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第5章ー8

 アラン・ダヴー大尉は、ガムラン将軍の採用面接を受けた翌日には、顔合わせも兼ねて、日本の欧州派遣総軍司令部を訪問していた。


「アラン・ダヴー大尉です。この度、ガムラン将軍の副官兼日本海兵隊との連絡士官に任ぜられました。どうか、よろしくお願いします」

 ダヴー大尉が、司令部を訪問し、衛兵に挨拶をしていると、いきなり後方から声を掛けられた。

「どこかで、見た覚えがある顔だな」

 文言だけからすれば、犯罪者を見つけたような文言だが、口調に暖かみが込められていた。


 ダヴー大尉は、思い切って振り返り、その人物の顔を見つめた。

「石原莞爾提督」

 ダヴー大尉は、その人物が誰か分かった瞬間、思わず敬礼しながら叫んでいた。

「やはり、そうか」

 スペイン内戦において、ダヴー大尉と、お互いに顔見知りになっていた石原中将は、破顔一笑しながら言った。


「こいつの身元は、わしが保証する。司令部の中に入らせてやれ」

 石原中将は、ダヴー大尉の肩を叩きながら、衛兵に声を掛け、自らダヴー大尉を司令部内に招じ入れた。


「さて、お前が、ガムラン将軍の副官兼日本海兵隊との連絡士官に出世していたとはな」

 自らの執務室に、ダヴー大尉と入ってすぐ、石原中将は、ダヴー大尉に声を掛けた。

「はい。自分も思いもよらない出世でした」

 ダヴー大尉は、正直に言った。


「スペイン内戦で、日本海兵隊とのコネができたから、抜擢されたのだろうがな」

 石原中将は、皮肉めいた口調で言い、ダヴー大尉は、苦笑いした。

「そういえば、あの時の総司令官である土方伯爵の息子も、作戦参謀として、この場にいるな。後で紹介してやろう」

「ありがとうございます。不躾ですが、石原中将の役職は?」

 ダヴー大尉は、率直に石原中将に尋ねた。


「わしか。わしは、欧州派遣総軍の参謀長だな」

 石原中将の答えに、ダヴー大尉は、驚愕した。

 欧州派遣総軍の実質的な第2位ではないか。


「もっとも、トップは、もっとすごいぞ。何しろ宮様だ。北白川宮成久王殿下だ」

「あらためて聞くと、凄さが分かりますね」

 ダヴー大尉は、その答えを聞いて、想いを巡らせた。

 今上天皇陛下の義理の叔父に当たられる北白川宮成久王殿下が、日本の欧州派遣総軍の最高司令官になられているのだ。

 日本は、英仏を決して見捨てない、という覚悟を内外に示すものと言えた。


「我らがマリアンヌ姫を助けるために、尊貴なるサムライが東方から来られたことを、心から感謝します」

 思わずダヴー大尉は、芝居がかった口調で言った。

 フランス(共和国)には、マリアンヌ(姫)という擬人化された象徴がある。

 北白川宮成久王殿下は、マリアンヌ姫を助けようと、遥かな東方から駆け付けた白馬の騎士、いやサムライに違いない。


「はは。そこまで日本語で語れるとは、本当に達者な日本語だな。もっとも、約70年前は、マリアンヌ姫の慈悲に縋って、命が助かった幼子。20年余り前は、馬から武具から全てをマリアンヌ姫らに提供してもらった貧乏サムライだがな。我が海兵隊は」

「自分のことをそこまで言われなくても」

 石原中将の辛らつな言葉を、ダヴー大尉は、思わずたしなめた。


 だが、あながち、そう間違っているとは言えない。

 戊辰戦争時の幕府歩兵隊、この前の世界大戦時の日本海兵隊は、その通りと言ってもよかった。

 だが、今や、我がフランスは、日本海兵隊等、外国の援け無くして、独にはとても勝てない。

 ダヴー大尉は、そう考えざるを得ず、母国フランスの零落を嘆かざるを得なかった。


「安心しろ。サムライに加え、ヤンキーもすぐに駆けつける。再来年には、フランス国旗が、ナポレオン1世の時のように、ベルリンに翻るようになるぞ」

 石原中将は自信満々に言った。

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