第5章ー7
こういった海では、大きな動き、うねりがあった一方で、3月初めに、日本海兵隊6個師団は、仏本国に全て到着を完了していた。
日本の大本営と、仏陸軍参謀本部が協議した結果、日本海兵隊6個師団は、戦略予備部隊として、取りあえずは、パリ近郊近くの駐屯地に分散して留め置かれることになった。
ちなみに、皮肉なことに、日本海兵隊で、中佐以上の階級の者ほぼ全員が、第一次世界大戦時に、欧州に派遣されていた経歴を持っており、かなり錆び付いてはいたが、英仏語を操ることが可能だった。
むしろ、少佐以下の若手士官、下士官、兵が、英仏語に苦労する羽目になった。
そういった者の中でも、一部の者は、スペイン内戦において、スペインに赴いた経験を持っていたが、所詮は実際に用いたのは、スペイン語である。
英仏語をあらためて習得せねばならず、多くの者が悲鳴を上げた。
その中には、当然、土方勇少尉も含まれていた。
英仏語を(かなり怪しいレベルだが)操れる父親の土方歳一中佐を、内心で土方少尉は羨むことになった。
仏本国に、土方少尉は、スエズ運河経由でたどり着いたので、2月半ばには到着していた。
「習うより慣れろ。ともかく、フランス語のシャワーを浴びてこい」
本当にいい加減な指示を、上官の岡村徳長中佐から受けた土方少尉は、独学する一方、外出許可の度に、フランスの街に出て、フランス人の会話に、それとなく耳を傾ける日々を送っていた。
2週間余りが経つ内に、少しずつ以前よりフランス語が分かってきたような気がする。
土方少尉は、それを励みに、フランス語習得に励んでいた。
その一方で、アラン・ダヴー中尉は、仏陸軍参謀本部に召喚されていた。
何事か、と訝りながら、ダヴー中尉が出頭すると、ガムラン将軍が待っていた。
「君は、スペイン内戦で「白い国際旅団」の一員だったそうだな」
フランス陸軍のトップの一人ともいえるガムラン将軍は、ダヴー中尉に問いかけた。
「はい。その通りです」
ダヴー中尉は、背筋を伸ばして即答した。
「日本海兵隊に、知己は多いだろうな」
「それなりには、いると思いますが」
ガムラン将軍の問いかけに、ダヴー中尉は注意深く答えた。
ダヴー中尉は、想いを巡らせた。
「赤い国際旅団」の一員だったなら、問題になるだろうが、自分は「白い国際旅団」の一員だ。
それに、仏陸軍士官への復帰が認められている。
一体、何のために召喚されたのだろうか。
「ふむ。書類も何度も検討したが、綺麗なものだ。問題はなさそうだな」
ガムラン将軍は、ダヴー中尉の前で、自問自答した。
「君を、わしの副官兼日本海兵隊との連絡士官にする。君は、日本語に問題は無いのだろう」
「それは問題ありません。ありがとうございます」
ダヴー中尉は、思わず敬礼して即答した。
「何。日本海兵隊に顔が広い人間を、連絡士官にしておくと、何かと便利だからな。この前の世界大戦時には、各国間で連携を取るのに苦労した。それに、君は、実父は知れないとはいえ、日本海兵隊員の息子だという噂ではないか。日本海兵隊、サムライは、義理と人情を重んじる。サムライの息子らしいと聞けば、多くの日本海兵隊員が、君に好感を持つだろう」
ガムラン将軍は、偽悪的な口調ながら、暖かみのある言葉を、ダヴー中尉に掛けた。
ダヴー中尉は、敬礼したまま、思わず肯いた。
「わしの副官を務める以上、大尉に昇進してもらう。それから、初任務だが、今後の英仏日等の作戦について、会議を開くことになっている。そのための日本海兵隊司令部との日程調整等の実務を行ってほしい」
ガムラン将軍は、ダヴー中尉に、そのように指示を下した。
「分かりました」
ダヴー中尉は、ガムラン将軍に答えた。
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