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幕間1-5

 1月3日の昼、土方勇と千恵子は、料亭「北白川」を訪れていた。

 本当は、「北白川」は、正月休みなのだが、若女将の村山幸恵が、声を掛けて、岸総司と千恵子が、欧州出征前に、直接、言葉を交わせるように、と図らったのだった。

 だが、それは建前だった。

 本音は、幸恵も名乗れぬ身とはいえ、(義)姉として、欧州出征前の総司や勇と言葉を交わし、陰ながら見送りたかったのだ。


 勇と千恵子が、「北白川」に着いた時、既に、総司は到着して、部屋に入っていた。

「いらっしゃい」

 幸恵が、勇と千恵子を出迎え、総司が待つ部屋へ、自ら案内した。


「姉さん達、久しぶり」

「総司も元気?奥さんとは、上手くやっている」

 総司と千恵子は、顔を合わせると、すぐに会話を弾ませた。


 それを見た幸恵と勇も、心温まるものを覚えた。 

「今日は、家族しかいないから、私が料理を運ぶわ」

 幸恵は、そう言って、一旦、部屋から出た。


「料亭らしからぬ料理だけど。勘弁してね」

 幸恵は、そう言い、お膳に載せたご飯と肉じゃがを運んできた。

「仕方ないよ。お正月休みに、無理に開けて貰ったのだから」

「そうそう、気にしないでください」

「ゆっくり話せるだけで充分です」

 他の3人は、口々に幸恵に声を掛けた。


 勇が、味見をすると、肉じゃがの肉は、塩漬けの豚肉だった。

 つまり、これは海兵隊の伝統料理でもあるということか。

 曽祖父達の手で、西南戦争の際に初めて作られ、それ以来、ずっと伝えられ続けた料理。

 それを幸恵は、敢えて選んでいた。


 欧州でも、しばしば食べることになるのだろうな。

 勇は、想いを馳せた。


「それにしても、また、海兵隊が欧州に赴くとはね」

 幸恵は、さりげなく、自分のお膳まで運び込み、他の3人と車座に座り込んで、食べながら話を振った。

 他の3人も、幸恵の所作を、何も言わずに受け入れた。


「本当にね。欧州から日本に生きて帰るのよ。二人とも」

 千恵子が、口を開いて、勇と総司に言った。

 千恵子の横では、幸恵が千恵子の言葉に肯いた。

 勇と総司も、黙って肯いた。


「それと、勇も、総司も、女遊びをしてはダメよ。いい」

「勿論だよ」

「姉さんに言われるまでもなく、分かっているよ」

 千恵子は、言葉を継いで言い、勇と総司は、口々に訴えた。

 幸恵が、その言葉を聞いて、首を傾げながら言った。

「何かあったの?」


「いえ。土方伯爵から、二人に釘を念入りに刺すように言われたので。それに、私ももっともだと」

 千恵子が、幸恵に半ば弁解すると、幸恵は、さらっと爆弾発言をした。

「ふーん。土方伯爵ねえ。総司、お祖父さんに聞いた方がいいかもね。欧州に弟妹がいないかって」

「そんなバカな。お父さんは、そんなだらしない」

 総司は、そこで、言葉を詰まらせてしまった。


 何しろ、ここにいる姉弟全員の母親が違うのだ。

 父が、他の女性に手を出していない、と断言できる筈がない。

 そして、その女性が子どもを産んでいない、とは。

 総司は、そこまで想いを巡らせた。


 少し気まずい空気が流れたのを察した勇が、助け舟を出した。

「仮にいたとしても、探しようがないですよ。あれから20年余りが経ちます。欧州は広いですし。それに下手に忠子母さんやりつ母さんの耳に入ったら」

「そうよ」

「そうですよ」

 千恵子や、総司が口々に言った。


「確かにそうねえ」

 幸恵は、そう言った後で続けた。

「でも、私や千恵子はともかく、総司は、出会いそうな気がするわね。もし、いたらだけど」

「「はは、確かに」」

 勇と総司は、笑って誤魔化した。


 その後も四方山話をして、4人は、一旦、別れることにした。

「戦争が終わったら、「北白川」に皆で集まりましょう。それまで、ここは護っておくわ」

 幸恵はそう言い、他の3人は肯いた。 

 これで、幕間は終わりです。

 次から、第4章に入ります。


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