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第4章ー9

「もっとも、満州国軍については、蒋介石らも悩みが深いだろうな。何しろ、どこをどう守るのが相当なのか。わしでも迷ってしまう。満州を守るべきか、中国本土を守るべきか」

 関東軍参謀長の樋口季一郎中将は、ぽつんと言い、小畑敏四郎大将らも、その点については、同意せざるを得なかった。


 満州国と言っても、実際には、河北省や山東省、浙江省といった中国本土の東方を今では確保している。

 中国内戦勃発以来の内戦の結果、日本軍の協力を得て、それらを蒋介石ら満州国は領土化しつつあった。

 満州を事実上失陥している現在、こういった新しく領土化した土地にいる住民から、満州国軍の補充兵を蒋介石らは募っているという現状があった。

 満州国の兵に志願する住民の多くが、これまでの内戦等によって、農地を失い、流民化した者達だった。

 彼らは、自分が今日を生きるためや、家族の今日を養うために、満州国軍に志願していた。


 だが、こういった志願兵やその家族は、共産中国政府やその支持者から見れば、祖国の裏切り者、非国民、売国奴に他ならなかった。

 そのために、志願兵やその家族は、共産中国政府やその支持者から、問答無用で死刑犯と見られていた。

 志願兵やその家族は、今日を生きるために、明日の命を危険にさらす羽目になっていたのである。

 蒋介石らからすれば、(共産中国政府やその支持者から見れば、国際法上、正当極まりない即決裁判による処刑行為、蒋介石らからすれば、国際法に違反する単なるテロ行為から)中国本土に住みながら、満州国軍に志願した兵や家族の命を守ることは、満州国を維持するために必要不可欠な話でもあった。


 こうしたことから、満州国軍20個師団を、どのように展開するのが相当なのか、蒋介石ら満州国政府、軍の上層部は悩む羽目になっていたのである。


「取りあえず、南満州奪還作戦については、日米軍だけで行うことにしよう。当てにならない兵力を投入する前提で作戦を立案するのは、無謀極まりない話だ。来春、それも3月を目途に発動することにしたい」

 関東軍司令官である小畑敏四郎大将は、幕僚会議に漂う雰囲気を察知、考えた末に、そう発言した。

 参謀長である樋口中将らも、その言葉に同意した。


「まずは、日本及び同盟国の大戦略から考えていこう。最終的には、満州を完全に満州国領に回復し、更にソ連極東領を制圧、イルクーツク、バイカル湖まで進撃していく。本来からすれば、更に西進を図るべきだろうが、シベリア鉄道の輸送力から考えれば、そこまでに進撃を止めるのが妥当だろう。それに、そこまで進撃すれば、現在の外蒙古政府も崩壊し、親日満の自治政府が、外蒙古に樹立されるだろう。これを大戦略として考える」

 小畑大将は、半ば演説を幕僚会議で行った。

 樋口中将以下、会議の参加者のほとんどが無言で肯いた。


「この大戦略を実現するために、5段階で作戦を立案する」

 小畑大将は、言葉を継いだ。

「5段階ですか」

 樋口中将が、合いの手を入れた。


「そうだ。第1段階で、日米両軍により、奉天以南の南満州を回復する。第2段階で、ハルピン以南の満州を回復、ハルピンで東清鉄道本線を切断する。第3段階で、満州全土を回復する。第4段階が、ソ連領への侵攻作戦で、ルフロウォ以東のソ連極東領を制圧する。第5段階で軍を西進させ、イルクーツク、バイカル湖以東を占領下に置く」

 小畑大将は、5段階の作戦の大雑把な内容を、そう説明した。

 樋口中将は、その内容については、妥当なものではないか、と考えたが、参謀長の職務として、疑問点を指摘した。


「柔軟に各段階毎に作戦は立案されるのですね」

「言うまでもない」

 樋口中将の疑問に、小畑大将は即答した。

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