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第2章ー11

 最終的にワルシャワ攻防戦には、グデーリアンらの懸命の反対にも関わらず、装甲師団まで投入された。

 市街戦に戦車部隊を投入するのは愚策だ、とグデーリアンらは主張したが、ポーランド軍戦車部隊が、ワルシャワ防衛で活躍しているとの前線からの報告を聞きつけたヒトラーの特命により独陸軍総司令部が、そのような決断を下したのである。

 それに独陸軍の兵力が不足気味になったのもあった。


「この至近距離で、一連射を浴びせて逃げる。小銃射撃等、怖くないが、撃ったら、すぐ逃げるからな」

 9月27日の朝、ポーランド製のTKS豆戦車に乗り込んだエデルマン中尉は、相棒のレイキン軍曹に、そう命じた。

「こいつは、20ミリ機関砲装備ですからね。独の戦車でも壊せますが、装甲は紙ですからな。対戦車銃の銃弾1発で抜かれちまう」

 レイキン軍曹の口調は、どこか楽しげだった。


 エデルマン中尉も、レイキン軍曹も、ワルシャワ生まれで、この辺りなら、目をつぶっていても、豆戦車を操縦できるくらいだった。

 今、その道路知識を活用して、脇道、裏道を駆使し、独戦車部隊を翻弄していた。

 ワルシャワ攻防戦が、始まってから10日以上が経過しており、多くのポーランド戦車部隊の兵士が、既に散っている。

 エデルマン中尉も、レイキン軍曹も、もうすぐ戦友の後を追うだろう、と覚悟を決めた身だった。


「生き残っても、ドイツの奴らに殺されるでしょうし。少しでも、ドイツの奴らを殺してから逝きますか」

「その通りだな。軍曹。それに、ポーランドの最新鋭戦車に乗れて死ねる。ポーランド軍の戦車乗りとしてみれば、最高の棺だと思わんか」 

「はは。確かにそうですな」

 エデルマン中尉も、レイキン軍曹も、ユダヤ系ポーランド人だった。

 独軍の捕虜となった場合、殺されるだけ、とも考えている。


 エデルマン中尉らの襲撃は、成功した。

 後方に回り込んでの射撃で、2号戦車3台を破壊できたのだ。

 だが、報復としてなされた、この辺り一帯に対する独軍の重砲の砲弾の雨により、エデルマン中尉の操るTKS豆戦車は大破、エデルマン中尉らも戦死した。

 TKS豆戦車は、エデルマン中尉らの棺の役も、エデルマン中尉の言葉通りに務めたのだった。


 こういったポーランド戦車兵の奮闘は、グデーリアンらの反論を弱めるものだった。

 このため、独装甲師団は、慣れない市街戦に投入され、高い代償を払うことになった。


 10月に入ったが、フォン=ボック大将の指揮の下、ワルシャワは落ちていなかった。

 少しでも抗戦できるようにと、リッツ=シミグウィ元帥は、首都防衛軍の為に、大量の武器弾薬をかき集めて、残していたのである。

 そのため、民兵隊に志願したワルシャワ市民全員が、銃で武装できた程だった。

 武装したワルシャワ市民30万人余りが加わった、首都防衛軍は、善戦を繰り返しており、延べにしてだが、独軍約30個師団が、ワルシャワ攻略に投入される羽目になっていた。


 このワルシャワ市民らの尊い犠牲は無駄ではなかった。

 ワルシャワ攻略に部隊を集めねばならなくなった独軍は、ポーランドからの脱出を図るポーランド軍の充分な追撃が出来なかったからである。

 ソ連軍も、極東情勢の問題(日本の参戦)に、スターリンが力を注いだことから、ポーランド軍を熱心に追撃したとはいえなかった。


 こうしたことによって、リッツ=シミグウィ元帥やレヴィンスキー中将ら、ポーランド軍の多くの将兵がルーマニア等へ脱出、亡命することができ、自由ポーランド軍を編制することができたのである。

 彼らは、その後、第二次世界大戦で連合軍の一翼を担うことになった。

 そして、パリにポーランド政府は亡命政府を樹立することもできたのだ。

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