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第4章ー1 日ソ戦争の反攻準備

 第4章の始まりです。

 1月10日の夕方、村山幸恵は、防空訓練を済ませた後、一息吐いて、想いを巡らせた。

(義)弟の土方勇と岸総司は、今、どの辺りにいるのだろうか。


 あの1月3日に4人で逢った後、先日、勇と総司は、海兵隊士官として、欧州へ出征した。

 幸恵は、横須賀港から出航する、欧州へ向かう海兵隊員の輸送船団を見送る、という建前で、2人を陰ながら見送った。

 幸恵は、海兵隊士官の多くが利用する、料亭「北白川」の若女将でもある。

 そういったことから、(事情を知らない)夫は、全く怪しまなかった。

 母のキクと養父は、何も言わずに、幸恵の行動を黙認した。

 母はともかく、養父も、私の実父を察してはいるのだろう、だが、私や母が、実父に認知を求められない以上は、これが精一杯なのも察しているのだろう。

 幸恵は、そう考えていた。


 日ソ開戦以来、ソ連空軍の空襲に遭う危険が高い市町村では、防空訓練を行うところが増えていた。

 横須賀市は、鎮守府がある以上、ソ連空軍の空襲危険性が極めて高いと考えられており、毎月10日に昼間空襲の、25日に夜間空襲の防空訓練を行うようになっていた。

 とはいえ。


 幸恵の目からすれば、防空訓練というより、避難訓練だった。

 実際には、それしかないとはいえ、少し忸怩たるものを、幸恵も覚えざるを得なかった。

 今日も、横須賀市街地にある「北白川」から、市街地の外に指定された避難場所へと、幸恵は、家族や従業員と共に移動しただけだった。


 確かに、爆弾や焼夷弾が、ソ連空軍の重爆撃機から落とされた場合、幸恵のような一般市民は、基本的に避難するしかない。

 爆弾や焼夷弾に、濡れた物等を被せることで、何とかなるか、と言えば、何ともならないし、そもそも、そんなことできるか、というのが実際のところだからだ。

 空襲が終わった後、速やかに鎮火活動を行うのが精一杯のところで、それも、本職の消防士の方が、幸恵のような一般市民よりも、遥かに役立つだろう。


 回覧板を使って行われている、横須賀市の広報活動も、まずは、人命第一、空襲があったら、市街地から避難して、自分の命を守ってください、と幸恵達に説いている。

 人命第一、空襲が終わった後で、鎮火、防災活動を行う、それが、横須賀市の方針であり、米内光政首相率いる日本政府の基本的方針とも合致していた。


 幸恵の周囲には、半分寝たきり等で動けない家族の為に、防空壕を家の庭に造る人もいる。

 空襲の際には、自分や家族は、防空壕に避難して、生き延びようというのだ。

 確かに、市街地の外の避難場所にまで、動けない家族を運ぶのは大変だからだ。

 家の床下等に防空壕を造らないのは、家に爆弾等が直撃したら、生き埋めになるからだ。


 こういった防空訓練や対策は、否応なしに、幸恵に、日本が戦時中であることを実感させていた。

 いや、幸恵以外の多くの日本人にとっても、実感させるものだった。


 幸恵は、防空訓練での避難場所からの帰途に思い立って、帰路にある小さな神社に弟2人の無事を祈願しに行った。

 その神社の境内に入った瞬間、岸忠子がいるのが目に入り、幸恵は、さっと隠れた。

 忠子は、幸恵に気づかずに、祈願を済ませて、境内から出て行った。

 おそらく帰宅するのだろう、と幸恵は推測した。


 幸恵が、忠子から隠れる必要は無いのだが、土方勇と千恵子の結婚式以来、忠子は、幸恵が、総司や千恵子の異母姉だと察したらしい。

 とはいえ、幸恵やその母が、何も言わないのに、自分、忠子が騒いでも、どうにもならない。

 忠子は、完全に「北白川」から遠ざかることで、自分がそれを察したことを示した。


 幸恵や母も、忠子の感情を逆なでするつもりはなく、忠子の目に入らないように努めている有様だった。

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