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第2章ー12

 10月中には、ワルシャワは陥落しなかった。

 フォン=ボック大将の名指揮の下、一致団結したポーランド首都防衛軍は、独軍を苦戦させた。

 僅か50人にも満たない民兵が、独歩兵1個大隊の猛攻を、丸1日以上、阻止することもあった。

 ワルシャワ市民は、独軍兵士の遺体から奪った武器まで使って、武装抵抗を続けた。

 そして、お互いに顔の見える戦闘は、最前線の独軍兵士の士気等にまで、影響を及ぼすようになった。


「あのワルシャワ攻防戦の日々は、悪夢だった。

 戦友の遺体だ、と想って、内心で悲しみに暮れていたら、いきなりその遺体が爆発し、自分は大怪我をし、分隊長が消し飛んだことがあった。

 正確な原因は分からないが、ポーランド兵が、手榴弾か何かを使った時限爆弾を、独兵の遺体に仕掛け、爆発させたのだと思う。

 ある時は、独軍の兵士から剥いだ軍服を着たワルシャワ市民が、自爆攻撃を仕掛けてきた、と仲間の兵士の何人もが、そう言っていたのを聞いている。

 そんなことを聞いていては、味方の軍服を着た人間だから、と言って、油断すること等、自分には思いもよらない。

 自分が知らない人間である以上、独軍の軍服を着た人間と言えど、全て銃弾を浴びせ、動かなくなった上で、本当に独軍の兵士なのか、確認するのが、当然だ。

 自分が知らない人間である以上、死んだ人間でないと信用できるものか。

 自分と同じ部隊にいた全ての仲間が、自分に同意するだろう。

 実際、仲間たちも同じことをやっていた。

 何で自分だけ、こんなところに入れられるのだ」

 ワルシャワ攻防戦終了後、戦闘による精神錯乱と診断され、精神病院に強制入院させられた、ある独軍兵士の宣誓供述書の一節。


 戦場の狂気に触れた独軍兵士は、容赦なく、老人や女性、子どもであっても、ワルシャワ市民に対して、銃口を向け、殺害していった。

 一部の上官が、それを止めようとしたが、多くの兵士が、その命令を拒否した。

 何しろ、多くのワルシャワ市民が、武装して抵抗しているのだ。

 独軍兵士にしてみれば、これくらい当然の報復だった。


 こういった行為は、ワルシャワ市民の多くからの、どうせ殺されるならば、という激しい抵抗を招いた。

 それに、ワルシャワの街並みは、ことごとく独軍の容赦ない砲爆撃等で潰されていっているのだ。

 ワルシャワ攻防戦が終結した際、ワルシャワから全ての文化的遺産が消え失せていた。

 全ての建造物等は瓦礫の山となり、ワルシャワ市内にあった貴重な文書等は全て燃え尽きていた。

 そういえば、どれだけの破壊行為が行われたのか、想像できると思う。


 こういったワルシャワへの独軍の攻撃に対し、日本を始めとした米英仏等の各国政府は、ワルシャワ市民の無差別殺人等は、戦争犯罪だと非難したが、独政府はその非難に対し反論した。

 それなら、ワルシャワ市民は、武装抵抗を止め、独に無条件降伏するのが当然だ、と主張したのだ。

 ルントシュテット元帥等、独陸軍の将帥も、この件に関しては、この時、沈黙を守った。

 第二次世界大戦終結後、この時のワルシャワ市民の抵抗に伴う戦争犯罪については、大論争が巻き起こることになる。


 ともかく、10月が終わり、11月になっても、ワルシャワが完全陥落しなかったのは確かだった。

 フォン=ボック大将以下、ポーランド首都防衛軍は、文字通り既に壊滅したと言っても過言ではない状況に陥ってはいたが、まだ指揮系統は維持されており、ワルシャワ市民と一体となって、独軍の猛攻に対する抵抗を続けてはいた。

 銃弾が尽きれば、銃剣やスコップを振るい、死傷した独軍兵士から奪った武器まで、フルに活用して抵抗を続けるポーランド兵やワルシャワ市民は、独軍からすれば悪魔だった。

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