第6章ー6
では、ノルウェー侵攻に投入される独海空軍の戦力は、どれ程だったのか。
まず、空軍だが、初動段階では、全部で約1000機が投入可能だった。
だが、その内、輸送機が約500機、水平爆撃機が約300機で、制空権確保に必要な戦闘機は、Bf109が約30機、Bf110戦闘機が約70機と言ったところ(残りの約100機は、偵察機等)で、制空権確保には不安があった。
とはいえ、独空軍も、英仏等の空軍に対処せねばならないことや、そもそもBf109の航続距離不足から初動段階での兵力は、この程度しかノルウェー侵攻に投入できなかったのである。
更に、独空軍は、この頃の日米空母部隊の実情を舐めていた。
英海軍が複葉機を主力としている以上、日米海軍も同程度であり、ウラジオストク軍港でソ連海軍が壊滅したといっても、在泊中を襲われたからに過ぎない。
この兵力でも充分だ、と判断していたのである。
独海軍は日米海軍の空母部隊に怯えすぎ、というのが、ゲーリング等、独空軍首脳部の主な主張だった。
そして、独海軍だが、この時、投入可能な全ての水上艦が、ノルウェー侵攻に投入されるといっても過言ではなかった。
巡洋戦艦「グナイゼナウ」、「シャルンホルスト」、装甲艦「リュッツオー」、重巡洋艦「ヒッパー」、「ブリュッヒャー」、軽巡洋艦4隻、駆逐艦14隻、水雷艇3隻、魚雷艇4隻、掃海艇12隻、快速艇(Sボート)12隻、補給艦(Sボート母艦)2隻、(砲術)練習艦1隻、武装捕鯨船2隻が、ノルウェー侵攻に投入された。
だが、問題は、陸戦兵力の輸送能力だった。
これだけの艦船が投入されるのにもかかわらず、ノルウェー侵攻に投入できる第1陣の海上輸送兵力は、1万人に満たないもの(具体的には、約8850人)に過ぎなかったのである。
これに、空挺部隊が加わるとはいえ、その兵力は、1個大隊に過ぎない。
残りの兵力(約8万人)については、輸送機と非武装の商船で運ぶことになっていた。
つまり、第1陣が確実に港湾施設や空港を確保しないといけないという、薄氷を踏むような作戦が立案されていたのである。
少なからず話が先走り過ぎたが、1940年2月21日に、ヒトラーからノルウェー侵攻作戦を立案するように言われたファルケンホルスト大将は、慌てふためく羽目になった。
第二次世界大戦終結後に行われたファルケンホルスト大将の証言によると、有名なベデカー社の観光案内を慌てて書店で買い求め、それだけでノルウェー侵攻作戦の素案を立案したとされている。
だが、これは、さすがに誇張が過ぎるのでは、という疑惑が付きまとっている。
既述のように、独海軍は予てからノルウェー侵攻を研究していたのである。
海軍のみでは、ノルウェー侵攻は不可能であり、陸軍にも事前にそれなりの話はしているだろう。
それに近国の軍事情報を全く調査、把握しない参謀本部がある訳がない。
だから、ファルケンホルスト大将の証言は、ノルウェー侵攻は、予てから準備していたものではない、というアリバイ作りのためのものであり、他にも資料を参考にして、ノルウェー侵攻作戦の素案を作成したのではないのか、という疑惑が付きまとうのだ。
とはいえ、ファルケンホルスト大将にとって、時間が無かったのは事実だった。
午後5時までに、何とかノルウェー侵攻作戦の素案を作成できたファルケンホルスト大将は、ヒトラー総統にその素案を示した。
オスロ、スタヴァンゲル、ベルゲン、トロンヘイム、ナルヴィクの5か所を急襲して制圧、各か所には1個師団を最終的には充て、その後、ノルウェー全土を占領するというのが、その素案の骨子である。
ヒトラー総統は、この素案を承認した。
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