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第6章ー10

 一方、上層部の動きに黙って従うしかなかったのが、日本海兵隊の実動部隊の面々だった。

 パリ近郊の駐屯地において、土方勇少尉も、岸総司中尉も、ひたすら部下と共に訓練をしていたところに、何時でも移動できるように準備を整えるように、という指示を受け、その指示に従って準備を進めていたところ、ブレストに急きょ移動して、輸送船に乗り組むように、更なる指示を受けたのである。

 ブレストに到着すると、「橿原丸」や「あきつ丸」等の輸送船が待っており、事前に十分な準備が為されていたようで、各部隊毎に、これに乗り込むように、と割り当てられた指示があり、その指示に従って、輸送船に乗り込む羽目になった。


「あきつ丸」に乗り込んだ土方勇少尉は、改めて想いを巡らせた。

 この準備、明らかに我々は、緊急上陸作戦を行うことになったようだ。

 だが、我々はどこに赴くことになるのだろうか?


「橿原丸」に乗り込んだ岸総司中尉は、義兄の土方少尉より、僅かとはいえ軍歴が長いこともあり、より深く自分達の行き先を推察できていた。

 ちなみに、岸中尉は、昨年秋の第二次世界大戦開戦に伴う大人事異動により、義兄と同様に第1海兵師団所属となっている。


「これは、我々は、北欧、ノルウェーへと赴くことになったようだな」

 口には出さずに、岸中尉は、自分の考えを深めた。

 フランス国内、ベルギー、オランダに行くのなら、ブレストから輸送船に乗り組む必要はない。

 そして、英国に、日本海兵隊が移動するのは、百害あって一利なしの行動としか、自分には思えない。

 では、何故に、自分達、日本海兵隊は、輸送船に乗り込まねばならないのか?

「それは、ノルウェーを救援せねばならず、その尖兵に日本海兵隊は選ばれたからだ」

 岸中尉は、そこまで考えた。


 アラン・ダヴー大尉は、ある意味、もう一段、上の行動をしていた。

 その職務上、ダヴー大尉は、日本の遣欧総軍司令部に、たびたび、赴かねばならない。

 そして、必然的に、日本遣欧総軍司令部内に、ダヴー大尉にしてみれば、顔馴染みが少しずつできる。

 更に、自分の出生のつながりも生かして、同じ日本人同士だとして、親交を深めて行き、終には、北白川宮成久王大将とも、直接の話ができる関係に、ダヴー大尉は至っていた。


「いやあ。本当に優秀だな。良く気付いたものだ」

「お褒め頂き、ありがとうございます」

 4月8日、北白川宮大将とダヴー大尉は、ある意味、階級を越えた会話を交わしていた。


「独のノルウェー侵攻に、我々が気づいていて、日本海兵隊が救援する、とまで考えてしまうとは。スペイン内戦での実戦経験は、伊達ではないということか」

「土方勇志伯爵や石原莞爾中将らの薫陶の賜物です」

「謙虚なのも、日本人の血、故なのだろうな」

 北白川宮大将は、ダヴー大尉と会話して、更に想いを深めたようだった。


 北白川宮大将は、内心では、更に想いを巡らせた。

 ダヴー大尉の実父は、自分の知っている人物なのかもしれないな。

 ヴェルダン要塞攻防戦で戦死した海兵隊士官は数多い。

 だが、息子がここまで優秀なのだ、父親も、それなりに名の知られた士官だったのではないだろうか。


「ところで、そこまで推察できているのだ。この後の展開も予測しているのではないかね」

 北白川宮大将の問いかけに、ダヴー大尉は、躊躇いながら答えた。

「わざと、独軍がノルウェーに上陸するまで見過ごし、その後、独軍を叩きのめす、おつもりでは」

「その通りだ」

 北白川宮大将は、明確に答えた。


「実際、独がノルウェー侵攻を企んだのだ。自分から手を汚す必要があるのかね」

「ありませんな」

 北白川宮大将の問いかけに、ダヴー大尉は、躊躇いつつ、そう答えざるを得なかった。

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