった。

装備を整えている内にサアヤの姿が見えた。そして愕然とする。サアヤがその手に持っているのは、武器や防具の類ではなく、スコップに軍手、そして植物の種という非常に園芸チックな格好だった。

「えーっと、サアヤさん。その恰好は何だろう」

俺は彼女の手に装備しているものを指さしながら、疑問を口にする。


「園芸用のスコップと、植物の種ですが」

「それは見たらわかる。これから俺たち、ダンジョンへ行くんですよね。危険じゃないですか!」

もう半ば敬語とため口が入り混じった変な日本語で問題点を指摘する。


どう考えても、少し強めのモンスターが出てきた時点で詰みそうな装備。

一方の俺はダンジョン初参加。不安要素しかない。

俺の言葉の真意がようやく理解できたらしいサアヤがパッと顔を上げると、これでもかというほどいたずらっぽい表情をしていた。

「だって、危険からはミウラさんが守ってくれるでしょ?」

ウインクしながらの開き直りにイラッとしながらも、俺はモンスターから彼女を守るイメージを頭の中で思い浮かべていた。


ダンジョンといえど、こと「始まりの地」に関して言えば何故か整備が行き届いている森の中にモンスターが住み着いていて、比較的穏やかなダンジョンだそうだ。


とはいえ、油断して死んでしまっては二度と生き返ることが出来ないので、気を引き絞めていかなくてはならない。

「着きました!ここが、『始まりの地』です」

サアヤが、ようこそ!といわんばかりの仕草で手をあげる。


しかしながら、モンスターはモココと、あとなんかパイナップルの形をした妖精のじみた生物。

あれもモンスターなのだろうか。

数はそれぞれ2、3体はいるものの、敵意はないのか先ほどから普通に喋っているにも関わらず、毛づくろいをしていたり飛び跳ねたりしていたりで見ていて和む。

「あれがモココか。よし、さっさと綿刈ってくる」「あ、ちょっと待ってください!」


モココに近づいて、その羊毛をダガ―で切ろうと伸ばした手を、モココは前転の要領でスルリと躱す。「え、あれ!?お、おい、なんかバク宙するんだけどこいつ」

モココの身長は大体俺の脛あたりのものなのだが、その小ささから、俺の手をひらり、ひらり、ばっ。

左へ避けたかと思うと右へよけ、最後には見事なバク宙を披露してみせた。


くそぅ、心なしかモココが極めポーズをとっているように見えてくる。

う、うぜえ!


小さな獣1匹にいいように扱われている俺を和やかな瞳で眺めていたサアヤが、やがて小さなブラシのような物を手にモココの柔らかそうな羊毛へ手を伸ばす。


…何故か今度は抵抗することなく腕の中に収まったモココを優しく撫でながら、「このモンスターに近づくときは、このブラシを使って、まずは毛づくろいしてあげてから、毛を刈るのが一番簡単な方法見たいですよ。」と解説。

話すタイミング、遅くね?


俺は何のために頑張ってたんですかね。

言いたいことはたくさんあるが、彼女のマイペースさが愉快にも感じられたため、言わないことにした。

本当、親切なのかそうでないのかよくわからない人だ。


モココを慣れた手つきで毛刈りしながら、優し気に笑うサアヤを見ていると、自分でもよくわからない可笑しさがこみ上げてきた。

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