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第3章ー23

 11月5日、白城市近郊の対戦車陣地の一つに、西住小次郎大尉の乗る99式戦車は、車体を潜めていた。

 第1機甲師団の工兵大隊は、優秀だった。

 ソ連軍が接近するまでに、他の歩兵や戦車部隊とも共同して、予備も含めた対戦車陣地を幾つも構築することに成功していたのだ。

 西住大尉は、この対戦車陣地に、車体を潜められていることに、安心感を少し覚えていた。


「海兵隊ですら、75ミリ野砲を転用した主砲を搭載した戦車を量産しようとする時代に、我が大日本帝国陸軍は、47ミリ砲を主砲とする戦車を量産するなんて、何を考えているのだ」

 西住大尉は、憤りを覚える余り、内心でそう呟く有様だった。

 ソ連軍の戦車は、75ミリ戦車砲を搭載していてもおかしくない、と推測されている。

 その場合、自分達は勇敢に戦って死ぬ以外に、軍人としての誉れを果たす方法はないだろう。


 そんなふうに西住大尉が考えているところに、ソ連軍の戦車は接近してきた。

 西住大尉が見るところ、BT-7戦車とT-26軽戦車、BA-6装甲車等しか無いようだった。

「ふざけやがって。我が大日本帝国陸軍の戦車を舐めるにも程がある。この99式戦車でさえ、お前らにはおもちゃ扱いということか」

 西住大尉の憤りは、今度は、逆の意味で噴出することになった。

「我が陸軍の戦車の威力を示してやる」


 実際問題として、西住大尉の認識は、少なからず間違っていた。

 ソ連軍は、75ミリ戦車砲を搭載したKV-1重戦車の量産を、確かに当時、行ってはいた。

 だが、アルシャン方面からのソ連軍の進撃に、KV-1重戦車を投入することは、機械的信頼性やトランスミッションの問題から、極めて困難である、とソ連軍上層部に判断されたことから,BT-7戦車やT-26軽戦車、更にそれを補うものとして、BA-6装甲車等が投入されていたのである。

(もっとも、ソ連軍上層部は、こういった戦車でも、日本軍の戦車に優位に戦える、と判断していたのも事実ではあった。)


 白城市近辺の航空優勢は、基本的にだが、何とか日本軍等が確保している、という現状があった。

 そのため、99式襲撃機等が、ソ連軍の戦車部隊相手に威力を発揮しており、ソ連軍の戦車部隊は、この航空攻撃を避けるためにも、日本軍戦車部隊との近接戦闘を望んだのだが、彼らは驚愕する羽目になる。


「弾種、徹甲。あいつらに、自分の戦車の装甲は紙だ、と教えてやれ」

 西住大尉は、敵戦車が自車の1000メートル以内に接近した、と判断して射撃を命じた。

 敵戦車の装甲は、最も厚いところでも、どれも50ミリも無い筈だ。

 1000メートル以内に接近すれば、どこでも47ミリ戦車砲は貫通する。


「初弾命中、敵戦車は炎上しました」

「よし」

 射手の言わずもがなの報告に、西住大尉は、顔をほころばせながら言った。

 部下の戦車の射撃も命中しているようだ。

 敵戦車部隊が、動揺している気配が、自分には分かる。


 相手の戦車も、懸命に撃ち返してくる。

 だが、陣地に身を潜めている、自分も含めた味方の戦車に対しては、中々当たりにくいし。

「ガン」

 釣鐘の中で、鐘の音を聞くような凄い音が聞こえ、西住大尉は、気が遠くなり、頭を振って、しゃんとしようとする羽目になった。

 傾斜80ミリ、垂直100ミリ相当とされる99式戦車の正面装甲には、ソ連軍の45ミリ戦車砲は非力極まりない有様だった。


 気を取り直した西住大尉は、他の中隊所属の戦車にも、あらためて無線で命令を下した。

「予備陣地に、適宜、移動し、敵戦車に対処せよ。あいつらに、自分の戦車では、日本軍に勝てない、と生涯最後の後悔をさせてやるんだ」

「「了解」」

 部下達からの威勢のいい返答に、西住大尉は笑った。

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