第5章ー10
そんなことがパリで起こっている頃、米国の首都ワシントンでは、一人の男が大騒動を起こしていた。
「わしを、フランスに派遣しろ。あの男達と肩を並べて戦いたい」
パットン准将は、会う人毎に話すというより、説得している有様だった。
「あの男達、サムライと肩を並べて戦えるのなら、わしの軍人として本望だ」
パットン准将は、しまいには、そこまで言う有様だった。
この当時、中佐だったアイゼンハワー将軍は、第一次世界大戦直後の頃に、パットン准将と共に働き、親友と言ってよい仲になっていたのだが、この頃のパットン准将については、
「もう、自分の最愛の恋人が、フランスにいるかのように、わしを、フランスに派遣しろ、と会う人毎に叫んでいたな」
と、第二次世界大戦終結後に語る有様だったのだ。
そうは言っても、親友のパットン准将の真意を確かめ、友人を助けるために、アイゼンハワー中佐(当時)は、それなりに動いてはやった。
「正直なところを言ってくれ。20年余り前、サムライを侮辱する言葉を吐いて、日本どころか、英仏の軍人たちまで怒らせたのを忘れたのか。未だに、あの時の言葉を忘れていない人間は多い。君が、フランスに行ったら、あの時のことを持ち出す人間が、日本の軍人どころか、英仏の軍人でも出て来るぞ」
アイゼンハワー中佐は、親友として、パットン准将に忠告した。
その言葉を聞いたパットン准将は、さすがに神妙な顔つきになって言った。
「分かっている。若気の至り、では済まない話だった」
パットン准将は、その後、言葉を続けた。
「だが、ベルギー解放軍の一員として戦ったことから、目が覚めた。サムライには、本当に尊敬する軍人が揃っていた。中でも、共に肩を並べて戦った北白川宮提督は、自分が指揮下に入ってもいい、とまで思う軍人だった。その北白川宮提督が、日本の欧州派遣総軍総司令官だという。それを聞いたら、矢も楯も堪らなくなってしまった」
「ふむ」
アイゼンハワー中佐は、考えを巡らせた。
パットン准将が、そこまで言うのなら、親友の為に動いてやろうか。
アイゼンハワー中佐は、マッカーサー将軍の副官として働いた際に、(本人としては、不本意だったが)陸軍省のみならず、各方面に顔と名前を売っていた。
(もっとも、そのために、アイゼンハワー中佐は、第二次世界大戦後に、急激に出世できたともいえる。
第二次世界大戦後、各方面で働くと、あの時のマッカーサー将軍の副官か、ということで、すぐに思い出してもらえ、自らの才能も相まって、高評価されたのである。)
そして、アイゼンハワー中佐は、パットン准将の為に、顔見知りに働きかけ、その行動は、アイゼンハワー中佐の知人の多さから、ウッドリング陸軍長官の耳にまで届くことになった。
「この際、パットン准将を、少将に昇進させ、米第1軍司令官に任命しようか」
ウッドリング陸軍長官は、陸軍省の幹部と会議を開いて、提案した。
「しかし、ろくな兵がいませんが」
幹部の一人は、難色を示した。
何故なら、米陸軍の拡充は、始まったばかりで、しかもその兵力の多くが、マッカーサー将軍の働きかけにより、アジアに向かっていたからである。
「張りぼてでいい。米陸軍の拡充が、順調に進んでいると独ソを欺瞞する。それによって、独軍の対仏侵攻を防ぐ」
「成程」
ウッドリング陸軍長官の言葉に、多くの陸軍省の幹部は納得した。
米英仏日等の国力は、独ソの国力を遥かに凌ぐ。
戦争が長期化する程、独ソは不利になる。
「今のところ、兵はいないが、米第1軍司令官に任命するだと」
パットン准将は、その話を聞いた瞬間、上機嫌になった。
「よし。独の糞野郎を叩きのめしてやる」
パットン准将は叫んだ。
書くまでもない話かもしれませんが、この世界のパットン准将が、第一次世界大戦で、何をやらかしたのかは、第4部で描いている通りです。
これで、第5章は終わり、次話から第6章、ノルウェー侵攻になります。
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