幕間1-3
またも、何となく気まずい空気になったので、歳一が、話を今度は振った。
「それにしても、何とかソ連の攻勢は押しとめられそうですね。父さん、話せる範囲で把握している情報を、話してもらえませんか。ここには身内しかいませんし」
「そうだな」
勇志も、それに乗り、自分の把握している情報を話した。
「まずは、陸の戦況だ。遼河以東、金州以東、鴨緑江以北を、日米満韓は失陥している。はっきり言って、大敗している、と言っても過言ではない、表面上の戦況だな」
勇志は、そう言った。
「表面上はですか」
勇からしてみれば、そうは見えない。
どう考えても、大敗している。
「ソ連軍は、大量の血を流しており、更に進撃を重ねることで、補給線を延ばしている。モスクワの赤軍参謀本部辺りとしては、進み過ぎの戦況だろうな」
歳一が、勇に、そう指摘した後で、言葉を継いだ。
「いいか。鉄道を改軌する等、後方からの補給線を確立しないと、本当は進んではならない。そして、日米満韓の空軍等は、後方破壊、つまり補給線切断等にずっと注力したからな。ソ連軍の後方は、かなりガタガタな筈だ。しかし、日米満韓軍は、ひたすら退却に徹している。スターリンに、そう軍事知識があるとは思えん。表面上の戦況に鑑み、日米満韓軍の追撃を、スターリンは命じる筈だ。それに、ソ連軍内部は、そんなに犠牲者を出していないが、ソ連全体では、粛清の嵐が吹き荒れた後だ。ソ連軍は、そのことを考えれば、尚更、前進せざるを得ない」
「成程」
父の説明に、勇も納得した。
「海の戦況は、お互いにストレスが溜まる状況だな。ソ連太平洋艦隊の潜水艦部隊は、もっと戦果を挙げられると考えていたのだろうが、日本海軍は、米韓海軍の支援を受けて善戦し、戦果を挙げさせていない。確か、日ソ開戦以来の4か月間で、ソ連の潜水艦の戦果は、太平洋方面全体で、100万トンを超える勢いだというが、これだけの戦果では、日米の船舶造船能力等から言えば、充分に補いが付くからな。それに、先日、ウラジオストク軍港等に、日本の空母部隊が、集中攻撃を掛けて、大損害を与えたからな。そうはいっても、日本海軍等も、ソ連の潜水艦を、そう沈めてはいない。お互いに焦燥が募るな」
勇志の情報は、詳細だった。
どこから、ここまでの情報を入手しているのだろう。
勇は、祖父の情報網に畏怖すら感じた。
「空の戦況は、完全に、こちらが優勢に立った。帝都空襲は、11月以降は、試みもされなくなった。それは、ソ連空軍の重爆撃機部隊の損害が多すぎたのと、ソ連空軍の補充等が、満州方面の航空優勢確保と直接の地上部隊支援に主に向けられたからだな。重爆撃機部隊を使った戦略爆撃というのは、補充等にかなり大変な手間がかかる。そんなに戦果を挙げられない以上、それ以外に補充等を向けた方が効果的という話になる。そして、中国本土に展開していた航空部隊も、引き抜ける限り、満州、朝鮮半島方面に向けたからな。尚更、ソ連空軍は苦しくなる。何しろ、ソ連の軍用機の主な製造工場は、ウラル山脈以西だ。満州方面まで軍用機を展開するのも一苦労だ。後、マッカーサー将軍が、シャカリキになって、米陸軍航空隊等を、満州方面に派遣するように動いたらしいな。それによって、質量共に、日米満韓側の航空戦力は、ソ連側の航空戦力に対して有利に立てるようになった。先日、とうとう、米陸軍航空隊のB-17装備の部隊と日本空軍の99式重爆撃機装備の部隊が共同出撃したが、ソ連空軍の戦闘機部隊は阻止できなかったとか、色々と話が届いている。戦況は完全に変わったな」
勇志は、一通りの長い話を終え、他の男2人は、その言葉に黙って肯いた。
ご意見、ご感想をお待ちしています。




