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第4章ー11

 ちなみに、日本軍の幕僚に心配されるまでもなく、米軍の再軍拡の遅れを、もっとも承知していたのは、皮肉なことに、マッカーサー将軍自身だった。

 特に、質の面での懸念が深かった。

 フィリピン軍の軍事顧問を務めていた頃から、マッカーサー将軍が、この点については、周囲を怒鳴り散らすことが多発する有様だった。


(なお、後に米軍の欧州派遣軍総司令官等を務めたアイゼンハワー将軍は、マッカーサー将軍がフィリピン軍の軍事顧問を務めていた当時、少佐又は中佐として、マッカーサー将軍の副官を務めていたことがあるが、人格円満で知られるアイゼンハワー将軍でさえ、この頃のマッカーサー将軍の性格、行動には耐えかねて、フィリピンから去ってしまう程だった。)


 1940年1月現在、マッカーサー将軍は、米陸軍の太平洋方面軍総司令官に就任し、北京市に駐在していて、そこに太平洋方面軍総司令部を置いていた。

 そこに移動した後も、マッカーサー将軍は、上記のような事情から、基本的には不機嫌な日々を送っており、副官のサザランド少佐以下の総司令部の面々は、胃に穴が開きそうな日々を送っていた。


「サザランド、我が米陸軍の戦車の現状を知っているか」

「言うまでもありません」

 そんなある日の太平洋方面軍総司令部の会議の席で、不機嫌な口調で、自分に確認を兼ねて問いかけてくるマッカーサー将軍に、サザランド少佐は即答した。

 少しでも返答が遅れたら、マッカーサー将軍が怒鳴ってくる。


「全く。議会が予算を認めなかったばかりに、このような体たらくにまで、我が米陸軍が落ちぶれていたとは思わなかったぞ。日本海軍以下の戦車で、米陸軍は満足していたのか。いいか、陸軍ではない、海軍の戦車だ。そんな戦車に、我が米陸軍の戦車は見劣りする惨状だ。こんなことが許されるものか」

「全くおっしゃる通りです」

 マッカーサー将軍の言葉に、サザランド少佐は、背筋を伸ばしながら答えた。

 だが、内心では別の想いがしている。

 日本海軍、いや、日本海兵隊と、我が米陸軍を比較するのが、そもそも無茶なのだ。


 日本海兵隊は、量はともかく、質に関しては、世界最強を競うレベルの陸兵だ。

 日本で徳川幕府が倒れ、明治新政府が樹立された後、戦場経験を、伊達に日本海兵隊は、世界で積んだわけではない。

 日清戦争、日露戦争、(第一次)世界大戦、日(英米)中限定戦争、満州事変、スペイン内戦、中国内戦介入と、10年と空けずに日本海兵隊は戦場で戦い、常勝不敗を謳われている。


 日本海兵隊は、相手が弱かったから勝てたのだ、と米国内の白人優位主義者は嘯くが、独帝国の皇太子自らが、かつての世界大戦時には、

「独帝国の近衛師団よりも、日本海兵師団は優秀である」

 と賛辞を送ったのだ。

 独陸軍は弱兵だから負けているのだ、と米国内の白人優位主義者は叫ぶのだろうか?


 そして、戦車等の運用経験も、かつての世界大戦時から、日本海兵隊は、散々、実戦で経験している。

 戦車と歩兵、砲兵、航空兵力等を緊密に協力させ、戦場で敵軍を圧倒する経験に関しては、日本海兵隊は世界一の経験の持ち主だろう。

 裏返せば、それだけの経験を積める程、日本海兵隊は、世界に赴いて戦い続けたのであり、この前の世界大戦の後、実戦経験が全くないとは言わないが、ろくに実戦経験の無い米陸軍が、日本海兵隊と比較して、色々な面で見劣りするのはやむを得ない話なのだ。


「ともかく、このままでは、我が国の新聞記者どもが、我が米陸軍士官に対して、江田島で再教育してもらったらどうか、等々の妄言を記事に挙げかねない。そんな記事を、諸君らは読みたいのか」

 マッカーサー将軍は、司令部の面々を睨みながら言い放った。

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