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第3章ー24

 そして、かつてのベルリンオリンピック、サッカー日本代表の補欠、サブ選手の一人だった右近徳太郎も、この白城市の戦場にいた。

 右近は、慶應義塾大学の陸軍予備士官養成課程を卒業しており、中国内戦介入以来、陸軍士官として実際に戦場へと赴く羽目になっていた。

 そして、今や、右近は陸軍中尉として、自動車化された歩兵小隊を指揮していた。


「対戦車用の携帯式噴進砲の準備は出来ているか」

「はい」

「量産化されつつあるとはいえ、まだまだ試作品だ。扱いには注意しろ」

「はい」

 右近中尉は、噴進砲2門を小隊の指揮下に持っていて、接近してきた戦車に対処させるつもりだった。


 噴進砲2門を扱うのは、まだ新兵に近い兵達だ。

 だが、勘がいいと判断し、右近中尉は、敢えてその兵達に、噴進砲は渡したのだった。

 古参兵に渡すべきかもしれないが、噴進砲の命中率は悪い。

 古参兵だと、役立たずと、自分で即断しかねない。


 右近中尉としては、半分も当たれば、上等、と考えていた。

 それでも、火炎瓶を投げつけるよりは、有用な対戦車兵器と言える。

 何しろ火炎瓶を投げつけて、戦車を破壊するには、基本的に、まずは足回りを破壊して、身動きを採れないようにする必要がある等、意外と手間取るものなのだ。

 だが、噴進砲なら、基本的に当たりさえすれば、敵戦車を破壊できる。

 右近中尉は、そう考えていた。


 戦車戦は、基本的に日本側圧倒的優位と言えたが、そうは言っても、航空優勢は日本側が確保しているとはいえず、砲兵火力的には、ソ連側がやや有利と言える現状があった。

 そのために、右近中尉らが潜む陣地にまで、一部の戦車が歩兵を連れて、迫ってきた。

 右近中尉は、サッカーのフィールドに、戦場を見立てて、ソ連軍を迎撃した。

 自分が司令塔、部下達は、その指示を受けて動く選手達だ。

 監督なら、自分は動かないが、司令塔である以上、自分も動かねばならない。


 自分達を囮として、噴進砲班が、戦車の側面を狙えるように誘導する。

 軽機関銃班は、敵戦車と歩兵を分離するように努める。

 擲弾筒班は、発煙弾も適宜、発射して、敵戦車や歩兵の目を潰す。

 そして、噴進砲班が、敵戦車を仕留める。

 この時、右近中尉率いる歩兵小隊は、紛れもなく、当時世界最高峰の対戦車歩兵部隊の一つであり、自らの歩兵小隊の約1割を死傷させることと引き換えに、この日の間に、BT-7戦車4両を破壊等することに成功した。


 こういった西住大尉や右近中尉の奮闘は、個々の奮闘ではなかった。

 白城市近辺に展開している日本機甲部隊が、そのような戦いぶりを示した。

 11月8日、アルシャン方面からのソ連軍は、終に白城市の攻略を断念、ハルピン方面から南下してくる部隊の到着を待って、白城市の再攻略に取り掛かることにした。

 何しろ600両余りの戦車の約9割が、再生不可能なまでに破壊されたのだ。

 一方、日本側の戦車の損害も、それなりには出たが、再生不可能なまでに破壊された戦車は50両余りに過ぎず、戦車のみの損害比率で言えば、約10倍の戦果を挙げることに、日本側は成功したのである。

 これ程の損害を被っては、白城市の攻略強行を、ソ連軍ができる訳がなかった。


 とはいえ、これ程の戦果を挙げても、一時的な勝利なのが、日本側も分かっていた。

 山下奉文中将は、小畑敏四郎中将と協議し、自らが殿を務め、金州方面への退却を続行することにした。

 栗林忠道少将でさえ、少し不満を覚えたが、実際問題として、米軍の本格的な来援まで、ソ連軍への反撃はほぼ不可能なのが、日本軍の現実だった。

 白城市の戦術的勝利を宣伝することで、満州国、韓国政府に対して、抗戦継続を働きかける。

 それが、この時点の日本の精一杯だった。

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