第3章ー15
とはいえ、敵機の数は数である。
帝都防衛のために(本音としては、皇居防衛の意図が強いが。)、立川と成増から、全部で60機余りが出撃した筈だが、爆撃機のみとはいえ、敵機も約100機程だ。
そして、ソ連の誇るTB-3重爆撃機は、迎撃に実際に当たっている牟田弘國大尉らの予測以上の防御銃火を放ってくる。
牟田大尉らは、悪戦苦闘をする羽目になった。
何しろ、こっちの99式戦闘機の防弾は無いも同然なのだ。
TB-3の7.7ミリ機関銃と言えど、充分な脅威に成りえた。
「1機、味方の戦闘機が火を噴きました」
「一々、言われなくても分かる」
思わず、牟田大尉は怒鳴ってしまった後で、反省した。
「済まん。感情に奔った。きちんと報告してくれ」
「アイアイサー」
最初に報告した下士官、確か山本という名だったが、ひょうげた声を挙げた。
こいつは、牟田大尉は、内心で苦笑いしながら想った。
空戦中なのに、余裕がありすぎるぞ。
とはいえ、そんな余裕が必要な時ではないだろうか、余りにも目の前しか見ていなかった気がする。
実際、冷静に見れば、TB-3は速度が遅く、低高度で侵入してきたカモに思えてくる。
確かに、TB-3の防御銃火は危険だ。
だが、それ以上に鈍重な爆撃機でもあるのだ。
TB-3が、今、皇居を爆撃するために出している時速200キロ程という(現代、1930年代末としては)低速な侵入速度は、自分達99式戦闘機が、いざとなれば時速500キロ以上を容易に発揮できることから考えると、遅い、遅すぎるレベルだ。
牟田大尉は、気を取り直して、前上方、前下方からの攻撃を、部下の列機と共に、TB-3に繰り返し行おうとした。
そして、それは決して無駄ではなかった。
「立川から、第二陣が間もなく到着します」
「こちらからも見える。何とかなりそうだ」
地上からの連絡に、牟田大尉は答えた。
立川の方から、牟田大尉が、ざっと数える限り30機程、自分達に向かってくるのが見える。
更に。
「成増からの第二陣も、出撃します。どうやら、後続の爆撃機は無いようです。今しばらく、健闘あれ、と第二陣の面々が言っています」
「了解した」
地上からの連絡に、そう返答しつつ、牟田大尉は、内心で思った。
だが、今日は、ここまでのようだな。
TB-3の集団、所属機は、爆弾を全て落とす、というより捨てて、北へ向かおうとしている。
何とか、100機余りの集団の内10機以上、20機近くは落とせたようだ。
だが、その代償として。
「まだ、機関砲弾はあるか」
「余りありません」
「自分も同様です」
牟田大尉の問いかけに、部下が口々に返答してくる。
本来なら、もっと接近して射撃すべきだった。
だが、どうしても腰が引けてしまった、そのために弾をばらまいてしまい、残弾がそう無くなっている。
そして、
「集まれ、集まれ」
万が一の無線機故障も懸念して、無線で呼びかけると共に、自分の機体をバンクさせて、中隊全機16機を集めたが、2機が欠けているようだ。
損害比率を考えれば、相撃ちと言っても過言ではない。
「新潟飛行場の戦闘機部隊が、敵爆撃機集団を追撃する。第一陣の戦闘機部隊は、着陸せよ。第二陣の戦闘機部隊は、上空警戒せよ」
「了解した」
続いての地上からの指示に、牟田大尉は、物憂げに返答した。
新潟飛行場の部隊は、96式戦闘機装備の部隊だ。
96式戦闘機の7.7ミリ2挺の豆鉄砲では、TB-3に苦戦は必至だ。
TB-3の多くは、ウラジオストク方面に逃げ帰るだろう。
こりゃ、当分、こんな戦闘をすることになりそうだな。
牟田大尉は、まだ1回目の対戦にもかかわらず、半ば達観した境地に達してしまった。
中々難しい相手と、自分達は戦う羽目になった。
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