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第3章ー21

「言いたいことがあるのなら、率直に言ってくれ。そうしないと対策も取れん」

 梅津美治郎陸相から、発言を促され、山下奉文中将は、腹を据えて、本音を話そうと決めた。

「ソ連軍の作戦の妙について、どうにもしっくりこないのです。確かに、ラパッロ条約締結以降、独軍と共同して、様々な戦略、戦術を、ソ連軍は磨き上げてきたみたいです。ですが、更に何かが背後にある、という懸念をしてしまうのです」

「ふむ」

 山下中将の言葉に、梅津陸相が、今度は考え込んだ。


 第二次世界大戦後、ソ連軍の軍事教育資料が、米英日等の軍部に本格的に流出、把握され、更に各国の軍部に研究されることにより、作戦術という概念が、各国で取り入れられることになるのだが、この当時の各国の軍部にとって、作戦術という概念は、まだまだ未知の概念と言ってよかった。

 そして、ソ連軍は、日ソ戦争において、この作戦術を駆使して戦っていたのである。


 ソ連としては、日ソ戦争において、大戦略は簡明と言えば簡明だった。

 満州国を、まずは崩壊させ、更に韓国を崩壊させる。

 そして、満州国と韓国を共産中国領とする、つまり、釜山港まで共産中国政府の領土とし、満州や韓国の重要拠点(具体的には黒竜江省油田等)をソ連の支配下に置き、また、釜山港等をソ連太平洋艦隊の大拠点とする、というのが大戦略だった。

(勿論、中国内戦介入により、日満政権が確保している中国領は存在しなくなる。)

 これが実現した場合、日本としては、喉元に匕首が突き付けられたのと同じ状態になる。

 かつての白村江の戦いの直後や、元寇直前の国際情勢に、日本が晒される事態といっても良かった。


 この大戦略を実現するために、ソ連軍が活用したのが作戦術だった。

 大戦略を実現するための作戦は、三段階に分かれる。

 第一段階が、北満州の制圧であり、また、東清鉄道を確保して、ソ連軍が南満州へ侵攻する際の補給線を確立する。

 第二段階が、南満州の制圧であり、これによって、朝鮮半島の部隊と中国本土に残存する主に満州国の部隊を分断してしまう。

 第三段階が、朝鮮半島と中国本土の制圧で、この時点で、満州国と韓国は完全に崩壊して、共産中国の統一政権下に置かれ、日米は講和を求めるか、これ以上の継戦を断念するかして、ソ連や共産中国と、日米の間は事実上の停戦状態になる予定だった。

 それはともかくとして。


 暫く沈黙していた梅津陸相は、躊躇いながら口を開いた。

「海兵隊から、実は情報が入っている。スペイン内戦において、海兵隊を主力とする義勇兵が派遣されたのは知っていると思うが」

「義勇兵でしたね」

 山下中将は、少し揶揄した。

 お互いに、名ばかり義勇兵なのを熟知している。


「それによって、スペインで、ソ連軍の教本を幾つか、海兵隊は入手できた。その内容を、海兵隊の石原莞爾少将を中心とする面々が検討して、少しずつ陸軍にも流してくれているのだが、その中で、作戦術という概念があった。大雑把に言って、戦略と戦術をつなぐ概念だな。正直に言って、検討している面々の間でも精確な理解が為されているとは言い難い。だが、有用な考えなのは間違いないだろう。何しろ、今や国家総力戦の時代だ。いかに効率よく戦争を遂行するか、国力の損耗を抑えるか。その為にも、作戦術は必要だ」

 梅津陸相は、山下中将に説き、今度は、山下中将が考え込んだ。


「成程、作戦術の観点から、ソ連軍は、戦争を遂行していると考えるべきかもしれませんな。そして、それを我々も活用しなければならない。何しろ、我が国も国力に限界がある。そういう観点から、作戦を立てましょう」

 山下中将は、暫くしてから口を開き、梅津陸相も、その言葉に無言で肯いた。

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