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第4章ー4

 帝国議会開会中、余り自分から動く元気は無く、実際に余り動かなかった土方伯爵ではあったが、黙っていても情報は手元にそれなりに入ってきた。

 そもそもが、貴族院議員であり、政府から議会審議のための資料等という形で情報が提供される。

 また、古巣の海兵本部からは、その人脈から機密性の低い情報が、随時、流れてくる状況にあった。

 そして、土方伯爵が情報通なのを知っている記者等から、情報交換で、情報を手に入れることもあった。


 そうやって手に入ってくる情報を、土方伯爵は考えた末に、同居することになった孫の嫁の千恵子と話し合うことで、分析することにした。

 こういった情報を、一人で抱え込んで分析するのは、土方伯爵にとって重すぎた。

 かつては、林忠崇侯爵と話し合い、それによって土方伯爵は共同して情報を分析していたが、林侯爵自身が老衰もあり、そう動かなくなっていた。

 かといって、新たな秘書を雇って話し合う、というのは、土方伯爵にとって、そもそも億劫だったし、秘書の身元調査にも、気を配らねばならなかった。


 そういったことから考えると、良くも悪くも宮内省による身元調査が済んでおり、更に気心の知れた家族であり、頭も回る千恵子というのは、土方伯爵にとって、好適な相手だった。

 千恵子も喜んだ。

 千恵子は、僅かな期間とはいえ、女学校の教鞭を執る等、家の中に籠るのは、実は好きではなかった。

 それに、土方伯爵の話し相手になることで、欧州にいる夫や弟の情報までも、千恵子は推測、把握できるからだった。


「それにしても、本当に私でいいのですか」

 土方伯爵から、情報分析の話し相手になって欲しい、と千恵子は頼まれたときに、一応は心配した。

 千恵子からすれば、大姑や姑を差し置いて、自分がなってもいいのか、とも考えたのだ。

「婆さんや嫁は、政治が分からないからな。かといって、今から政治について鍛えるのもな。その点、千恵子なら、鍛えがいがある」

 土方伯爵は、冗談交じりに言った。


「それに機密性の高い情報もあるのでは」

「それくらい、わしの方で考える。数日の内に、新聞が流すような機密性の低い情報くらいしか、基本的に話すつもりは無い。それに千恵子の口は堅いと信じている」

「そこまで、言っていただけるのなら」

 土方伯爵の言葉に、千恵子は、一応、謙譲したものの、内心では喜んで引き受けた。


「情報は入手するだけでは無意味だ。入手した情報を分析、活用せねば意味がない。とはいえ、今のところは、自分にとっては、分析するだけだがな」

 土方伯爵は、それを口癖、前置きにして、千恵子と入手した情報を分析するようになった。


 帝国議会開会中、千恵子にとって、気持ち的には忙しい日々になった。

 ただでさえ5月の出産を前にする身重の体である。

 とはいえ、ある意味、安楽椅子探偵の役目でもあり、体にはそう負担にならない。

 何しろ、土方伯爵の方から情報が流れてきて、それを二人で分析するのだから。

 義理の祖父と孫娘として、千恵子は忙しい中で、気持ち楽しんだ。


 土方伯爵の入手した情報を共同分析する中で、千恵子に見えてきたものがあった。

 主要都市で行われている防空訓練は、ある意味、戦争遂行の道具の一環としての側面を持っている。

 それは、千恵子のいる日野町が、都市で無いことから防空訓練を実施していないことから、千恵子に見えてきたものでもあった。


 防空訓練を行うことで、隣組の連携を強め、戦争遂行に対する非難をしづらい空気を、政府は、意図的にか、非意図的にか、流そうとしているのではないか。

 とはいえ、実際に空襲が行われる中で、防空訓練に反対はできない。

 千恵子は、横須賀にいる村山幸恵が、別の意味でも心配になった。 

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