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第3章ー6

「気持ちはよくわかる。だが、できないものはできない」

 海軍兵学校32期の同期生でもある山本五十六空軍本部長の返答は、嶋田繁太郎連合艦隊司令長官からすれば、冷たいものだった。

「我が空軍は、今、本土防空から満州の空における対地攻撃で手一杯だ。ウラジオストクへの空襲に割ける余力は絶無に近い。ウラジオストクへの攻撃は、我が空軍には無理だ」

 山本空軍本部長は、頭を下げながら、懸命に嶋田連合艦隊司令長官に説いた。


 やはり、無理か。

 嶋田連合艦隊司令長官は、顔には出さないようにしながら、内心では苦渋の表情を浮かべるしかなかった。


 1939年9月中旬、日本海軍は、ウラジオストクへの直接攻撃を検討していた。

 だが、そのための手段に苦慮していたのである。


 正確な情報を入手することは、ソ連の秘密主義もあり、まず不可能だったが、不正確な情報に基づいても、ウラジオストクへの戦艦を投入した攻撃は、ほぼ不可能、と連合艦隊司令部は判断せざるを得なかった。

 福留繁連合艦隊参謀長の言葉によれば、

「確かに、我が海軍は、世界第3位の規模を誇り、戦艦6隻をウラジオストクへの攻撃に投入できる。だが、それによって、どれ程の損失が出るか、想像できない」

 というものだった。


 ウラジオストクへの攻撃を防ぐために、これ見よがしに、ソ連は、ウラジオストク周辺に、相互支援が可能なように複数の海岸砲台兼要塞を築いていた。

 その砲台には、戦艦級の大口径要塞砲が備えられていると、日本海軍は想定せざるを得なかった。

 そして、陸上要塞と戦艦が撃ち合った場合の命中率の差を考えると。

 福留連合艦隊参謀長の言葉が、いかに最もなものかは、言わずもがなであろう。


 だから、連合艦隊司令部としては、空軍による空襲を行うことを検討し、空軍に依頼をしたのだが、冷たく断られたという次第だった。


 山本空軍本部長は、嶋田連合艦隊司令長官の気持ちを切り替えるためもあるのだろう、話を別方面にそらそうとした。

「話は変わるが、蒼龍、飛龍、雲龍の空母3隻は、無事に竣工したそうだな」

「ああ、今、懸命に航空隊の錬成に努めているところだ」

 嶋田連合艦隊司令長官は、自分の頼みが聞き入れられなかったこともあり、半ば仏頂面をして答えた。


「それなら、鳳翔以外の空母6隻を投入して、ウラジオストクに大空襲を加えるというのはどうだ」

 山本空軍本部長は、嶋田連合艦隊司令長官を唆すように言った。

「空母6隻、約400機の艦載機による大空襲だ。それなりの損害を与えられるのではないか」

 山本空軍本部長は、言葉を継いだ。

「何」

 嶋田連合艦隊司令長官は、絶句しながら、考えを巡らせた。


 そんなことは考えたことが無かったが。

 確かに、戦艦による艦砲射撃を行うよりも、ウラジオストク軍港に対する打撃効果は高そうだ。

 更に考えるなら、ソ連太平洋艦隊には、戦艦は存在しない。

 この空母6隻の部隊に、金剛級戦艦2隻を護衛につければ、対水上艦戦闘に、もし、この空母部隊が巻き込まれても、圧倒できるだろう。

 そして、戦艦部隊は、ソ連太平洋艦隊の潜水艦に対しては、役に立たず、無聊をかこっている身だ。

 空母部隊の護衛という、本来の戦艦部隊の任務からすれば、不本意な任務ではあるが、動かずにいて、無駄飯食らいの汚名を、戦艦部隊が被りかねない状況にあることを考えれば、任務があるだけマシだとも言える。


「良いことを言ってくれるじゃないか」

 嶋田連合艦隊司令長官は、山本空軍本部長に対して、かつての海軍兵学校の同級生時代のような言葉をかけた。

「連合艦隊司令部で、よく検討してみよう。確かに検討の価値はある」

 嶋田連合艦隊司令長官は、機嫌を直して、空軍本部から辞去した。

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