第4章ー10
「とはいえ、先のことは先のことだ。まずは、第1段階の作戦を立案する。鴨緑江方面から、日本軍歩兵12個師団が進撃する。但し、これはどちらかと言えば、鉄床だ。金州方面から、日本軍機甲5個師団、歩兵5個師団が進撃する。これが主力部隊になる。そして、遼河方面からは、米軍10個師団が進撃していく。これらの部隊の合流するのが、奉天だ。これによって、ソ連軍の精鋭を包囲殲滅するのだ。日露戦争時と同様の大勝利を収められるように努めようではないか」
関東軍司令官の小畑敏四郎大将は、長広舌を振るった。
これに対して、幕僚の一人が、疑問を呈した。
「日米両軍併せても、32個師団にしかなりません。昨年の9月、ソ連軍の満州侵攻時点で、満州侵攻に当たっていたソ連軍は、約40個師団を擁していた、と諜報の結果、判明しています。その後の侵攻作戦で、かなりの消耗が、ソ連軍には、生じている筈ですが、後方からの補充兵の到着、新編成師団の到着により、兵力的には、今年の3月時点でも、昨年9月時点と同水準の兵力を、極東ソ連軍は誇るでしょう。劣勢な兵力で、我々は勝てるでしょうか」
この疑問に対しては、関東軍参謀長の樋口季一郎中将が答えた。
「確かに、兵力的には、そう見えてもおかしくない。だが、ここで奉天以南の満州の地勢が、我々に味方するのだ。ソ連軍は、これまでに快進撃を続けてきた。そのために、来春以降、更なる攻勢を取ろうと、ソ連軍の兵力は前のめりになっている。鴨緑江方面、金州方面、遼河方面と、ソ連軍の部隊は、分散傾向にあり、後方の予備部隊は、枯渇気味になっている」
樋口中将は、そこで、一息入れた。
「そして、これは各個撃破の好機でもある。特に、戦車戦においては、我が方が優位にあるのは、白城子の戦例で証明された。金州方面に機甲部隊を集中し、奉天まで急進、そして、鴨緑江方面と遼河方面に分かれているソ連軍を各個撃破するのだ」
樋口中将は、言葉を締めくくった。
「しかし、米軍がどこまで我々に協力してくれるでしょうか。マッカーサー将軍は、誇りが高く、日本軍に中々協力してくれそうにありません。それに、米軍は自動車化こそ、我々より進んでいますが、色々と兵器の質において」
別の幕僚が言葉を濁しながら言った。
実際、その幕僚の懸念も、もっともなところがあった。
まず、マッカーサー将軍としては、自分こそ日米満韓全軍の総指揮官として相応しい、と自負していた。
「米陸軍参謀総長を務めた儂以外に、日米満韓という四か国の連合軍の総司令官が務まる人材はいない」
と周囲に吹聴していた。
そのため、日満韓の3か国の軍人の中には、不快感を覚える者が多く、それが、また、マッカーサー将軍に感じられることから、米軍と、日満韓軍の間には、微妙な空気が流れていたのである。
そして、長年にわたる米軍の軍縮である。
本来から言えば、当然の話ではあった。
何しろ、米国が大規模な戦争に突入すること等はあり得ない、という世論が、米国全体を覆っていた。
そもそも、日本は、日露戦争以来、満州等の中国利権を共同経営する友好関係にある。
英国も、第一次世界大戦で、かなり疲弊してしまい、海軍力は対等にまで落ち込んでいる。
ソ連との間で、東アジアでトラブルになったり、中国が利権を返せ、と言ってきたり、するかもしれないが、日本という友好国にして軍事強国が、アジアにはある以上、米国の軍事力は、そう不要である。
それ以外の欧州諸国(仏伊等)と、米国が戦争になる可能性等、考えるまでもない。
(独は、ヴェルサイユ条約という軛がある以上、心配無用、とも考えられていた。)
このため、米軍の再軍拡は遅れていたのである。
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