第6章ー9
こういった大きな動きがある中、日本海兵隊も準備を整えつつあった。
「どれだけの兵力がいる」
遣欧総軍司令官の北白川宮成久王大将の問いかけに、石原莞爾中将は、傲岸不遜に答えた。
「2個師団があれば、ノルウェーを守り抜けますな。私に2個師団を指揮させてください」
「英仏米に、そのように言ってもいいのか」
「言うまでもありません」
北白川宮大将の問いかけに、石原中将は、胸をそらして答えた。
石原中将には、腹案があった。
日本海兵隊で、ベルゲン港をまず確保し、オスロを奪還する。
ベルゲンより北、ナルヴィク、トロンヘイムに侵攻した部隊は、これで補給が完全に途絶し、餓死するか、投降するかの二択しかなくなる。
そして。
ベルゲン、オスロを確保する独軍の軽装備の戦車等の重装備の無い歩兵部隊が、我が方の100両以上の零式重戦車を保有する海兵隊2個師団相手に、どれだけ勇戦敢闘できるか、見ものだな。
全く、渡洋侵攻するための上陸作戦用の船舶を保有せずして、ノルウェー侵攻作戦を検討するとは、無謀極まりない作戦を、独は立てたものだ。
独陸軍が、どれだけ勇敢に死ねるか、存分に見届けよう。
石原中将は、冷たくそう考えていた。
石原中将は、北白川宮大将の承諾を受け、パリ近郊からブレストへ、第1海兵師団と第2海兵師団を速やかに輸送する準備を整えるように計画、準備を、日本遣欧総軍司令部の幕僚達に立てさせた。
石原中将としては、全くノルウェー侵攻に、英仏米日は気づいていない、という振りを貫くつもりで、そのように準備を進めたのである。
(ブレストには、日本の輸送船団が未だに在泊しており、それをノルウェー侵攻に対処するための兵員輸送に、石原中将は活用するつもりだった。)
だが、できる限り、隠密裏に進めようと、分かる人には分かるものである。
アラン・ダヴー大尉は、日本海兵隊の動きを察知し、更に、それに関することまで推量してしまった。
ダヴー大尉が、最初に異変を感じたのは、ガムラン将軍に命ぜられた英仏日の協調を深める会議が、小規模化されてしまったことだった。
参謀、幕僚をできる限り多く集め、英仏日の親睦、認識の共通化を図る筈が、小規模でよい、とされてしまったのだ。
少しでも多くの人が集まれるように調整する筈が、日にちを決め、その上で調整、と変わってしまった。
何かおかしい、とダヴー大尉が考えているところに、石原中将をはじめ、日本遣欧総軍司令部の面々が慌ただしく動いている気配を感じるようになった。
その一方で、ガムラン将軍をはじめ、フランス軍の面々は、余り動きが変わっていないことに、ダヴー大尉は気づいてしまった。
日本が派手に動く一方、フランスが余り動かないのは、何故か、そして。
ダヴー大尉は、自分なりに思慮を巡らせ、自分なりのポイントに当たってみた。
フランス国内の軍隊等の鉄道移動計画、日本海兵隊の物資手配、等々。
表向きは、ガムラン将軍の副官兼日本との連絡士官の職務の一環で、怪しまれる筋合いは何もない。
そして、それによって、4月初め、ダヴー大尉は、ノルウェーで何か大きな動きがあり、それに日本海兵隊等が対処しようとしていることに気づいてしまった。
「自分は知ってはならないことを探り出してしまったようだな」
ダヴー大尉は、独り言を言う羽目になっていた。
「仕方がない。下手に口を挟めない以上、黙って見過ごすしかないか。父の国の腕前を拝見するとしよう」
ダヴー大尉は、そこまで考えた。
そうこうしているうちに、4月9日が来た。
独軍のノルウェー、デンマーク侵攻作戦は発動された。
そして、その数日前から、この侵攻作戦を成功させるために、独軍は動かざるを得なかった。
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