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第3章ー4

 この1939年9月当時、日本陸軍は、(通称)99式中戦車(正式名称は、97式中戦車改)の量産を、正式に開始したばかりの頃だった。

 やや遅れて、正式量産が開始される零式重戦車よりは劣るものの、最大装甲を誇る砲塔正面は傾斜80ミリ、砲塔側面、後面は25ミリ等、日本軍戦車伝統の重装甲を持ち、主砲は47ミリ長砲身という、ソ連軍のBT-7戦車やT-26軽戦車に優越する戦車ではあった。

 機動力にしても、約24トンの重量に比して、双子エンジンという無理を重ねたものではあるが、カタログ上は400馬力のエンジンを搭載しており(実際の戦場においては、カタログ上のスペックを、中々出せておらず、実際に乗った兵士の回想録の多くによると、実際には350馬力余りしか出せなかった、という。)、かなりの高速を発揮できた。


 だが、生憎と、この時には、満州には1両も、99式中戦車は存在しなかった。

 そのため、それ以前の戦車を主体にして、日本軍は戦わざるを得なかった。

 しかし、それらの戦車も、決して、ソ連軍の戦車に引けを取らないものではあった。


 当時、満州に存在していた日本軍の戦車は、全部で300両程であり、内100両程が、新型の97式中戦車であり、残りが89式中戦車だった。

 共に主砲は57ミリ短砲身であり、対戦車戦闘において、不安があるのは否定できない話だった。

 だが、装甲は、共に重装甲(砲塔正面のみなら、共に傾斜80ミリ)であり、ソ連軍のBT-7戦車やT-26軽戦車に搭載されている、45ミリの主砲では、正面からでは、撃ち抜くことは不可能と言っても過言ではない存在だった。


 更に多くの戦車が、現地改造等までも施されていた。

 中国内戦時に威力を発揮した口径12.7ミリのM2重機関銃を、正式搭載している97式中戦車のみならず、多くの89式中戦車までが、現地改造されて搭載されていたのである。

 更に、ほとんどの戦車には無線機が搭載されており、密接な連携行動が可能になっていた。

 このために、少数の戦車であっても、ソ連軍の戦車に対し、日本軍の戦車は、優位に戦闘を行うことが可能だったのである。


 島田豊作大尉は、額から噴き出てくる汗を拭う時間さえ、惜しい気分だった。

「敵戦車に側面を、絶対に晒すな。正面を向けろ。正面からなら、敵戦車は、味方の戦車を破壊できない」

 喉頭マイクと、無線機の組み合わせで、騒音が響く戦車の中でも、何とか部下への指示が通じるのが、自分にとっての頼みの綱だった。

 無茶を言うな、というのが、本音だが、出来なかったら、自分も部下も死ぬ。


 ソ連軍が、満州(韓国)侵攻に投入した戦車だが、全部合わせてだが、3000両近いという話だった。

 つまり、日本軍の戦車は2割に満たないどころか、1割を超えるのがやっとだ。

 満州国軍や韓国軍が、戦車を保有していない訳ではないが、第一次世界大戦の遺物のホイペットやルノー戦車を、日本軍からお下がりでもらっているのが、ほとんどで、こんな戦場で役立つ訳がない。


「重機関銃の点射で、敵戦車2両の破壊に成功。敵戦車部隊は、一旦、後退する模様です」

 部下の小隊長から報告が届く。

「よし、こちらも下がるぞ」

 島田大尉は、何とか額の汗を拭いて、部下達に命令を下した。


 この満州にいる師団としては、最強級の第5師団だが、最初から、戦車は1個大隊54両しかない。

 最初に駐屯していた満州里から、大興安嶺を越えて、ハルピンへ、更に奉天、金州方面へと後退戦闘を続けるには、心もとない戦力だ。

 島田大尉は、その中の第1中隊長として、懸命の抗戦を続けていた。

「何とかハルピンまでは、部下と後退したいが」

 島田大尉の、せめてもの願いだった。 

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