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第3章ー18

 だが、こういった空軍の行動は、帝都(皇居)を護るといった点では合理的だったが、別の面に負担を生じさせることになった。


「確かに、天皇陛下の為に必要なのは分かる。だがな」

 関東軍司令官の小畑敏四郎中将は、(さすがに口には出さずに内心で)ぼやきまくる羽目になった。

 北満州方面に展開していた日本陸軍の将兵を、無事に後退させるのには、日本空軍の緊密な地上支援が、何としても必要と言っても過言ではないのだ。

 だが、帝都防衛に、空軍の戦力の第一を向けられては、満州方面の日本陸軍の支援に支障が出るのは自明の事柄だった。


 実際、満州里方面に展開していた第5師団は、ソ連軍の猛攻を、懸命に耐え忍ぶ羽目になり、何とかハルピン以南まで1月余りをかけて後退することに成功したものの、その代償として。

 

「戦闘中の車両故障が、主な原因とは言えな。何とか6両が生き残っただけか。本当に自分が生き残っているのが、申し訳ない気がしてくる数だな」

「中隊長、自分の運が良かっただけだ、と割り切ってくださいよ。歩兵と共闘したからとはいえ、一応、3倍以上の敵戦車を破壊した筈でしょう」

 何とかハルピンにたどり着いた第5師団の隷下にある戦車大隊で、戦車中隊長を務める島田豊作大尉は、部下の一人の慰めの言葉が、半ば耳には入っていないようで、独り言を更に呟いた。


「敵の戦車は、約10倍だ。3倍の破壊では、こちらが先に潰されるのだ」

 その言葉を聞いた部下達も、沈黙せざるを得なかった。

 実際、冷たいようだが、その通りだったからだ。

 島田大尉と、その部下達は、(戦車に乗っているので、歩いていない、というツッコミが入りそうだが)重い足取りで、ハルピンを後にして、南へと向かわざるを得なかった。


 1939年10月上旬、第5師団は、人員自体は半減、戦車を始めとする車両は3割も生き残ってはいないという惨状で、満州里からハルピンへ、更に奉天、金州、大連を目指す、辛い退却行を行っている。

 他の日本陸軍の師団も、大同小異の損耗を被って、退却戦闘を繰り広げていた。


 ソ連軍は、縦深攻撃戦術に加え、作戦術を駆使して、日本軍(及び同盟国軍である満州国軍や韓国軍)を攻撃してきている。

 この猛威の前に、日本軍等は、ひたすら退却して、土地を売り渡すことで、時間を稼ぎ、戦力の消耗を迎えるしかないという有様だった。

 そういった状況から、ソ連軍は、時として1日に30キロもの快進撃を展開しており、9月初めの開戦から、僅か1月余りで満州里から綏芬河を結ぶ鉄路(旧、東清鉄道本線)を確保することに成功している。


 そのため、度重なる空襲によって、イマン鉄橋等、シベリア鉄道を数か所で寸断した効果が、具体的に上がるより前に、ソ連軍の補給路は(表向きは)確保されてしまった。

 勿論、実際に、ソ連軍が、新たな鉄路、旧、東清鉄道本線を補給路として、実際に活用しようとするならば、満州国が採用している、いわゆる標準軌から、ソ連が採用している広軌への改軌が、必要不可欠である上、これまでの戦闘の余波によって、旧東清鉄道も、シベリア鉄道と負けず劣らずの状態にまで、損傷を被っている。

 しかし、自動車化が(相対的に米国程は)進んでいないソ連にしてみれば、この東清鉄道本線の確保は、嬉しい第一目標の確保だった。

 それによって、更なる南進、遼東半島や朝鮮半島を目指した進撃、が可能になるのだ。


 こういったソ連軍の猛威に接している満州にいる日本陸軍等にしてみれば、日本空軍の大規模な来援は、干天の慈雨にも等しい存在だった。

 しかし、帝都空襲により、それが難しくなっている。

 仕方ないとはいえ、腹立たしくなるのはやむを得ない話だったのだ。 

 帝都防空に必要なのは戦闘機部隊であって、地上支援に必要な爆撃機部隊は、帝都空襲とは無縁では、と言われそうですが。

 戦闘機部隊によって、航空優勢を確保しないと、爆撃機部隊による地上支援は困難になります。

 日本空軍の戦闘機部隊の主力が、帝都防空に向けられる以上、満州の地上支援は難しくなってしまう訳です。

(更に言うなら、そもそも帝都空襲に、ソ連空軍の戦闘機部隊は随伴不能で、専ら満州等の大陸での航空優勢確保に、ソ連空軍の戦闘機部隊は、全力を投じているという現状があります。

 その差も相まって、満州の空では、日本空軍は苦戦しています。)


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