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第4章ー5

 何故、千恵子が、そんなことを考えるようになったのか。

 日本各地の防空訓練についての報告、情報を読むうち、千恵子の癇に微妙に障る点が出てきたからだった。

 防空訓練を行い、避難する際に、避難者を確認するのは、ある意味で当然である。

 だから、隣組を強化し、お互いの家族構成等を把握することで、避難者を相互に確認する。

 だが、これは悪用しようと思えば、相互監視の役目を、当然果たすようにもできる。


 また、防空訓練の際に、避難訓練だけでは生ぬるい、敵機が去った後の消火活動を効果的に行うためにも、消火訓練も行うべきだ、という声が上がり、実際に実施している自治体が増加しているという情報もあった。

 これ自体も悪いことではない。

 実際、数機程度の空襲により発生した小規模な火災なら、バケツリレー等、一般市民の消火でも、かなり被害を抑えることができる。

 だが、ソ連空軍の行った空襲は、100機を超える規模のものも稀ではない。

 ここまでの大規模空襲となると、最早、一般市民の消火活動等、そう役には立たない。

 むしろ、素人の生兵法ではないが、このような大規模空襲の際の一般市民の消火活動は、却って一般市民の犠牲者を出す可能性すらあった。


 千恵子は、その癇に障った部分を、正直に土方勇志伯爵にぶつけることにした。

「どう思われますか」

 一通りの説明を行った後、千恵子は、言葉を付け加えた。

「確かに否定できないな」

 土方伯爵は、義理の孫の言葉というより、有能な部下の報告を受けるような態度を示した。


「だが、どうにかできる問題かな」

「確かに。でも、気づかないままでいるよりは」

 土方伯爵の言葉に、千恵子は、反論した。


「ちょっと動く。だが、結果については、言えないが、いいかな」

「それでも構いません」

 土方伯爵の言葉に、千恵子は矛を収めることにした。


 数日後、土方伯爵は、林忠崇侯爵と密談していた。

「ほう。お前の孫の嫁は、思ったより有能だな」

「孫の嫁をお褒め頂き、ありがとうございます」

 林侯爵は、土方伯爵の千恵子とのやり取りについて、一通りの説明を聞いた後、素直に千恵子を褒め、土方伯爵は少し恥じらった。


「米内首相以下、内閣、政府に、防空訓練を、国民監視等に使うような、そんなつもりはないだろうが、そんなことに使うな、と内閣、政府に警告しておいて悪いことではないな」

 林侯爵は、暫く黙考した後、そう言い、言葉を更に継いだ。

「実際、どんな物事にも、思わぬ副作用はある。大学の予備士官育成制度がいい例だ」


 土方伯爵は、その言葉で思い起こした。

 大学の予備士官育成制度の導入につき、林侯爵は、元老の山県有朋元首相を、この制度によって、大学内部を監視できる、という殺し文句で説得した。

 林侯爵自身には、全くそのつもりは無く、あくまでも説得のための方便だった。

 だが、今や、大学の予備士官育成制度は、大学内部の監視に悪用されているという噂が流れる有様になっている。

 とはいえ、今や陸海空海兵軍士官育成に必要不可欠ともいえる存在になっている大学の予備士官育成制度は、運用の改善は出来ても。廃止はできない。


「それにしても、千恵子の将来が楽しみだな。その気になれば、代議士も立派に務まりそうだ」

 物事を敢えて軽く流すために、林侯爵は軽口を叩いた。

「勘弁して下さい。夫は貴族院議員で、妻は衆議院議員という例なんて、御免被ります」

 土方伯爵も軽口で返した。


「千恵子を政治的な面で鍛えておいて悪いことは無いぞ。将来の土方家を考えるならな」

「確かにそうですな。我が家の立場上、政治に全くの無関与はできないでしょうから。幾ら軍人は政治に関与せず、とはいえ」

 林侯爵と土方伯爵は、膝を交えて語り合った。

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